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僕と俺の異世界漫遊記  作者: P・W
第二部 建国と変貌編
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第71話  不思議な夢と僕の変質(2)


 再び田宮翔太は夢を見る。それは妙にリアルだが非現実的な夢。全く身に覚えのない不可思議な夢。さあ、今日も楽しもう(・・・・)。この愛しくも懐かしい夢を。この愛する夢がゆっくりと崩壊していく様を……。





 翔太が小学校に入学して2か月が過ぎた。翔太のクラスには狙ったように奇人変人しかいない。

 まず、木偶の坊――赤城大輔(あかぎだいすけ)。赤城の幼稚園からの親友の坂上卓也(さかうえたくや)。教室ではまさにジャイ〇ンの名にふさわしい素晴らしい圧政を引いている。翔太は此奴等をエセジャイ〇ンとエセス〇夫と呼んでいる。赤城をジャイ〇ンと呼ぶには完全に名前負けだ。ジャイ〇ンに申し訳ない。だからエセなのである。

 ドラ〇もんで言えば、しず〇ちゃん的存在だろう。無論、蒼ではない。蒼は、暴力的過ぎてドラ〇もんのキャラクターには当てはめられない。

志賀神奈(しがかんな)――ポニーテールが似合う可愛らしい少女だ。此奴もエセである。エセが付く理由は、性格があり得ない程ねじ曲がっているから。外見こそ可愛らしいが男共を手玉に取る悪女だ。男は神奈に尽くすのが当然という意味不明な思想を持っている。 

 しかも、やたら世間体が良い奴で、教師や親たちのうけは抜群だ。苦手者リストの1人である。

 最後が、の〇太――渡辺和義(わたなべかずよし)だ。勿論、エセの〇太だ。の〇太は熱い男だが、此奴は姑息で汚い最悪な奴だ。強いものには媚を売り、弱いものには威張り散らす。こういう奴は、翔太は生理的にムリだ。偶に赤城(あかぎ)にいびられているところを見かけるが助ける気力がわかない。


 こうして2か月を無難に過ごしたわけであるが、翔太はクラスから完璧に浮いてしまったようだ。別に無視されているわけでもない。話かければちゃんと返ってくる。ただ、存在感がやたらとないだけなのである。所謂空気のような存在だろうか。翔太にはこの空気のように扱われる事がこの上なく心地よかった。目立つのは性にあわないのである。

 

 授業が終われば、直ぐに午後の鍛練が待っている。蒼もピアノのレッスンらしく逃げる用意をしていたが、校門前に黒塗りの車が止まっているのを見て諦めてドナドナと去っていった。


 いつものように一人で家への帰路に着く。昇降口で下履きの靴へと履き替え、校門へ向かう。すると校門前にまた〇○がいた。あれほど来るなと言ったのに! 交通事故にでもあったらどうするつもりなのだろうか。また家に帰ったら説教だ。何度説教してもいつも〇○は全く聞いていない。大抵説教の途中で眠ってしまうのが関の山だ。

 だが、今日は少し様子がおかしい。〇○の前には赤城と坂上がいた。〇○は今にも泣きそうだ。


「お兄ちゃん!」


 翔太が目に入ると、嬉しそうに顔を輝かせ翔太の後ろに隠れその服にしがみ付く。


「田宮ぁ。そいつお前の妹か?」


 〇〇の怯えようから脅されていたのだろう。今後もある。〇〇に危害を加えられては困る。軽くシメておこう。怪我を負わせなければ、少し痛い目に合わせて問題ないだろう。


「そうだよ」


 翔太は乾いた笑みを一面に張り付けながら、赤城と坂上にゆっくりと近づく。


「お、おい――」


 翔太の異様さに恐怖を覚えたのか二人とも後退り始めるが、逃がすつもりはない。高速で接近し、胸倉を掴み持ち上げる。


「離せ! 離せよ――ひっ……」


 翔太の殺意のたっぷり籠った視線を向けられ、赤城も坂上も一言も話せなくなった。


「あの子は僕の妹だ。危害を加えることは一切認めない。もし、仕返しをしようなどと考えたら……わかるよねぇ?」


 赤城と坂上は大きくブンブンと何度も頷く。ドサッと地面に落すとゴホッ、ゴホッと咳き込みながら、翔太を見上げ、蒼ざめてわなわなと震えている。もうこの木偶共には〇〇に危害を加えることは出来まい。

 満足げに〇〇の手を引き、歩き出す。〇〇は翔太が赤城達を脅した事に大層不満らしい。脅した事そのものよりも、翔太が一時的にせよ怖くなる事が許せないらしい。いつもは歌を歌うのに今日は終始無言であった。今日幼稚園はどうだったのかと尋ねてもツンとそっぽを向いてしまう。

 だが、今日の赤城達への行為は当然だと翔太は思っている。あのような、身の程知らずが、実際には一番危険なのだ。自らを強いと勘違いして、簡単に他者を傷つける。だから今の内、恐怖を骨の髄まで教え込む必要がある。

 田宮邸についた。玄関でいつものように〇〇を抱きしめ、右手で後頭部を優しく撫でてやる。『きゅう』という小動物のような可愛らしい声を上げて、〇〇は翔太にしがみ付いて来る。顔一面に満悦らしい笑みが浮かべている〇〇の様子から、どうやら機嫌は戻ったらしい。単純で助かる。

 〇〇はしがみ付いたままで、翔太から離れようとしない。仕方ないので、このまま〇〇の温もりを堪能する事にする。〇〇はまるで魔法のように翔太の心を癒し――。


               ◆

               ◆

               ◆


 幸せの夢が崩れ出す。太陽に燦々と照り付けられる雪解けの雪だるまのように、徐々に溶けて消えてゆく。幸せが消えて行く。


 だが、翔太は痛まない。幸せが消えたくらいで今の翔太は痛まない。痛まないから、冷静でいられる。昨日以上に冷静でいられる。冷静に憎悪を滾らせながらも、夢を分析できる。


(とうとう、赤城、坂上、志賀さんまで出て来たよ。奴らと同じ小学校だった記憶はない。

 これで、この夢が荒唐無稽である事が判明した。夢が妙にリアルなのも上昇した【知能】のせいだろう。理由が判明して多少安心したよ。あとは〇○の存在の謎だけか……)


 ゆっくりと瞼を開ける。悪魔っ子――メリュジーヌの心配そうな視線が飛び込んで来る。頭がフリーズし、言葉もなくメリュジーヌを見つめていると、何を勘違いしたのかその顔に恥じらいがかすめる。

 メリュジーヌは翔太の右腕を腕枕にして、翔太に身体を密着させている。


「君、冥界に帰ったんじゃないの?」


「最後に主様に挨拶してからお暇しようと思ったのですが、部屋にいらっしゃらないので、探しマシタ。すると、大きな屋敷で寝かされていたので、ここまで運んできまシタ」


(大きな屋敷? また夢遊病か……あの不思議な夢を見ながら歩いている時に知り合いに保護されたとみるべきかな。大きな屋敷というとオットーさんだろうね。後で御礼を言っておこう)


「そう。ありがとう。じゃあ、もう帰っていいよ」


 翔太の素っ気無い言葉にメリュジーヌは顔が悲しげに曇らせながらさらに翔太に抱き付いてきた。


「……主様、お願いがありマス」


「お願い? 何?」


「あちきともう一度契約してくだサイ」


「契約と言われても僕は君にしてほしい事なんてないよ」


「何でも致しマス。お願いしマス」


 メリュジーヌの必死な形相でせがむ様子に面食らいながらも身体を引き離す。正直メリュジーヌにできて翔太にできない事など想像がつかない。


「ごめん。やっぱり、帰って」


 翔太がベッドから起き上がろうとすると、メリュジーヌに押し倒された。暫し、呆気にとられて覆いかぶさるメリュジーヌを見上げていた。

 力ずくで引き離すのは容易いが、彼女の意図が明確になってからでも遅くはない。メリュジーヌがこれほど契約を迫るのは翔太からの魔力を得る事だろう。だが、魔力はもう十分すぎる程与えたはずだ。その結果、進化は成され、以前とは比べられない程の力をメリュジーヌは獲得している。これ以上望むのは聊か欲が深いというものだろう。

 翔太がメリュジーヌの意図について尋ねようとすると唇が押し付けられる。だが、勢いが強すぎて歯と歯がぶつかるほどで色気など全く感じられない。経験など皆無と思われるこの悪魔っ子からすると一大決心だったのだろう。顔は燃えるように真っ赤になっている。翔太は大きなため息をつくと、逆にメリュジーヌをベッドに押し倒し覆いかぶさった。メリュジーヌの意図は不明だが、相手が望んでいるなら拒む理由もない。この様な思考、以前の翔太なら考えられない。強烈な忌避感から決してしなかった思考だ。やはり、翔太はすでに変質してしまっているのかもしれない。

 メリュジーヌのピンク色の小さな唇に優しく翔太の唇を押し付ける。メリュジーヌの柔らかな暖かな唇の感触が、その切なそうな表情が翔太を勢いづける。何度も唇を離し、再び合わせる。徐々にキスは激しいものに変わっていく。口内へ翔太の舌が入り込み、メリュジーヌの舌に絡み合う。ビクンッとメリュジーヌは身体を僅かに震わせた。構わず、翔太はメリュジーヌの唇を奪う。メリュジーヌも翔太を求めてくる。

 メリュジーヌの幸せそう顔が網膜に映し出され、翔太の先ほどまであったどす黒い暗い感情が霧散していく。その代わりに生じた僅かな感情とともに……。


               ◆

               ◆

               ◆


 メリュジーヌは翔太の右手を腕枕に寝息を立てている。まさか死ぬほど憎んでいる悪魔を抱くとは思わなかった。だが、思ったよりも後悔はしていない。今朝の夢は自分で思っていた以上に理性を弾け飛ばしていたらしい。気付かぬうちに憎悪に塗り固められていた。それもメリュジーヌのおかげで不自然なくらい静まっている。メリュジーヌには借りができた。また、契約で魔力をやっても良いだろう。

 時間はわからない。だが日の登り方からも午前8時過ぎか。今日はフィオン、レイナ、ディートと約束した魔の森深域探索がある。昨日別れ際に午前10時にニュクスの商業都市――ケーリュケイオンで待ち合わせの約束をした。

 レイナが商業都市――ケーリュケイオンのホテルに泊まりたいと駄々をこねたからだ。別段否定する理由もないのでフィオン達はケーリュケイオンに一泊する事と相成った。そいう理由で、ニュクスの商業都市――ケーリュケイオンの入口が待ち合わせ場所となったのである。

 メリュジーヌを起さないようにベッドから立ち上がり、服に着替える。この頃お湯を浴びるだけだった。シャワーを浴びたい。昨日眺めたケーリュケイオンのパンフレットには銭湯があるとあった。少し時間より早めにケーリュケイオンに行って銭湯にでも浸かるとしよう。


「おはヨ。主様」


 毛布で身体を隠しながら、恥ずかしそうに顔を赤らめるメリュジーヌ。もう散々翔太に見られた。今更隠すまでもないだろうに……。


「僕はもう行くよ。君はどうする?」


「あちきと契約を……契約しないと、あちきもうこの世界にいれナイ」


 たどたどしく言葉を発するメリュジーヌに答えず、スキル《悪魔契約》を発動させる。

 空中へ浮かぶ羊皮紙を見て、メリュジーヌは、よほど嬉しいのか目が涙にぬれる。翔太の周りはどうしてこうオーバーリアクションの者が多いのだろうか。その事実にウンザリしながら、契約内容について考える。

 『翔太の後に付いて来い』でもよいが、メリュジーヌには借りがある。厄介者扱いはできない。

 今の翔太のステータスはかなりのものだ。加えて、今のメリュジーヌはかなりの強さがある。これ以上の力は不要だろうし、後々翔太の首を絞める結果になるかもしれない。【魔力】の4分の1でよいだろう。


「じゃあ、僕の契約内容は、『田宮翔太の魔力の4分の1を与える』と『メリュジーヌは今日1日田宮翔太を守れ』だ。それでいい?」


「はイ! それがいいいデス」


 思わず万歳と言ってしまいそうな勢いで、メリュジーヌは答える。譲渡を受ける魔力の量などどうでもよい様子だ。

 羊皮紙に契約内容を魔力によって刻み込み、効力を発生させる。翔太とメリュジーヌを眩い光が包み込む。これで、契約完了だ。


「じゃあ取り敢えず集合場所まで行こう。早く着替えてよ」


「わかりまシタ」


 メリュジーヌは昨日の様な下着に黒のミニスカートの胸元が開いたドレスと同じく黒色の太腿まで伸びる長いブーツを履き、帽子をかぶっている。勿論、着替え中視線は外していた。本当だ。いやマジで本当だって――。

 メリュジーヌは可愛らしい魔女っ娘の外観をしており、やたらと目立つ。翔太は現在ヴァージルとの仲が問題視されており、この上、この魔女まで侍らせていたら、更なる厄介ごとに巻き込まれかねない。一応、姿を消すようにいうとメリュジーヌは渋々従った。



 お読みいただきありがとうございます。

 

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