第66話 カヴァデール店の利益に貢献しよう
ギルドハウスを出ると、メリュジーヌが即座に姿を現し話かけて来た。只でさえ翔太は目立っている。あまり非常識な事はしてほしくはない。そう自分の事を棚にあげつつ、メリュジーヌに何の感情を籠っていない視線を向ける。
「主様。あの人間の女とはどのような関係デ?」
「君には関係ない」
実にくだらない事を聞くメリュジーヌを置いてエルドベルグの武器・防具屋――カヴァデール店へ向かう。
カヴァデール店は相も変らず、凄まじい列ができている。列は以前みたよりさらに長くなっている気もする。
メリュジーヌに姿を再び消すように命じ、中に入るとこの間雇った人間族と獣人のお姉さん達が額に玉の様な汗を流しながらも接客をしていた。連日馬車馬のように働き心身共に疲れているはずなのに、その顔は充実感に満ち溢れていた。これだけ働いているのだ。給与は破格なのだろう。受付のお姉さんは翔太を見ると、直ぐに察して奥の部屋へ入って行った。
ディヴが奥の部屋から転がり込むように飛び出して来て、会心の笑顔を見せる。
「ショウタさん。よく来てくれたよ。連日凄まじい売上でねぇ。明日で在庫が切らしそうなんだ。新しい武具、作ってくれたらありがたいよ」
今日はやる事がてんこ盛りだが、一昨日に手伝うと言っておきながら結局手伝わなかった手前、今日は睡眠時間を削ってもカヴァデール店の利益に貢献しなければならない。
「了解です。すぐに作成します。
ニュクスへの支店の開設は順調に進んでいます。明日お暇なら、ニュクスのカヴァデール店支店にご案内しますよ」
「暇だよ。暇。全くの暇さ。是非見学させてもらうよ」
ディヴの暇という言葉に、受付のお姉さん達が非難がましい視線を向けるがそれに気付きもしない程に目が興奮に輝いている。
「では明日の夕方迎えに来ますね。あと今日は防具の【超越級】を造ろうと思っています」
「ついに防具の【超越級】を! くうぅ~! 親方にも見せたかったなぁ。もうそろそろ帰って来てもいい頃なんだけど……」
「ガルトさんが帰ってきたらまた忙しくなりますね。それでは僕、ちゃっちゃと取り掛かります」
「僕も見せてもらうよ。今日のため両方の工房ともしっかりと整備しておいたよ」
ディヴのイケイケドンドンぶりに当てられ翔太もテンションが次第に上がってくる。
「ありがとうございます!」
まずは、旧ガルト工房で売り物用の武器と防具を造る事にしよう。ディヴが直前まで使っていたらしく、炉には炎が灯り、加工台も綺麗に整備されていた。準備は万端だ。
カヴァデール店の目玉商品である【特質級レベル2】の【ロングソード】を4本、【ショートソード】を4本作ったが、その作成速度は《鍛冶》スキルの時の比ではなくあっという間に完成した。この非現実的な完成速度は、時間等に干渉しているのかもしれない。ディヴはその出鱈目な完成速度にポカンと大口を開けていた。
《錬金術》の等級があがったので、スキル《解析》を発動する。
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スキル
《錬金術(第2級)》
■説明:適切な素材を用いれば超越級レベル4までのありとあらゆる武器、防具、魔道具を作り出すことができる。
■叡智:
金属、素材から作成できる超越級までの武器、防具、魔道具を検索できる。
特定の性能をもつ超越級までの武器、防具、魔道具を作るのに必要な素材を検索可能。超越級までなら武器、防具、魔道具のクラスとレベルを識別可能。
武具作成、魔道具作成の最適な方法を導きだすことにより作成速度が10倍化。
武具作成、魔道具作成による完成度の差異を限りなく零にする。
※用いた材料の種類で作成可能な最高の完成度に肯定する。
■【能力発現支配】解放
■【金属素材変換】解放
■【金属素材創造】解放
■クラス:超越級
■必要使用回数: 0/16
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(【能力発現支配】、【金属素材変換】、【金属素材創造】が新しい能力だ。各能力を詳しく見ていこう)
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【能力発現支配】解放
■作成される武具、アイテムの能力は一定の限度でコントロールが可能。
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(僕が作成する武具には余計いらない能力が多々あった。例えば、【憤怒】の【□□切断30%解放】、【重力操作30%解放】、【温度操作30%解放】などスキルで代用できる以上全くいらない。そのようないらない能力を削り、その分いる能力にエネルギーを割り当てる事ができる。途轍もなく使える能力だろう)
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【金属素材変換】解放
■いかなる金属、素材でも、魔力を通して形態・性質を自由に変化させることが可能となる。
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(【金属素材変換】により、今まで魔道具作成にしか用いられなかった【金属素材変形・融合・能力発現化】が武具にも用いる事ができるようになった。これにより僕の魔力で炉を用いなくても金属の形を変え、性質を発現する事ができる。でもさ。これもう鍛冶じゃないよね)
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【金属素材創造】解放
■様々な金属・素材を自らの魔力を用いて作成することができる。
※作成できる金属、素材は魔力と才能により異なる。
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(もっとふざけているのが、【金属素材創造】だ。この能力を獲得した結果、僕の魔力で金属と素材を自在に作る事ができるようになった。これは魔の森深域でラシェルの武具の素材を集める必要性が必ずしも高くないことを意味する。
だけどこの【金属素材創造】も万能ではない。僕の魔力で鉄を作ると伝説の金属と同クラスの性質をもつ鉄ができてしまうらしく、ほぼすべてが【超越級】になる。要は、売り物には全く使えないという事だ。
まあラシェル、フィオン、レイナの武具を作るのにはこの上なく使える能力だよ)
気を取り直して、【金属素材変換】の能力を用いて、鉄をこねくりまわしロングソードとショートソードを作っていく。火を扱わない分さらに速度が上がったようだ。ディヴは呆然と翔太の現実離れした行為を眺めている。
あっという間に【特質級レベル2】の【ロングソード】50本、【ショートソード】50本を作成する。
今なら鎧や盾も極めて短時間で作成可能だ。間髪入れずに、レベル1とレベル2の【特質級】の【プレートメイル】と【鉄の盾】の作成に取り掛かる。様々なデザインとサイズの【プレートメイル】と【鉄の盾】を作っていく。【金属素材変換】の能力は本当に途轍もない。翔太が金属に触り魔力を通すだけで瞬時に翔太の意思通りに姿を変える。翔太がゲームで見た鎧や盾が現実に具現化したかのような錯覚を覚える程の精度だ。
レベル1【特質級】の【プレートメイル】と【鉄の盾】が各30、レベル2【特質級】の【プレートメイル】と【鉄の盾】各40が瞬く間に完成した。
前回作成したものとは数もその完成度も比べられない。満足の行くものといえるだろう。
法悦の笑みを浮かべていると、ディヴが面食らいながらも躊躇いがちに尋ねて来る。
「ショウタさん。今のは一体? 炉と槌を使わず触れるだけで金属を変性させていたけど……」
「僕のスキル《錬金術》の【金属素材変換】の能力です。金属に触れ魔力を通すだけで、僕の意思通りの形と性質を発現する事ができるみたいです。勿論、発現できるのはその金属が発現可能な性質のみですが」
「れ、れ、れ、錬金術ッ!? ショウタさんは、《錬金術》のスキルを持っていたの?」
ディヴは驚愕で肩をぶるっと震わせながら、翔太の両肩を持ってガクンガクンと揺らす。
「持っていたというより最近獲得しました」
「最近……獲得……した?」
無表情無言となって、ディヴは思考の海に呑まれてしまった。
《錬金術》はゲームでも小説でも極めてメジャーなジョブであり、大抵そこまで希少なものではない。所持していたとしても驚くに値はしないはずだ。だが、ディヴがこれほど動揺するということは、王国でも数人しかいないなどといういつものテンプレ的展開だろうか。
その手のテンプレはいい加減もうお腹一杯である。げんなりした顔でディヴに尋ねる。
「ひょっとして、この《錬金術》って希少だったりするんですか?」
「希少も何も、神話やお伽話の中だけに出て来る現実には存在しないと言われているスキルだよ。かの『発明王』でさえも、《魔道具作成術》のエキスパートに過ぎず、《錬金術》のスキルを取得しているわけじゃない」
「現実には存在しない? いや、いや、現に存在してますって!」
翔太の絶叫を無視してディヴは顔が火の出るように上気させながら勝手に説明し始める。
「神話では《錬金術》を使えるのは超越神――創造と芸術と鍛冶の神ヘルメスのみ。
確かに、神話やお伽話ではヘルメス神が金属に触れるだけで金属は様々に姿を変えるとあるんだ。まさかと思うけど、金属を生み出したりできたりする?」
(ヘルメス? 地球の神話では、ヘルメスはオリュンポス十二神の一人。大神ゼウスの使いであり、旅人、商人などの守護神だったよね。途轍もなく偉い神様であることは間違いないけど、超越神とはまた違うような……)
「はあ。【金属素材創造】のことですか」
【金属素材創造】の能力を発動し魔力を掌に集め、オリハルコンを生成する。翔太の掌に光り輝く金属の塊が突如として出現する。
「こ、この金属は――やはり《錬金術》。ショウタさん。貴方は……」
ディヴはヨロヨロと翔太の掌からオリハルコンを小刻みに震える手で掴みとると様々な角度から眺め廻す。
遂に化物でも見る様な視線をディヴは向けてくるので慌てて取り繕う。
「ま、まあ、偶々ですよ。人生にはこういう事もありますよ」
自分でも訳の分からない言い訳をしつつ、この気不味い空気を吹き飛ばす道を模索する。幸運にもディヴは全身を脂汗でべったりと濡らしつつ、自分の世界に埋没している。この分では当分帰っては来ないだろう。
《錬金術》はこの世界ではとんでもないスキルらしい。少し考えれば、《鍛冶》と《魔道具作成術》の各スキルを深淵級まで上げないと進化出来ないスキルだ。まともなスキルのはずもない。伝説級すら殆どいない人間種には上げるのは不可能といえる。
そう考えれば神話やお伽話だけの話になっていてもおかしくはないスキルだ。
兎も角、自らの能力の把握は極めて重要だろう。幾つか、等級が上がったのは間違いないし、スキル《解析》を使う事にしよう。
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スキル
《錬金術(第6級――神級)》
■説明:適切な素材を用いれば超越級レベル4までのありとあらゆる武器、防具、魔道具を作り出すことができる。
■叡智:
金属、素材から作成できる超越級までの武器、防具、魔道具を検索できる。
特定の性能をもつ超越級までの武器、防具、魔道具を作るのに必要な素材を検索可能。超越級までなら武器、防具、魔道具のクラスとレベルを識別可能。
■【能力発現支配】解放
■【金属素材変換】解放
■【金属素材創造】解放
■【エリクサー創造】解放
■【完全なる制御】50%解放
■【神速創造】解放
■クラス:超越級
■必要使用回数: 0/256
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【エリクサー創造】解放
■【魔力】と【体力】を用いてエリクサーを創造する。魂がその場にある限り、例え死んでいても生き返らせ、ありとあらゆる病、怪我、バットステータスを全快する万能の妙薬
※ただし、死んだ場合魂がその場にある時間である10分を過ぎると使用不可となる。
※脳か心臓がなければ全快は不可能である。
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【完全なる制御】50%解放
■武器・防具、魔道具のクラスとレベルを自在に制御可能。
※ただし、超越級までしか制御できない。
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【神速創造】解放
■神速の武具・魔道具作成。時を支配し、一瞬で武具・魔道具を作成する。
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(ふ――ざけんなぁ!! 【エリクサー創造】? 遅いんだよ! 遅すぎんだよ! これがあればジャンを救えたのに。僕は……僕はぁぁ――)
自らのタイミングの悪さにはらわたの煮え返るような怒りを覚える。殺しても殺したりないくらい自分自身が憎い。目の前に自分がいれば確実に全殺しにしている自信はある。
湧き上がる憤怒と憎悪を必死に抑えながら、思考を回転させる。ここで怒り狂っていても時間の無駄だ。
(まず、一つ判明した事がある。【金属素材創造】を用いてもスキル使用回数にカウントされないということ。あくまで、武具や魔道具を作ることでカウントされるんだろう。
【完全なる制御】ね。等級の制御に四苦八苦している今の現状がこの能力により解決されると理解してよいのかな。試してみるべきだね)
【金属素材創造】を用いて、掌に魔力を集め、鉄の塊を出現させる。【完全なる制御】の能力の取得前はすべて、【超越級】レベル2になると予測されていた。だが、翔太が【下級】のレベル1の【鉄の剣】を造る意思で、【金属素材変換】を発動し、剣を生成すると、瞬時に【下級】のレベル1の剣ができた。次に、掌に出現させた鉄の塊で、【超越級】レベル4の武器を造ろうとしたが、作れたのは【超越級】レベル2の【村正】だった。
結論としては、その金属で作れる最大のクラスのものまでは自由にクラスとレベルが制御可能と言う事だ。これは、凄まじく有用な能力だろう。
最後に【神速創造】の実験だ。【下級】のレベル1の【鉄の剣】を連続で20本ほど作ってみる事にする。翔太が【下級】のレベル1の【鉄の剣】をイメージした途端、翔太の手の中に、【鉄の剣】が出現する。次々と【鉄の剣】を作成していく。次に、【超越級】レベル2の日本刀――【村正】を20本ばかり作ってみる。
これで次の事がわかった。能力と形態のイメージを一度形成、固定してしまえば、鉄の塊を生成するだけの時間で、武具を作る事ができる。そして、その生成時間は【下級】のレベル1だろうが、【超越級】レベル2であろうが変わらない。
(【神速創造】の効果はこの実験で証明された。武器のイメージが僕の頭に浮かび次第、一振りの武器が出現していた。まるで魔法みたいだ。なんでも、時間を支配してこの出鱈目を可能しているらしい。この能力があれば、1日で数十万個のポーションも作る事が可能。実にふざけた能力だ。まあ、ありがたいんだけどさ)
あとは、慣れだろう。【特質級】レベル2の【日本刀】、【ロングソード】、【ショートソード】、【クレイモア】、【ブロードソード】、【スピア】、【プレートメイル】と【鉄の盾】、【鋼の盾】、【ミスリルの盾】などをひたすら作った。
【金属素材変換】と【神速創造】は思った以上にチートだ。翔太の武具の姿と能力の想像が固定化し、鉄を魔力で作ると同時に、掌に剣や槍、鎧、盾の完成品が出来上がる。当初の数個は作る事自体が目的だったが、武具のクラスとレベルは制御が効く。もはや性能については気にしなくてもよいのだ。直ぐに武具のデザイン重視の作成へと変わっていく。翔太が望むだけで、実際に精密工作機械でないとできない細かな装飾をいとも簡単に実現していく。作成の中盤以降は翔太から見てもかなり彩りも鮮やかな武具を生み出す事が可能となっていた。見た目だけは、翔太が過去に作った【神話級】よりも強そうに見える。
結果、500の武具を作ったところで、ディヴが思考の海から帰還し、目の前に山のように積まれた武具にワニのような大口を開けて呆れたような表情になっていた。
「私もようやくショウタさんの無茶苦茶ぶりに耐性がついてきたよ。それにしても、これある意味売り物にならないよ! 出来が以前とは違いすぎる」
ディヴは出来上がった武具の完成度を手に取って見ているようだ。
「へ? 僕的には力作だったんですが。やっぱり僕の魔力で作ったのがまずかったですかね。そいう事なら次からは――」
「違う! 逆だよ。この武具になされた装飾は我々の技術では再現不可能なのさ。これ程緻密なデザインの武具などいくらで売ってよいやら、今ある在庫の武具と違いすぎるからね。
同じ【特質級】の値段で売れば、お客さんから不平がでるかも」
「なら一度買ったお客さんには三分の一の価格で売却するというのは? ニュクスに支店ができる事ですし、その感謝セールも兼ねればよい宣伝にもなりますし一石二鳥ではないかと」
「支店開設の……感謝セールか……そうか。それなら――」
ディヴは満面に喜色を湛えながらブツブツと独り言を呟き始めた。
「あの~、ディヴさん?」
「ショウタさん。今日はお店を閉めて明日からの感謝セールの用意をすることにするよ。従業員も新たに雇わなければならないし、売り場も増設したい。さあて、忙しくなるぞ」
ディヴは小走りに部屋を出て行ってしまう。ディヴやガルトは一つの目的が定まるとそれを遂げるためには見境がなくなる。それは日本刀工房の時に嫌と言うほど実感した。今日は、この部屋には戻って来ないだろう。
大きなため息を吐き、今からの予定を簡単に立てる。
まず感謝セール用の武具を後1時間ほど作り、隣の日本刀工房へ移動して、フィオンとレイナの武具の作成に取り掛かかろう。ラシェルの武具は明日、気合を入れて作る事にする。
お読みいただきありがとうございます。