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僕と俺の異世界漫遊記  作者: P・W
第二部 建国と変貌編
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第65話 冒険者に新しい道を示そう


 支部長室へ入り、いつものようにソファーに勧められデリックの対面に座り、ヴァージルが後ろに控える。

 デリックは翔太を見ると、一瞬面食らったような表情をしたがすぐに元の陽気な姿へと戻る。


「昨日の事はチェスさんからすでに聞いたとは思いますが、一応約束だったので来てみました」


「いや、グラシルの件以外でショウタとは相談すべきことがあった。絶妙なタイミングだったぜ」


(グラシル以外の相談事? 迷宮作成の件だろうね。このままでは失業した冒険者が暴動起しそうだしさ)


「冒険者の新たな探索場所ですね。ねぇ、テューポ、そこんとこどうなってる?」


 眩い光と共に、右腕を胸に当て頭を軽く下げる龍執事――テューポが現れる。

 テューポを見てもデリックは眉すら動かなさなったが、ヴァージルは苦悶の表情で胸を抑えている。毎度の事なのだから、圧力を抑えて登場してほしいものである。非難の視線を受け、テューポは慌ててその溢れんばかりのオーラを抑える。これで少し力の強い人間種程度の圧しか感じないはずだ。ヴァージルも楽になったようだが、まだ足が笑うのか、しゃがみこんでしまった。


「承りました。主よ。 

 現在、ニュクスとアイテールの国民用の迷宮、遺跡、洞窟、密林等の作成は完了いたしました。固定のゲートをニュクスとアイテール各国に設置しておりますれば、明日からでもすぐにレベル上げは可能と存じます。

 人間種の冒険者達用の迷宮、遺跡、洞窟、密林等も完成し、その固定ゲートはニュクスの商業都市――ケーリュケイオンの入り口に設置いたしました。すぐにでも使用可能です」


「へ~、それで放った魔物は? 他から連れてきたんじゃあ明らかに足りないでしょ?」


「はい。その件で主にお願いがございます」


「何?」


「私が魔の森深域、迷宮都市、古代都市遺跡、海底洞窟などから幾多の種類の魔物の一部を2階層へ集めて来ましたので、この後2階層にお越しいただき、『七つの迷宮(セブンラビリンス)』に認識させていただきたいのです」


「なるほどね。わかったよ。だけど魔物を下手に吸収して他の階層にわくことない? 7階層を魔物が跋扈するのはあまり気持ちが良いものではないのだけど」


「勿論です。主よ。その対策も立てております。大分時間はかかりましたが私は、『七つの迷宮(セブンラビリンス)』の機能のほとんどを掌握いたしました。

 今なら吸収した魔物と同種の魂を召還、身体を構築した上、2階層だけに発生させることができます。さらに、2階層の特定の場所に指輪に吸収した特定の種類の魔物を発生させる事も可能となりました」


(魔物と同種の魂を召還? 魂を一から作るんじゃないわけね。これで、テューポ以外の龍の眷属の存在の説明がつく。魂を作り出したのなら、なぜ、テューポと他の龍の力があれほど離れたのかが説明がつかなかったんだ。つまり、黒龍の鱗は召喚の触媒か何かなんだろう。黒龍の鱗を核にしてテューポや、数多の龍の魂を召還し、肉体を形成したんだろうさ。

 それに、確かに少し考えれば魂を作ることなどできるわけないよね。そんな事できれば、魂が世界に溢れかえってしまうし)


「それなら問題ないね。ニュクスについては後で、詳しく話そう」


「御意。お待ち申しております」


 テューポは姿を消す。2階層へ戻り翔太を待つのだろう。おそらく魔晶石であろうが、数が多く吸収には凄まじい時間がかかる事が予想される。フィオンやレイナのための防具を作成する時間も必要だ。話を早く進めよう。


「ニュクスの商業都市――ケーリュケイオンに『七つの迷宮(セブンラビリンス)』のゲートの設置が完了しました。今日僕とテューポで最後の仕上げをしますので、明日には冒険者による探索が可能です」


 翔太のこの言葉を聞き、デリックは頭を深く垂れる。


「そうか。ギルドを代表して礼をいう。ありがとう。ショウタ!

直ちに、エルドベルグの冒険者に説明を行おう」


「その際に冒険者達の心に留めておいて欲しい事があります」


「心に留めて欲しいこと……。まあ、予想はつくなぁ。」


「はい。ニュクスはビフレスト王国とは異なる他国です。ですので、ビフレスト王国の貴族共がやるような傍若無人な振舞いはニュクスではご法度です。いかなる存在もその犯した罪に対応したニュクスの法で裁きます。ニュクスの司法の廉潔性の証明は文書と映像でビフレスト王国へ提出いたしますし、犯罪者の引き渡し等の委細は条約で決めましょう。

 仮にそれを不服しとして対話ではなく、攻撃を仕掛けて来るなら、徹底的にその勢力を排除します。勿論僕も加わりますのでご了承ください」


「了解した。冒険者達にはきつく言い含めておこう。全くこんな当然の事まで教育が必要だとは情けないものだ。だが言っても聞かぬ阿呆共はいるだろうな」


 デリックは苦虫を噛み潰したような顔をしながら答える。


「でしょうね。まあ、商業都市――ケーリュケイオンで働く従業員はニュクスの中でも精鋭を配置する事になると思いますので、冒険者達が彼らに傷をつけられるとは思えませんが」


「やはり、強いのか?」


「強いですよ。少なくとも、バジリスクキング程度の強さはあります。魔王級もゴロゴロいるのではないでしょうか」


 デリックは、驚いてのどが塞がって何も言う事ができない様子だ。


「バジリスクキング……魔王級がゴロゴロ? それ、ニュクスの幹部か?」


「いえ、ニュクスでは力が多少あるに過ぎない一国民です。幹部は文字通り桁が違いますよ。一度お会いになればわかります」


「そ、そうか。全力でギルドの方から説明しておく」


 石のような固い表情になるデリック。魔王数百体が襲ってくるところでも想像しているのだろうか。


「最後に一つ。冒険者達が『七つの迷宮(セブンラビリンス)』の2階層で死ぬのも僕としても目覚めが悪いですので、1度だけ死を回避し、『七つの迷宮(セブンラビリンス)』のゲート前まで転移する指輪を作成し売り出そうと思います」


 ゲームや小説では死ねば神殿で生き返るのがセオリーだ。だがジャンの死で思い知った。死んだ者を生き返る事は通常の手段ではかなりの困難を伴う。その死を回避してやるしかないのだ。

 具体的には『発明王』の精霊のペンダントの機能がヒント。ゲートの前への転移はゲームや小説には必ずといって良いほどこの機能があり、ダンジョン探索には欠かせない。そして、死回避の機能の発動を条件に『七つの迷宮(セブンラビリンス)』のゲート前への転移の効果を持たせる指輪を販売する。これが翔太の考えた安全な迷宮探索である。


「それ、本気だったのか? ギルドとしても冒険者の安全が確保できるなら願ってもないことだ。だけどなぁ、命の危険がない冒険か。緊張感ねぇなぁ」


「ははは。ですが、あくまでその指輪は有料ですし、死のみを免れるにすぎません。瀕死の重傷を負った状態で転送されるには変わりはないのです。回復薬がなければ確実に死にますし、後遺症は残るかもしれません。命の危険はやはり付き纏うでしょう。

 ニュクスの国民にまず優先的に補充されますので、実際に売りに出されるのは数週間後になるとはお思います」


 死を回避した瞬間、完全回復の指輪も作れない事はない。しかし、それには特殊な素材が必要であり、極めて高価になる。高価になれば、一部の馬鹿貴族出身の冒険者しか買えなくなり、本末転倒な状況となる。回復薬さえ地道に用いれば、完全回復もできるのだ。それで勘弁してもらう。

 それに冒険者は命を賭けるからこそ冒険者だ。できる限りその誇りを踏みにじりたくはない。もっとももうすでに十分踏みにじっているかもしれないが……。


「それで十分だ。元々冒険者は命をかけ富と名誉を得る職業。本来、その指輪なしでも何の問題もないさ。

 勿論、指輪は喉から手が出るほど欲しいがな。その事も踏まえ十分に冒険者達には説明しておこう」


「死回避・転移の指輪は開店セールとして初回だけ3万G、2回目以降は30万Gで売りに出そうと思っています。

 あと、薬草とポーション等の回復薬も【特質級(ユニーク)】、【伝説級(レジェンド)】、【神話級(ゴッズ)】まで売りに出そうと思います。無論、【伝説級(レジェンド)】、【神話級(ゴッズ)】はかなり高く設定しますが」


 当初、翔太は世界への影響を考え、回復薬も武具や魔道具(マジックアイテム)同様、商業都市――ケーリュケイオンで【伝説級(レジェンド)】、【神話級(ゴッズ)】を一般に販売するのは避けようと考えていた。

 だが、武具や魔道具(マジックアイテム)と異なり、回復薬は他者を傷つけるものではない。寧ろ世界へ影響を与えた方が良いと判断したのだ。勿論、【伝説級(レジェンド)】、【神話級(ゴッズ)】の出鱈目な特殊効果を封じ、回復に特化するようにしなければならないだろうが……かなりの劣化が必要だが、その分、材料費は節約できる。

 問題は《錬金術》を使える者が翔太一人しかいない事だ。テューポがいい案を持っているかもしれない。2階層へ行ったときに相談してみよう。


「【伝説級(レジェンド)】、【神話級(ゴッズ)】の回復薬か……確かにそれらを売れば、その製法をあらゆる組織が求めるだろう。確かに世界は混乱するなぁ。だが、数十万の人間種の命が助かるかもしれん。その混乱もアースガルズ大陸の医療技術の発展のためならやむなしか」


 翔太のやろうとしている事はあくまで一時的な措置だ。これでアースガルズ大陸の医療技術が向上するとは蚤の毛ほども思ってはいない。デリックのいう医療技術の発展は、いつまでも魔道具(マジックアイテム)に頼っていては駄目だ。魔道具(マジックアイテム)は翔太のような特殊スキルを持つ者しか作れない。出来る数には限りがある。結局、王侯貴族や豪商のみが手にすることができ、庶民には買う事が出来ない事態に陥りかねない。つまり、一部の特殊な特技を有する者が作るものなどさほどの価値はないのだ。

 その唯一の打破は医学の発展だ。人間種の身体の生理を解明し、適切な内科、外科の処置を施せる技術の開発。この技術ならば【才能】など必要はない。必要なのは根気強い反復からくる経験と深い知識のみ。誰でも努力でもぎ取る事ができる。

 だが、この事を今デリックに伝えても理解してはもらえないだろう。まずはニュクスから始め、徐々にこのアースガルズ大陸の人々にもこの考え方を浸透させていけばよい。

 ニュクスでこの地球の医学の粋を集めた医療を安価で提供すれば、高価な魔道具(マジックアイテム)を買う事が出来ない冒険者を助ける事ができるし、医学をアースガルズ大陸全土にも広める事が可能となるだろう。

 もっとも、致命的な問題として医学を良く知る者が身近にいないという事があるが『七つの迷宮(セブンラビリンス)』の全機能を掌握したテューポならばいい案があるのかもしれない。これも後で相談する事にする。


「あとは安価なゲートまでの転移アイテムや【上級(ハイ)】、【希少級(レア)】、【特質級(ユニーク)】レベル2までの武具・魔道具を販売します。

 迷宮、遺跡、洞窟、密林等には【特質級(ユニーク)】~【神話級(ゴッズ)】の武具やアイテムを設置します。これだけで、一応命を懸けるだけの価値はあるでしょう」


「十分だ。加えて、魔晶石と魔物の素材があればエルドベルグも今以上に潤う事になるだろう。それでだ。ギルドから一つ提案があるんだ」


 普段冷静なデリックには珍しく緊張で顔が引き締まっている。この緊張具合からして、今日のメインの話題なのだろう。


「提案ですか? お伺いします」


「ニュクスの商業都市――ケーリュケイオンと、アイテールに冒険者ギルドを設置してほしいんだ。これが意味することをショウタならわかるだろ?」


(ニュクスの商業都市――ケーリュケイオンとアイテールに冒険者ギルドを設置するということは、ニュクスもアイテールも冒険者ギルドに加盟しろということだよね。

 『七つの迷宮(セブンラビリンス)』の2階層を冒険者に解放する以上、ギルドに加入するのが筋のようにも思える。しかし冒険者ギルドも組織には違いない。

 しかも、このアースガルズ大陸最大の勢力だ。下手に加入してグラシルで目にしたような技術を提供しろや、財産を明け渡せなどの因縁を付けられたら厄介だ。特に冒険者ギルドは糞貴族共が動かしていると言っても過言ではないよ。あの貴族共ならそのくらいの無茶な要求は簡単にしてくるだろう。

 勿論、戦争になれば全世界を相手にしても負けはしなし、負けるつもりもない。だが、人が大勢死ぬ。そんな強欲にまみれた糞貴族共のせいでまたジャンの様な子が死ぬのだけは我慢がならない。

 心情的には拒否したいところだ。だけど、今現在ギルドとはラシェルの保護で共闘関係にある。簡単に突っぱねるわけにもいかないね。困った……)


「ニュクスとアイテールの冒険者ギルドへの加入ですね。ニュクスとアイテールについては僕にも一定の決定権はあるようですが、最終決定権はテューポ、炎鬼さん、チェスさん達にあります。僕は彼らと会談の席を用意する事しかできません。それでよろしいですか?」


 その言葉を聞いてデリックはほっと胸を撫で下ろしたようだ。てっきり落胆すると踏んでいた翔太は僅かに眉を顰めてデリックを注視する。


「ああ、それで上出来だ。

 五分五分、いや、かなりの確率で翔太には断られると踏んでいたんだ。なにせ、グラシルの貴族派のあの醜態を見た後だ。冒険者ギルドは大陸一の巨大組織。冒険者ギルドは貴族派達とは違うと言っても信じてはもらえないだろうからな。

 しかし俺達ギルドは断じて貴族派達とは違う。ギルドはそもそも政治団体ではない。天変地異、災害等の人間種全体で取り組まなければならない事態に対処するためのただの力の塊だ。

 よって、ギルドはニュクスとアイテールの政治や財政には介入しない。それはギルドに加入する際に明確に文書にし、その盟約を違えるいかなる存在もギルドに敵対するものとする事を世界に表明する」


「それなら、テューポも炎鬼さん達もギルドの加入自体は否定しないと思いますよ。ニュクスとアイテールにとってもメリットが大きそうですしね。今晩テューポには話を通しておきます」


「助かるよ。ショウタ」


「いえ、こちらこそ。それでは今日はこれで失礼いたします」


「おう!」


 翔太は立ち上がり支部長室を出る。ヴァージルはデリックの後ろに控えたままで、以前のように翔太の後をついて来ようとはしなかった。完全に普段の自信に満ち溢れたヴァージルに戻っている。昨日ヴァージルに何かあったのは間違いあるまい。失意のヴァージルをオットーに慰めてもらったのかもしれないし、単に翔太に愛想が尽きたのかもしれない。唯一判明しているのは、ヴァージルはもう翔太を卒業したということだ。先ほどのキスも別れのキスだったのかもしれない。

 あれほどヴァージルを避けていたのに、いざ相手が冷たくなった途端、どうしょうもなく寂しくなる。これ程業が深いものもあるまい。


 兎も角考えるのは止めだ。やる事は多々ある。

 一つは、明日の冒険のためのフィオンとレイナの防具を造る事。二つ目はポーション、薬草、死回避転移の指輪と転移道具を作ること。三つ目は、テューポに会いに2階層へ行く事。四つ目はルネの今後の事をテューポと話会うこと。これが一番重要だ。2階層に行くついでにルネについても話し合うことにしよう。

下手をすれば徹夜になりかねない。すぐに行動を起そう。

 


 お読みいただきありがとうございます。

 今後、生産系チートのオンパレードとなってきます。お楽しみいただけたら幸いです。

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