第62話 レベルアップとスキル等級上げ(5)
ここまでくればよいだろう。すでにメリュジーヌはへばっていた。根性のない悪魔である。
では、改めて午後のスキル等級上げとレベル上げの幕開けだ。
《メデューサの灼毒眼》、《劫火》、《竜牙乱舞》の等級を第4級まであげなければならない。
だが、これが本当に大変そうだ。1スキルつきに28回行わないとスキルの等級が第4級にはならない。《劫火》のようなふざけた威力のスキルはこの28回は本当辛い。だが、やるしかあるまい。
まずは、一番大変そうな《劫火》の等級上げだ。威力を最大限抑えて1匹の地魔竜へ放つ。前回の5分の1ほどの威力まで抑えることが可能であった。これを2回繰り返すと、等級が2になった。レベルも上がり、再び行動不能となるが休憩が必要な時間は徐々に短くなっているようだ。
《劫火》の等級が2になると、コントロールが著しく向上した。炎だけを一直線で飛ばせるようになったのだ。これで、地魔竜1匹に放ち焼却していたら、直ぐに第4級まで上がった。合計、24匹の地魔竜を殺してレベルは3上がった。メリュジーヌに魔晶石の回収を命じると、意外にも素直に従った。
その後、次にスキル上げが難しそうな《竜牙乱舞》を発動させる。竜巻の龍を1体だして、地魔竜に向かわせる。
竜巻の龍は唸りをあげながら、弾丸のような速度で咢を剥き出しにして、地魔竜を意思無き血肉に変えるべく空を疾駆する。龍は顎の関節が外れんばかりの大口を開けて、咢を地魔竜の柔らかな体に突き立てる。龍の咢が地魔竜を八つ裂きにすると同時に、竜巻の細長い身体が地魔竜を締め上げる。竜巻はまるで鎌鼬のように地魔竜を細かな血肉へと変え、空中へまるで花吹雪のように舞い散らせる。
おそらく《水龍》の強化版であろう。殆ど効果は同じだ。水属性が風属性に変わったに過ぎない。自動追尾効果もあり、極めて使えるスキルだ。
こうして、残り27匹の地魔竜を血祭りにして、第4級へと相成った。レベルはとうとう、46まで上がった。一応、《解析》スキルを自分にかけて確認をする。
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ステータス ショウタ タミヤ
レベル 46
才能 7000
体力 18533
筋力 18541
反射神経 18538
魔力 18522
魔力の強さ 18512
知能 18529
EXP 30000/160000
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(……平均1万8500。なんか、これドラ〇ンボールの〇イヤ人だよね。どのくらい強くなっているのか試すのが正直怖い)
レベルは当初の予定をもうすでに超えてしまった。一体今日1日でどこまでレベルが上がるのだろうか。
最後が一番等級上げが楽そうなスキル《メデューサの灼毒眼》だ。
地魔竜にこのスキルを発動させると、赤紫色の閃光が周囲に走り、ジュッという音だけが寂しく鳴り響き、瞬きをする間もなく翔太の眼前数kmの全てが蒸発してしまった。地面は30cm程陥没して、まるでツルツルの氷のように滑らかだ。この30cmの地面をすべて蒸発したのだと思われる。控えめに行っても威力は《劫火》以上だ。
途轍もない程の威力に顔を引き攣らせていると、メリュジーヌが恐る恐る尋ねている。
「主様は……本当に人間なんデスカ?」
「一応そのつもりだけど。この頃、自信がなくなって来たのは事実さ……」
(《メデューサの灼毒眼》を全力で使えばエルドベルグなど、一瞬で更地にできそうだしね)
メリュジーヌは期待と喜びと恐れがごっちゃになった興奮を顔に張り付かせそれ以上は二度と聞いては来なかった。その様子がテューポや炎鬼達の様子と合致していて蛇に全身を巻き付かれるような悪寒が襲う。
気を取り直し、威力をできる限り抑えて行使したが、スキルの発動と同時に視界に入った全ての者を焼き尽くしてしまい、非常に使い勝手が悪かった。もっとも、それは最初だけで、等級が2になると、視線の任意な範囲にターゲッドを絞る事ができるようになった。それ以降はサクサクと等級上げが済み、等級が3になると地魔竜1匹の範囲に的を絞る事が可能となった。結果、合計で28匹の地魔竜を生贄に等級が4となった。
レベルは遂に48まで上昇した。
次は、スキル《地震》だ。意外にも発動すると、地魔竜の発動よりかなり強力であった。これは、出鱈目に上昇した魔力所以であろう。凄まじい振動と共に、蜘蛛の巣状に地面が大きな口を開け、ありとあらゆるものを飲み込んでいく。岩も木々も小動物も全てが地面の裂け目に飲み込まれる。地魔竜も逃れようとするが、猛威を振るう振動に足をとられ動けない隙に、地面の裂け目に飲み込まれその生涯を終えた。このスキルは、威力はあるが調節が難しい。結果、第4級になるまでに、13匹の地魔竜を必要とした。
同時にレベル49まで上がる。身体と精神がレベルアップに慣れて来たのか殆ど負荷は感じない。
これで全てのスキルが第4級に上がった。ポケットからギルドカードを取り出し確認する。
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EV:《王者の威嚇の咆哮》と《地震》がスキル進化の条件を満たしました。実行いたしますか?
<YES> or <NO>
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考えるまでもない。<YES>をタップする。もはや負荷は子犬に甘噛みされた程度にしか感じない。
ステータスとスキルについて、スキル《解析》を発動させる。
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ステータス ショウタ タミヤ
レベル 49
才能 7000
体力 21511
筋力 21532
反射神経 21544
魔力 21502
魔力の強さ 21505
知能 21522
EXP 150000/190000
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(よし、順調に上がっているよ。この調子でサクサクレベル上げしよう)
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スキル
《王者の威嚇の超振動(第1級)》
■説明:強力な威嚇の咆哮により相手方を威圧する。超振動も起こす。
※威圧と超振動の強さは等級に比例する。
■クラス:固有
■必要使用回数: 0/4
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(見た感じ、《王者の威嚇の咆哮》からあまり変化しているようには見えない。『咆哮』が『超振動』に変わっただけだ。威力はあがってはいるんだろうけどね)
等級が1の《王者の威嚇の超振動》を等級4まで上げる事にする。
約1km先の地魔竜が翔太を見つけ、ドスンッ、ドスンッと地響きを上げながら大きな咢を開けて向かってくる。しかし、地魔竜という生物は野生の本能という者はないのだろうか。強さの桁が違う事くらい察しても良いはずだが。
前方に集中し、スキル《王者の威嚇の超振動》を発動する。後方まで余波がいけば、確実に小悪魔――メリュジーヌはご臨終だ。まあ、それはそれでどうでもよいことではあるのだが、一応気を配っておくことにする。何事も実験なのである。
ギギギギュッギィィィィィッン!!
黒板を爪で擦りつけた様な不快な音が辺り一面に響き渡り、翔太から扇型に数kmにわたり、衝撃波が駆け抜けて行く。大気は絶叫をあげ、全てを塵に変える。岩、砂、植物、小動物、全てが塵となって空を舞う。効果範囲にいた全ての地魔竜は、瞬時にサラサラの塵に変わり、地面に舞い落ちる。
兎も角、やたら使いにくいスキルだ。こんなの威嚇の効果自体不必要だろう。
身体中を暴れ回る力の存在から、レベルが上がったらしい。とうとう、レベル50まで上がった。
第2級に上がるまでに4匹の地魔竜の躯が必要だった。他の固有スキルと同様、第2級に上がると様相は変わってくる。制御が極端に効きやすくなったのだ。具体的には翔太から半径2、3km内の一定の範囲のみに超振動を起せるようになった。さらに、第3級にもなると、超振動の威力も制御が可能となり、事実上威嚇だけ切り離して行使できるようにもなった。この後は、超振動の効果を抑えに抑えて、威圧だけで地魔竜に連発することで、呆気なく第4級になる。
結果として、第2級からは地魔竜を合計で9匹倒して第4級となる。
ギルドカードを見るが、進化できるスキルはなかった。次は全てのスキルを第5級まで上げるべきだ。経験則上、スキルは同じ等級同士で進化が可能となると推測できる。進化漏れはないと考えられる。
まず、第5級にあげやすいのは、通常スキルの《隕石落下》、《超獣王の炎雷砲》、《風の障壁》、《悪魔の鋭爪》、《朱色の光弾》、《魔法剣》だ。第4級となり、制御も比較的つきやすくなっているはず。すぐに5級にあげることができるだろう。
さらに、《不滅の盾》のスキルを使用しないで試したい事がある。【憤怒】の特殊の能力、【二連続スキル】の効果だ。先ほどはレベル上げも兼ねていたから、使用しなかったが、さすがに狩り過ぎて地魔竜の数が少なくなってきた。この【二連続スキル】を使えば、より効率的にスキル等級上げをすることができる。
ちなみに、この【二連続スキル】のおかげでいくつか推測する事ができる。1つのスキルの内部ついて、攻撃型の能力と支援型の能力の2種類がある場合の問題だ。
支援型の能力には2つある。回復することや防御を与えるような実際に自己や他者に影響を及ぼす能力と、攻撃型スキルを支援する能力である。攻撃型スキルを支援する能力は、攻撃しないと意味がないから、攻撃と一体化すると考えてよい。例えば、《王者の威嚇の超振動》の【威圧振動分割行使】と【範囲調節】の2つの能力が攻撃型スキルを支援する能力といえる。これらの能力は攻撃である振動や威圧の行使に吸収されてしまい、1回とカウントされる。
これに対し、実際に自己や他者に影響を及ぼす能力と攻撃型能力との関係は多少説明が難しくなる。ここから完全な推測だが、この2種類の能力は【二連続スキル】の能力を行使しなくても、同時に行使可能であるが、回数は2回とカウントされるということだ。例としては【雷光】を考えればわかりやすい。雷光の身体能力向上の能力は、この自己に影響を及ぼす能力に当たる。この能力を用いたまま、【二連続スキル】を用いなくとも、雷を飛ばす事は可能だったのだ。だが、スキルの回数は、身体に雷を纏わせたので1回、雷を飛ばす事で1回とカウントされていた。
今はこのように理解しておいてよいと思われる。さて、レベル上げとスキル等級上げを再開しよう。