第59話 レベルアップとスキル等級上げ(2)
まず、チラノサウルスモドキ――地魔竜から雷耐性を獲得することにする。地響きをあげながら突進してくる地魔竜に向けて《雷光》を纏わせた【憤怒】を横凪に振るう。【憤怒】に纏わりついた蒼色の稲妻が翔太の前面の地面を抉り飛ばしながら迫り、地魔竜に衝突する。稲妻は地魔竜に触れると霧散し、スキルラーニングの負荷が襲う。負荷といっても、どうにか感じられる程の小さなものに過ぎなかったのだが……。
地魔竜は巨体とは思えない凄まじい速度で迫り、翔太にその巨大な咢を突き立てようとする。翔太は【憤怒】を真上から垂直に斬り下ろす。勿論、最大限手加減をしてだ。本気で刀を振るえば地魔竜どころかここら一体が爆砕しかねず、まだ近くにいるレイナ達に二次災害を引き起こす危険性があるから。本気を出すのはフィオン達と十分離れてからにすべきだろう。
ズズンッ!
地魔竜は頭から尻尾まで縦断され慣性の法則に従い左右に綺麗に分かれ地面に衝突し土煙を巻き上げる。草原に咲く白色の華が地魔竜の鮮血で真っ赤の薔薇のように染め上げられる。
同時に柄に時計とも魔法陣とも見分けがつかない光り輝く12の文字盤が浮かびあがり針が回転し始める。針は回転の速度を下げていき2を示して止まる。その後、文字盤はスーと消えてしまった。【憤怒】の【生命創造ルーレット30%解放】の能力だろう。眷属化に失敗したらしい。予想では、【憤怒】で切りつけて殺すとこの能力が発動するのだろう。より、深い検証が今後必要だ。
これで《雷耐性》のスキルも得た。休憩のときにでもスキルの等級のアップを図ろう。
まずは等級が低いスキルから上げていけばよい。翔太のもつスキルの中で一番低いのは《悪魔召喚》だ。だがこのスキルは戦闘中にぶっつけ本番に発動させるべきスキルではない。休憩中に耐性系スキルと共に実験的に発動させよう。
第2級は《灼熱の石化ブレス》、《竜巻》、《王者の威嚇の咆哮》、《炎弾》、《魔法剣》、《火炎ブレス》、《悪魔の鋭爪》、《朱色の光弾》だ。これを即急に第4級まで上げてしまおう。《水龍》の時は両方のスキルが第4級になって上がった。そして、今まで進化は第3級以下では起きていない。とすれば、第4級までは上げても進化ができなくなるという事にはならないと思われる。だが一応等級が上がったらギルドカードで確認する事にする。
《不滅の盾(第4級)》を発動させておく。これはスキル上げ以外に目的が一つあった。それは《不滅の盾(第4級)》が複数のスキルの併用ができるスキルなのかを確かめることだ。《壁の障壁》と同様に一度発動させて障壁を作ってしまえば、そこで発動が終了するタイプなのか、それとも一度発動させるとその発動が持続するタイプか。持続するタイプならば他のスキルとの併用が不可能かもしれない。また【二連続スキル】との関連性も重要になるであろう。
突進してくる地魔竜に《炎弾》を発動すると、30cm位の炎の球体が掌の上に出現する。その球体を地魔竜に投げつけると球体は途轍もない速度で地魔竜に迫り衝突するが、呆気なく霧散した。効かないのは好都合だ。スキル上げがしやすくなる。
《不滅の盾(第4級)》との同時併用はどうやら可能なようだ。今度は《炎弾》を2回同時に発動させるが、発動できたのは1回だけ。さらに、《不滅の盾(第4級)》の効果を切って試そうとしたが失敗する。どうやら、一度発動すると使用者の意思で切ることは出来ないらしい。
そうしている間に、地魔竜が目前に迫っていた。そこで、炎弾を投げつけるとともに、刀で横一文字に一線する。
上半身と下半身が真横にずれ、『ドシャ!』という生々しい音と共に地面に崩れ落ちた。同時にレベルアップの負荷が襲うが全く行動や意識に制限はない。当初の意識を奪う程の負荷が嘘のようだ。【憤怒】のステータスの上昇が効いているのかもしれない。他にも理由があるのかもしれないが、今は証明不可能だろう。
ギルドカードをポケットから出して、確認をする。
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ステータス ショウタ タミヤ
レベル 27
才能 ――
体力 2404
筋力 2418
反射神経 2409
魔力 2499
魔力の強さ 2403
知能 2414
EXP 7500/35000
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(レベル1上がるごとに、全能力値が50ずつ上がるらしい。もっとも、計算上、100上あがっている場合もあるみたいだけどさ。マンティコアに拷問されて記憶を失った事が関係しているのかもね。
一々レベル上がる度に見るのは面倒だ。スキルの等級のアップの確認のときにでもついでに確認する事にしよう)
翔太は本格的に等級上げを始める。まずは、《炎弾》と《火炎ブレス》だが、地魔竜に当たると霧散し火傷一つ負わせた形跡はない。両者とも直ぐに等級3になる。
次は魔法剣だ。
「炎気を集め炎土を用いる熱炎球!」
《火球》を刀に纏わせる。蒼炎が【憤怒】に蛇のように纏わりつく。【憤怒】を袈裟懸けに一線すると、地魔竜の身体が斜めに『ズズッ!』とズレて地面に血飛沫と共に叩き落ちる。同時に、蒼炎の炎が燃え上がり、こんがり地魔竜の出来上がりだ。地魔竜は、焼けた牛の様な香ばしい匂いがする。バーベキューには最適かもしれない。
3回程、《火球》を剣に纏わせ、切りつけるという行為を繰り返した結果、魔法剣も等級が3にまで上がった。ちなみに、ルーレットは狙ったかのように全て4以下だった。運が悪いのかそれとも他に要因があるのか今後検証する必要がある。
《竜巻》を1つ遠方にいる地魔竜に向けて発動する。竜巻が地魔竜に無数の傷を作ったが、それだけだ。致命傷は与えられない。同時に等級は3となった。
《王者の威嚇の咆哮》は多少、地魔竜を怯ませることができた程度。傷一つ負わせる事はかなわない。このスキルも等級が3となった。
残りのスキルも同様に行使したが、他のスキルはあまりに威力が高すぎた。《灼熱の石化ブレス》は一瞬で骨も残らず灰に変え、《悪魔の鋭爪》は地魔竜をバラバラの肉片にし、《朱色の光弾》は身体に巨大な風穴を開けた。どうにか、《悪魔の鋭爪》と《朱色の光弾》は威力を抑えなおかつ、急所を外すことにより、一撃で殺さない事に成功する。結果として等級が3に上がるまで、6体の地魔竜の躯が必要となった。5体目を倒したときにまたレベルが上がった。これで一応はレベル30だ。ギルドカードで確認するとしよう。
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ステータス ショウタ タミヤ
レベル 30
才能 ――
体力 2562
筋力 2584
反射神経 2578
魔力 2549
魔力の強さ 2551
知能 2558
EXP 25000/50000
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(思った通り、50ずつ上がっているね。全能力値が平均1050だ。上がり方が多少緩やかすぎるけど仕方がない。どうせ、僕の事だ。また一気に上昇するさ。さあ、スキル等級上げを続けよう)
すぐに次のスキルの等級上げを開始する。スキルの性質を把握している先刻2級から3級にあげたスキルの等級をまず優先的にあげることにする。ほとんどのスキルが直ぐに第4級になった。《竜巻》、《王者の威嚇の咆哮》、《炎弾》、 《火炎ブレス》は、地魔竜に致命傷を与えられないが、かすり傷を負わせる程の威力にレベルアップしていた。そのスキルを駆使して、やっとの事で地魔竜1匹を殺したところで、丁度この4つのスキルは第4級にランクアップした。
直後、近くの地魔竜が《地震》のスキルを行使してきた。大地が震動し立っていられない程の振動が起き、地割れが起こる。もっとも、実際の《地震》と比べその規模も強さも比較にならない程小さく、翔太が大地を思いっきり踏んづけた方がよほど被害は大きいだろう。スキルラーニングはしたと思う。まったく負荷がないから確証はもてないのだが……。
《魔法剣》のスキルを発動させ、《火球》を【憤怒】に纏わせ、尻尾に切りつける。傷口から蒼色の炎が燃え上がるがすぐに鎮火する。所詮《火球》。バジリスクキングにも効かなかったのだ。《魔法剣》で多少威力が増強された程度では、バジリスクキング以上の打たれ強さを持つと思われる地魔竜に効果がないのは当然と言えば当然だ。
しかし、これでスキル上げは大分楽になる。再び、《魔法剣》を発動し、《火球》を纏わせ尻尾に切りつける。それを繰り返し第4級まで上げた。止めは、《灼熱の石化ブレス》一吹きで楽にしてやった。
そこでまたレベルが上がる。だが、今度のレベルの上昇は今までとは全てが異なっていた。凄まじい力が翔太の身体から生じ、暴れ回る。鮮血を口から吐き、地面にのたうち回る。マンティコアの拷問に耐え抜いた翔太だが、この想像を絶する激痛は耐える事となどとてもできなかった。肉体のみならず精神まで粉々になるような不快感がそれにあったのだ。無論、身動きが一切取れるはずもなく、地魔竜に踏みつけられるが、《不滅の盾(第4級)》を発動しており傷一つ負わない。《不滅の盾(第4級)》がなかったら危なかったかもしれない。また、巻き込まないためにフィオンとレイナから十分な距離をとっていたことも幸運だった。こんな所を見られていたら無用な心配をさせかねない。
数分後やっと落ち着いて、地魔竜から一端退避する。休憩がてら、ギルドカードで翔太のステータスを確認する。
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ステータス ショウタ タミヤ
レベル 31
才能 ――
体力 3512
筋力 3524
反射神経 3528
魔力 3490
魔力の強さ 3501
知能 3508
EXP 0/55000
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(ステータスが1000近くも上がったのか……。もはや、これは異常とかで済まされる次元じゃない。僕は間違いなく徐々に化物になっているんだと思う。だって、神様の炎鬼さんでも6000程度なんだ。それも、眷属補正をしてようやっと。
この調子に僕のレベルが上がればあっという間に1万は超える。それが何を意味するか……)
鈍い翔太ももう自分がただの人間だとは微塵も思っていない。同時に不思議と以前のような忌避感はなかった。マンティコアになぶられたからか、それともあの不思議な夢のせいか、それとも昨日のジャンの死で本当におかしくなってしまったか、本当のところは分からない。だが、本来の自分を取り戻していくような妙な懐かしさと開放感があった。
スキルの欄に進化可能の表示がない事を一応確認し、スキル等級上げを再開する。
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《灼熱の石化ブレス》は、相変わらず、制御が効かず、等級が上がるまで地魔竜7体を要した。丁度4体の地魔竜を殺したときにレベルが上がる。再びバラバラになるほどの吐血を伴う激痛が翔太を襲う。少し前の翔太なら、痛みと不安で顔を盛大に歪めていた事だろう。ところが、今の翔太は解き放たれたような晴れ晴れした心持ちになっており、自然と笑みさえ浮かべていた。
《悪魔の鋭爪》と《朱色の光弾》はスキルの等級上げの要領が大分わかって来た。その結果、3体の地魔竜を倒した所で第4級へ上がった。
その間もう1レベル上がり、身動き一つ取れない程の激痛が待っていたが、今の翔太にはどうでもよい事だ。すぐにスキル等級上げに戻る。
スキル等級が3なのは《風の障壁》、《超獣王の炎雷砲》、《灼熱の炎弾》、《猛毒と石化睨み》、《隕石落下》だけである。
《風の障壁》は3回ほど発動させると直ぐに等級が4となった。残りはどのスキルも強力そうだが、効果が判明しているものから上げる事にする。
さっそく、《灼熱の炎弾》を発動させる。翔太の前方に超高密度な高速回転している炎の球が1個出現する。翔太を見つけ遠方から向かってくる地魔竜に放つと、炎球は地面を蒸発させながら地魔竜に迫り一瞬でその体ごと消滅させる。
(このスキル、《灼熱の石化ブレス》と同じで威力が高すぎる。1発動1匹というところだね。今回はレベル上げも兼ねてる。ちょうどいい)
遠くにいる地魔竜を見つけ次第《灼熱の炎弾》を放つという行為を繰り返し、結果、6匹の地魔竜を殺して等級が上がる。お約束のレベルも上がる。負荷のため一時休憩しながら、レベルアップについて思案する。
(【憤怒】の【経験値倍】の能力は思った以上に有用。それにさ。地魔竜が沢山いて助かる。計算では地魔竜1匹につき7500の経験値を持っていて、経験値倍で15000程にもなるんだ。この調子なら、今日中にレベル40半ばまで上げられるかも)
少しウキウキする気持ちを抑えて、スキルの等級上げを開始する。
《猛毒と石化睨み》の等級上げについては考えがある。《石化耐性》のスキルの等級の上昇にこのスキルが使えそうなのだ。《灼熱の石化ブレス》はさすがに自分に使うには熱すぎる。ステータスが上昇し威力がアップしているから特に。《猛毒と石化睨み》は今後進化に用いるつもりで、消え去るスキル。とすれば今の内に耐性系のスキルを上げておくべきだろう。
自らに、8回《猛毒と石化睨み》を使い《石化耐性》のスキルを第4級まで上げた。
《石化耐性》を上げた後、《隕石落下》のスキルを発動し隕石を1個召喚して地魔竜1匹にぶつけた。巨大な隕石は、地魔竜をまるで蟻を踏みつぶすかのようにプチッと押し潰し血肉が飛び散る。同様の事を7回繰り返した。
最後は取得元が不明なスキル――《超獣王の炎雷砲》。だから威力もわからない。猛烈に嫌な予感がするので、威力を最大限抑えて発動させることにする。
地魔竜が2匹遥か遠くに見える。この距離なら《灼熱の炎弾》でも決して届きはしないだろう。《超獣王の炎雷砲》を発動する。すると、翔太の前方に、雷を纏った紅の火炎の球体が生まれそれが急速に膨れ上がる。その塊は直ぐに翔太の数倍に膨れ上がり、周囲の岩や土をその凄まじい熱で溶かしていく。眼前の光景にドン引きしながらも今更、雷炎球を引っ込めるわけにもいかず、遠方の2匹の地魔竜に向けて放つ。
ゴオォォォォォォッ!
雷炎球は凄まじい速度であらゆるものを焼滅させながら、唸りを上げつつ2匹の地魔竜に衝突した。
ドゴゴオォォォォォンッ!!
途轍もない轟音と共に地面が爆ぜ衝撃波が辺りに吹き荒れる。辺りに弾道ミサイルが着弾したような巨大なクレーター出現していた。地魔竜など当然消し飛んでいる。
同時にレベルアップの負荷が襲う。レベルアップに早くも身体が慣れて来たらしく、吐血を吐いたり、転げ回ったりするほどではなくなっていた。この程度の負荷なら少し休めばすぐに活動可能だ。それよりも、目の前の光景の方が、よほど頭が痛かった。
(何? このふざけた自然破壊スキル。使えないし、いらないよ。さっさと進化させてしまおう)
この阿呆なスキルをあと7回も使わないといけないという事実にうんざりしながら、休むことにする。
十分休んだ後、エンカウントした地魔竜を一匹ずつ慎重にスキル《超獣王の炎雷砲》で、焼き殺した。地形も大分変えてしまったし、傍からみたら天変地異にしか見えない。フィオンにお叱りを受けることだろう。もう、太陽は丁度真上、そろそろ一休みをすべきだ。