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僕と俺の異世界漫遊記  作者: P・W
第二部 建国と変貌編
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第53話 翔太の後始末は面倒くせぇ(3)

 とにかく、今のショウは今日の翔太の行動について把握できていない。今日の翔太の行動を知っていそうな、デリックとチェスにでも聞きに行くべきだろう。その前に、このままではショウだと判断は出来まい。髪留めをして、メガネを外す。まずはデリックからだ。


 ギルドハウスへ行き、ギルドの1階受付に行く。ネリーも今日の業務が終了しているようだ。この頃のネリーは過剰労働もいい所だ。デリックが配慮したのだと思われる。受付の男性にデリックに会わせるようにいうと、すんなり支部長室へ案内される。ショウが来ることは予想していたようだ。


「デリック。俺は今日の事情を把握していねぇ。説明を頼む」


「ん? 了解した」


 デリックは一瞬不思議そうな顔をしたが大きく頷く。ショウが翔太の記憶について聞くのは初めてだ。翔太の記憶を前提として話をする事も多々あった。デリックは翔太の記憶はショウがすべて把握していると考えていたことであろう。このデリックの反応は十分に理解できる。

 デリックから今日の昼間に起こったことの委細を聞く。とは言っても、デリックもチェスから報告を受けたに過ぎないので偏った知識ではあるのだが……。

 

 ダンカンの妻子の公開処刑に端を発したビフレスト王国グラシル全土での武装蜂起と、バートウィッスル侯爵軍による住民への大虐殺。チェスは、武装蜂起した住民とバートウィッスル侯爵軍の双方を無力化したらしいが、数百人規模での犠牲者が出たらしい。チェスが介入しなければ数千人、いや、数万単位での死者になっていたことだろう。チェスは、対貴族派組織――狐火のアジトに保護した武装蜂起した領民を連れて行っていたようだ。

 その後、バートウィッスル侯爵軍と貴族平民連合軍が衝突し、翔太が無茶苦茶やって、バートウィッスル侯爵軍は事実上壊滅し、バートウィッスル侯爵は捕縛された。

 こんなところだろう。


(バートウィッスル侯爵っていえば、ラシェルを攫おうとした黒幕か。まさか、翔太に先を越させるたぁなぁ。

 まあいい。黒幕といってもどうせ蜥蜴の尻尾だ。真打は他にいる。そいつは絶対にこの俺がぶち殺す。

  しかし、三国同盟か――)


 魔物の国ニュクス、グラシルと、チェス、アドルフ、ジェイクを王とする国――アイテールの3国同盟。確かにこれで、ニュクスと新しい国に物資が流通し経済は活性化する。当面、ニュクスの国民が飢える心配はなくなった。流石はテューポという所だろう。

 それに、ビフレスト王国もグラシルを通じて、ニュクスとチェス達の国と同盟関係を結んだ。つまり、王権派はこれでこのアースガルズ大陸最強の2か国の後ろ盾を得た事になる。

 まさに、両者の利害が一致したわけだ。


「三国同盟ねぇ……」


「悪りいな。勝手に締結させてもらった」


 デリックがショウに全く申し訳なさそうもない声色で御座なりの謝罪をいう。


「構わんよ。ニュクスとチェス達の国――アイテールの真のトップは事実上テューポだ。俺は関知していねぇ。

 それに、ニュクスにもチェス達の国にも悪い話じゃないみたいだしな」


「話は変わるが、お前チェスに何したんだ? 一晩で存在自体が全く別物に変わってたぞ。あれはもはや人間種、いや生物ではない。あれはまるで――」


「企業秘密だ。それよりチェスを勝手に部下にして悪かったなぁ」


 デリックは微笑が口角に浮かぶ。


「いや~、チェスには引き続きギルドの冒険者でもあることを納得させた。つまり、引き続き俺の部下でもあるという事だ。寧ろ、途轍もない力を有する部下が手に入り感謝しているぜ」


「そうか……テメエがいいと言うなら、それでいい」


 聞く事は聞いた。席を立ちあがり、軽く挨拶をして支部長室を後にした。





 ギルドハウスを出ると、喫茶店ブリューエットへ行く。金を払っていなかったからだ。丁度店は閉店らしく、閉店の看板が置いてあった。まだ明かりが灯っていたので、中に入る。


「あっ! ショウ」


 受付ではスクルドが金の勘定をしていた。ショウを見ると子供のように頬をほころばせるが、直ぐにふくれっ面になる。 

 

「俺とヴァージルの分、いくらだ?」


「1580Gになるです」


「ほらよ」


 アイテムボックスからGを出しテーブルの上に置き、右手を挙げて去ろうとすると、スクルドが右腕に抱き付いて来た。


「夜道は危ないです。わたくしを送ってほしいです」


「ふざけんな! 何で俺が!」


 そのショウの言葉にぷんと怒った顔で抱きしめる右腕に力を込めてくるスクルド。


「送ってくれるまで離さないです」


 振り払おうとするが、例のごとく出来ない。砂糖より甘い自分に内心で頭を抱えながら、近くの椅子にデンと腰をかける。スクルドはニンマリと微笑んで、仕事に戻って行った。ショウが途中で帰るとは微塵も考えていないらしい。そのスクルドの期待に乗ってやる必要もないだろう。だいたい、子供ではないのだ。いくら夜間でも宿屋キャメロンまでなら帰れるだろう。まあ確かにスクルドは阿呆としか言いようがないほど無防備ではあるから、襲われる危険性はないとはいえないのだが……。

 ……スクルドが襲われる場面を想像し、わけのわからない憤りが胸の奥にわく。椅子から立ち上がる気が全く起きなくなってしまった。いくつかのスクルドを待とうとする愚かな自分に対する上手い言い訳を構築し、椅子に座ったまま目を閉じる。


 十数分間待たされた挙句、スクルドが出てくる。スクルドは昨日会った白いワンピース姿だった。まあ着るものがないからだろう。


「ショウ。待ってくれてありがとです」


「…………」


 ショウはその言葉に答えず、スタスタと歩き出す。スクルドが店員達に頭を下げているのもお構いなしだ。ブレンダを含めた店員達がショウを遠巻きに凝視してくるので、その視線から早く逃れたかったためだ。オカマ店長が手を振っていたので一瞥し左手を挙げる。

 ショウに遅れない様に、スクルドが喫茶店ブリューエットから慌てて出て来る。再び右腕に抱き付いて来る。頬をヒクつかせながら、宿屋キャメロンまでの道を歩く。

 道すがら、ショウが聞いてもいないのにスクルドは喫茶店ブリューエットで働く事になった経緯を説明し始める。

 なんでも、スクルドがメインストリートをブラブラと歩いていると、今度はゴロツキに絡まれたらしい。それを聞いて頭が痛くなった。なぜ、比較的近いキャメロンまでショウに送るように頼んで来た理由がわかったからだ。

 昨日と同様に裏路地に連れ込まれそうになったところ、喫茶店ブリューエットのオカマ店長に助けられたらしい。その後、オカマ店長にウエイトレスとしてスカウトされたらしい。

 日給でもらえるので明日は昼休みにブレンダと服を買いに行くとのことだ。まあ、ブレンダがついてれば襲われる事はあるまい。


 宿屋キャメロンに着くと抱き付いていた右腕から離れ、顔一面に満悦らしい笑みが浮かべながらショウを注視してくる。


「なんだ?」


 気まずい雰囲気を誤魔化すようにぶっきらぼうに答えるショウ。


「ありがとうです。ショウ」


 スクルドは顔に喜色を浮かべながらショウの頭を数回撫でる。昨日と同様、思考がフリーズし、同時に暖かな気持ちがショウを満たす。少しの間、スクルドに為されるがままになっていたが、ばね仕掛けのようにスクルドの手を乱暴に払い、踵を返しその場を去った。


 逃げるようにメインストリートまで来る。


(あ、あの女ぁぁ!! 毎度毎度、ふざけやがって。このまま彼奴にペースを握られてたまるか。今度あったときは――)


 薄ら笑いを顔に張り付かせていると、突如ショウの背中を『バンッ!』とかなりの強さで叩かれた。ショウでなかったら、肉片も残さず消滅していたことだろう。これ程の力を出せる奴など限られている。


「アゼル、今の俺は機嫌が悪い。次に――」


 ショウは後ろを振り返り、濃密な殺気をアゼルに浴びせかける。アゼルは素知らぬ顔で何度も『バンッ! バンッ!』と背中を叩く


「嘘をいうなよ。お前ぇ、毒気抜けた顔してるじゃねぇか。それで、機嫌が悪いと言われてもなぁ。説得力マジにねぇよ」


 ニタニタと口角に笑みを浮かべ、ショウが今決して触れてほしくない所を付いて来る。だが、アゼルの言う事は事実だ。気持ちは驚く程静まっており、怒りが湧いてこない。


「テメッ! 糞……」


 アゼルを無視して、次の向かうべき場所へ行く事にする。アゼルにはどの道、言葉で争っても勝てない。それは数日知り会ったに過ぎないがすでに実証済みだ。


 城門へ抜け、グラシルへ高速移動する。グラシルへの道は翔太がチェスと一緒にエルドベルグへ帰還する際の記憶を認識したことから判明している。

 御叮嚀にアゼルも付いて来る。フローラのように鬱陶しいわけでもない。単に少々ショウをイラつかせるだけで別段害があるわけではない。放っておいても問題はない。

 

 地面を蹴り超高速で移動する。あっという間に、グラシル直轄領に着く。デリックの話だと、このグラシル直轄領の南東に砂漠があるはずだ。すぐに移動を開始する。


 グラシル直轄領から直線距離で20km程度の所に砂漠の入り口らしき場所があった。『砂漠の入り口らしき(・・・)』場所と判断したのは入り口だけが砂漠であった跡をかろうじて残していたからに過ぎない。

 入口付近の砂と岩だけの見るからに死の大地とは対照的に遠方に視認できる瑞々しい草原がまるで砂漠に浮かぶ蜃気楼のように存在していた。

 その広大な見晴らしがよい草原には4つの巨大な都市がショウの人外化した視力で確認する事が出来た。魔物の国――ニュクスと同じだ。チェス、アドルフ、ジェイクの支配する各都市だろう。4つ目の都市は商業都市だと思われる。情報と技術の漏洩を避けるためだろう。抜け目のないテューポが考えそうなことである。


「餓鬼、お前ぇまた無茶したなぁ」


 片側の口角を吊り上げながらアゼルが呟く。この非常識な光景を見ても驚いている様子など皆無だ。


「無茶したのは俺じゃねぇよ。テューポとチェス達だ」


 アゼルはテューポの名を聞きピクッと眉を動かした。その凄まじい嫌悪感を浮かべている様子からもアゼルにとってテューポは敵以外の何者でもないのだろう。まあ、アゼルとテューポがドンパチやりさえしなければ後はどうでも良いわけだが。


 気配が前方に突如現れる。チェスが右腕を胸に当てて頭を垂れていた。


「ショウちゃん。そろそろ来る頃だと思って待ってたよ。アゼルさんもどうもぉ」


「おうよ」


 いつの間に仲良くなったのかアゼルとチェスはお互いの右手の掌を弾いて挨拶をしていた。ショウは半眼で二人を見た後、チェスの次の言葉を待つ。チェスが此処にいたのも偶然であるはずがない。ショウに用があるのは間違いあるまい。


「ショウちゃんには今日2か所ほど回ってほしい場所があるんだ」


「わかった。とっとと案内してくれ!」


 チェスに案内するように告げチェスの後を付いて行く。



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