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僕と俺の異世界漫遊記  作者: P・W
第一部 覚醒編
16/285

第15話 迷子の子供を面倒をみよう(6)

 

 その後優勝者の挨拶をさせられ、やっとの事で翔太は解放された。受付に行き優勝アイテムを貰う事にする。

 受付で10cm四方の小箱と電話帳のような取説を祝いの言葉と共に貰う。

取説があまりに分厚い。読むのは後にした方が良いだろう。宿屋キャメロンについてからゆっくり読むことにする。

 フィオン達の待つ席にいくと、やはりエミーが興奮気味に翔太のお腹に顔を埋めて来た。


「ショウタ、勝った! 勝った! おめでとう! ケト、おめでとうは?」


「にゃあ~」


 エミーが腕の中の白い子猫を翔太の前に向けると、白い子猫は可愛らしく鳴く。翔太が試合している間にケトと名付けたらしく、エミーと意思疎通ができるようだ。

 翔太はエミーとケトの頭をグリグリと撫でてやるとエミーはキャッキャッと喜び、ケトは喉を鳴らした。


「ヴァージルさん。エミーを見ていてくれてありがとうございます」


 翔太が頭をペコリと下げる。


「いえ、私はそんな……ショウタさん……おめでとう……ございます」


(ヴァージルさん。そんな顔赤らめて俯きながら言ったら、また妙な誤解されるって!

 御祝いの言葉を言うのが恥ずかしいんだろうね。まあ気持ちは分かる。さっきまで、僕とヴァージルさん、壮絶に仲違いしてたし……)


 フィオンとレイナに視線を向けると予想通りの展開となっていた。

 フィオンは意味ありげなニヤニヤした笑顔を向け、レイナは疑心のたっぷりこもった瞳で翔太を見つめる。

 翔太はフィオンとレイナに頭を下げる。


「フィオン、レイナ、エミー見てくれてありがとう」


 レイナは翔太の御礼には答えずそっぽを向いて剥れている。試合が終わってからというものレイナの機嫌がすこぶる悪い。

 そんなレイナの代わりにフィオンが答えた。


「気にするな。言っただろ? エミーの嬢ちゃんと一緒だと楽しいからな。

それはそうと、ショウタ、優勝おめでとう! まさかマクドナフに勝つとはな」


 翔太は今まで気になっていた事をフィオンに聞くことにした。


「ねえ、マクドナフさんの応援しなくてよかったの? 見たところ僕の応援してたみたいだけど……」


「いいんだよ。俺やレイナが応援してもマクドナフはあまり喜びはしない。

今回マクドナフが一番喜んだのはショウタというライバルの出現だろうな」


「僕、ライバル視されたってこと?」


「ああ、間違いなくロックオンだと思うぜ。

 正直、この頃マクドナフは戦いに興味を失っていたんだ。同世代で対抗できる者は皆無に等しかったからな。楽に勝てるくらいならまだしも、手加減しないと相手が死んじまう。退屈でしかたなかったんだろうさ。

 まったくグラディス兄貴の思惑通りに進んでいるようで、多少気に入らんがな」


 フィオンの話は何時の間にか身内の愚痴に変わって言った。普段の爽やかイケメンらしからぬ邪悪なオーラを(まと)いながらブツブツと呪詛を吐くフィオン。放っておく事にしよう。

 翔太はそっぽを向くレイナの頭に軽く手を乗せる。


「レイナ、エミーを見ていてくれてありがとう」


「……どういたしまして」


 レイナは僅かに頬を紅色に染めながらも今度はなんとか答えてくれた。ヴァージルの目がやけに鋭かった気もするがこれもスルーする事にする。翔太は疲れているのだ。


 エミーを見ると、もう眠いのだろう。目がショボショボしている。腕時計を見るともう夜の10時だ。どうやら8時間近くこの大会に拘束されていたらしい。子供は眠る時間だ。

 フィオン達もエミーがオネムな事がわかるとすぐに動いてくれた。

皆で話し合った結果、今日エミーはヴァージルの宿舎に泊まることになった。エミーは翔太のズボンを握って離さないので、ヴァージルの宿舎まで翔太がエミーをおぶって行くことにする。

 レイナがさらに機嫌が悪くなったが、こればかりは仕方ない。フィオンに優勝賞品と共にすべて押し付けた。

 できれば、翔太が戻るまで優勝賞品について調べておいてほしいと頼むと電話帳のような取説を見て顔を命一杯顰めていた。





 さすがは貴族。ヴァージルの宿舎は上流区にあった。

 上流区に足を踏み入れるのはこれが始めてだ。少し緊張する。

 上流区というだけあって、道は綺麗に整備されており、ゴミ一つさえ見当たらない。ご丁寧に衛兵が真夜中にも関わらず一定の距離で配置されているのを見て少し引いた。


「ショウタさん。今日はすいませんでした」


 ヴァージルが思いつめたような顔で、歩きながら翔太に頭を下げて来る。


「よしてください。謝るのは僕の方です。今日、僕は貴方がエミーを傷つけると疑ってしまいました。冷静になって考えれば貴方がエミーを傷つけるはずなどあり得ないのに……。

 貴方がブルーノさんと許嫁だと聞いて少しムキになっていたようです。すみませんでした」


 翔太が頭を下げ、顔を上げるとヴァージルは嬉しそうにほほを赤らめる。

このヴァージルの姿が若干引っかかったが、彼女の言葉に耳を傾ける事にする。


「あの状況なら翔太さんがそう勘違いなさるのは当然です」


「いえ、ヴァージルさんがそんな人ではないのは明らかでした。それなのに僕は――」


「ショウタさんがそう考えるのも仕方ないとさっきそう言ったではありませんか! 

 それにブルーノがショウタさんにした失礼の数々は許される事ではありません。その原因を作ったのも私です。全て私が悪いです」


「だから、ヴァージルさんは全く悪くないですって。悪いのは僕ですよ」


「いいえ、それだけは譲れません。悪いのは私です」


 いつの間にか翔太とヴァージルはお互い一歩も譲らず睨みあっていた。

どうやらヴァージルとはこのように口論をしている方が正常らしい。それを理解して急に馬鹿馬鹿しくなると同時に、腹の底から可笑しさが込みあげきた。ヴァージルも同様らしく、翔太の顔を見てクスッと吹き出す。

 真夜中に見つめあって笑みを浮かべる2人。傍から見るとかなり不気味だ。変な噂を立てられたら申し訳ない。さっさと宿舎までの残りの道を進もう。



 聞くところによるとヴァージルの宿舎はメインストリート沿いの領主の館のすぐ傍にあるらしい。

エルドベルグの領主の館が眼前に見えてきた。そのとき――。


「貴様ら止まれ!」


 上流区らしからぬ物騒な声が夜空に響き渡り、翔太達は純白の絢爛な鎧を着た騎士風の者達に囲まれてしまった。純白の騎士達は翔太達に油断なく剣を向ける。

 寝ているエミーを傷つけられるとでも思ったのだろう。ケトの目が怪しく危険な赤い色に変わる。

 それを見て爆発しそうな焦燥を覚える翔太。ヴァージルも同じらしく、額に大粒の汗が浮かんでいる。


(フィオンのいう事が本当なら、ケトが本気で攻撃したらこの騎士達など一瞬で消し炭だ。マズイ! こんなところで刃傷(にんじょう)沙汰(ざた)は絶対にマズイ!)


「ケ、ケト。攻撃しちゃ駄目だよ!」


「そうよ。ケト、絶対にダメ!」


 翔太とヴァージルの制止の言葉でケトの攻撃一歩手前という雰囲気が多少和らいだ。

 もっとも、目の前の騎士達がエミーに危害を加えるとケトが判断すればすぐにでも消し炭だろうけれども……。

 騎士達もケトが普通の子猫ではないのに気付いたのか一層警戒を強くする。


「エミー様から離れろ!」


 筋骨隆々の大柄の騎士が強い殺気を含んだ声を翔太とヴァージルにぶつけて来る。

 この世界では比較的珍しい翔太と同じ黒髪だ。もっとも、翔太とは違い顔や佇まいには気品が溢れていたが。


(エミー様? またまた面倒なことになったなぁ。こっちの世界に来てから厄介事ばかりに遭遇する)


「ちょっと待て下さい。エミー様とはどういうことですか? 貴方はエミーのこと知っているので?」


 騎士達も翔太のセリフに困惑気味に顔を見合わせている。もう剣を翔太達には向けていない。どう見ても賊には見えないヴァージルの存在のせいだろう。 ヴァージルに感謝しつつ、騎士達に簡単に事情を説明する。


「今日のお昼頃、この子が迷子になっていたので僕が保護したのです。ギルドに保護者の方の捜索依頼をしましたので、調べていただければわかります」


 ヴァージルも翔太の言葉に信用性を付与してくれる。


「私は冒険者ギルドの職員です。こちらのショウタさんの依頼で、今日1日こちらのエミーさんの警護をしていました。これがギルド職員の身分証です」


 黒髪の騎士がヴァージルから身分証を受け取り確認すると、すぐに剣を鞘に納めるように騎士達に告げる。他の騎士達も事情が呑み込めたのか翔太達に対する警戒心を完全に解いた。

 

 翔太がエミーを黒髪の騎士に渡そうとするが、翔太の上着を掴んで話さない。その光景を騎士達は暖かな表情で見ていた。

 黒髪の騎士が翔太に頭を深く下げる。


「親切を仇で返す事をしてしまい申し訳なかった。エミー様は私達にとって命よりも大切な方、どうか許してほしい」


「僕達は構いませんよ。むしろ、そうであってほしいと思ってます」


 騎士達も翔太の答えに満足したのか、感謝の籠った暖かい眼差しを向けて来た。

 エミーの手を優しく翔太の服から離し、黒髪の騎士にエミーを渡す。最後にエミーとケトの頭を一撫でする。エミーは気持ちよさそうに、ムニャムニャと寝言を言い、ケトは喉をゴロゴロと鳴らす。


「それじゃあ、夜も遅いですし僕達はこれで失礼します。ケト、エミーを頼んだよ」


 翔太とヴァージルがその場を去ろうとすると、黒髪の騎士が慌てた様子で翔太とヴァージルの前に立ち塞がった。


「どうか私達と一緒に来ていただけないだろうか? 

 エミー様がこれほど世話になって何の礼もせずに返したとあっては私が主人に叱られてしまう。私のためだと思ってお願いする」


 黒髪の騎士は一歩も引くつもりはないのだろう。深く頭を下げて一歩も姿で動かない。

 ヴァージルに視線を向けると僅かに肩を竦めた。従うしかないというジェスチャーだろう。

 そういえばケトの事をエミーの両親に説明すべきとフィオンが言っていた。一夜にして我が子が歩く人間兵器になったのだ。両親が大激怒する可能性も十分あり得る。正直言うとあまりついて行きたくはないが、選択肢は他に在りそうもない。


「わかりました。エミーさんの御両親に挨拶だけさせていただきます」


 黒髪の騎士は険しい眉を少し解き、自己紹介をする。


「私の名前は、ハワード・ミュールズ。ビフレスト王国聖王騎士第四師団の団長をしている。よろしく頼む」


 ハワードの自己紹介を聞いてヴァージルの顔が引き()るのがわかった。猛烈に嫌な予感がする。いや違う。嫌な予感しかしない。

 とは言え翔太に選択肢が与えられている訳でアもない。もはや成り行きに身を任せるしかない。

 ヴァージル共々騎士達と簡単な紹介と挨拶を交わす。

 ヴァージルの顔は気のせいか若干蒼白い。エミーの正体に想像がついたせいかもしれない。





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