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僕と俺の異世界漫遊記  作者: P・W
第一部 覚醒編
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第10話 迷子の子供の面倒をみよう(1)

 午前中の内にエルドベルグに戻って来る事が出来た。フィオン、レイナと今日の戦闘についての簡単なミーティングを行った。

 ミーティングを通じて自分のその日の戦闘を振り返り、分析することにより自らの欠点を見つける。その欠点を少しずつそぎ落とす。それがフィオン流の強くなり方だった。

 そのコツは長所を磨くのではない事。戦場では欠点があれば即死亡する。長所をいくら磨いても死んでしまっては意味がない。長所云々を考えるのは本当の達人になってから。

 これはフィオンの師匠の異世界人に叩き込まれた事らしい。ベテランの冒険者のこのような戦いの取り組み方は翔太にとって極めて良い勉強になった。





 ミーティングが終了し自由時間となったので、午後のエルドベルグをブラつくことにした。翔太は日差しのみずみずしい初夏のにおいを満喫しながらメインストリートを歩いていた。少々小腹がすいたのでメインストリートと直角に交わるストリートへ入って行く。

 すると今日はやけに出店の数が多く、人の出入も多い。気になったので出店で、焼き鳥モドキを買い、その注文ついでにその理由を聞いた。どうやら今日は『アームレスリング大会』があるらしい。ようは腕相撲大会である。腕相撲がこの世界にもあることに妙な親近感を覚える。


(もしかしたら、腕相撲も異世界人の発案かもしれないけどね……。もう少ししたら大会の見物に行くのも面白いかも~)


 焼き鳥を左手に持ち食べながら出店を見回る。

 暫らく、出店の並ぶ通りを見物しながらゆっくりと歩いて行く。前に金色に輝く髪を二本三つ編みにして後ろに垂らしている可愛らしい7~8歳くらいの少女がトボトボと歩いていた。かなり豪華そうな服を着ている。エルドベルグには富豪も多いと聞く。その迷子だろう。従者とはぐれたのではないかと予想される。

 面倒事はごめんなので見捨てる事にする。内心で壮絶にごめんなさいを繰り返しつつ少女の脇を過ぎ去ろうとする。

 

 翔太が少女を通り過ぎようとするとき、少女が足元の石に躓きコテンとスッ転んだ。あたかも翔太にぶつかったようであり、周囲が翔太と少女を見る。このまま見捨てては、少女を突き飛ばし、謝りもせずに立ち去る青年の図である。あまりに洒落にならない。仕方なく、少女に向き直り、起き上がらせてパンパンと服に着いた土をとってやる。そして少女の視線までしゃがみその碧眼を見ながら語り掛ける。


「君、大丈夫? 痛いところない?」


 少女は翔太を警戒しつつも、遠慮がちにコクンと頷く。翔太は良かったと思い立ち上がる。笑顔で少女の頭を数回撫でる。


「歩くときはちゃんと下を見て歩きなよ。飛び出すのもダメだ。じゃあねぇ。十分気を付けるんだよぉ~」


 翔太は少女から視線を外しまた道を進もうと歩き出す。だが右脚に何かがへばり付く感触がした。右脚に視線を向けると少女が必死にしがみ付いていた。


「あの~、重たいんだけど……」


「…………」


(まいったな~。でもコアラみたいで可愛いや)


 なぜか懐かしい匂いがして思わず笑顔が漏れる。翔太にはもう少女を見捨てる気はさらさらなくなっていた。このような心変わりが早いのも翔太の特技の一つなのだ。まあ欠点とも言うかもしれないが‥‥‥。

 翔太は右脚から少女を優しく引き剥がし、またしゃがみ込み少女と同じ目線で話始める。


「お名前は? 住んでいる場所わかる? 送ってくよ!」


「エミー。住んでいる場所は知らない」


(だよね~。知ってたら、もはや迷子じゃないしさ。これからどうしよう。この子を連れて保護者を探す手もある。でもそれではこの子を連れまわして、クタクタにさせちゃう。それじゃあ可哀想か。じゃあ、ギルドへ行って預かってもらうしかないね)


 翔太はエミーと簡単な自己紹介をしてから、迷子にならない様に手を繋いでギルドハウスまで連れ行った。

 ギルドの受付まで行くと冒険者ギルドの受付嬢ヴァージルが迎えてくれた。


「ショウタさん。今日はどういたしましたか?」


 ヴァージルは質問しながらも、終始翔太の右手を握る小動物のような少女に視線を注いでいた。


「この子、迷子みたいなんです。預かってもらえます?」


 この翔太の言葉に、翔太の右手を握る少女の手に力が込められた。おそらく、見捨てられると思ったのだろう。そんな少女に暖かい視線を向けながらヴァージルは申し訳なさそうに答える。


「すいません。ギルドも慈善事業ではないので迷子のお預かりはしておりません」


「うーん。じゃあ、交番みたいな場所ってあります?」


「交番ですか? 交番という言葉は良く分かりませんが衛兵詰所が一応あります……」


 ヴァージルの言いよどむ様子を見てすぐに翔太は察した。エルドベルグに来てからこの都市に対する一番の感想は、治安がとにかく悪いことだ。主人らしき人が奴隷を道端で蹴っていたり、スリの少年が捕まってボコボコに殴られているのを見た。フィオンにどんなに頭に来ても決して手を出すなと言われたのを覚えている。

 そんな調子では衛兵詰所も少女を預かってくれるような場所ではあるまい。


「何か方法ありませんか?」


 ヴァージルは暫らく思い悩んだ後、躊躇(ためら)いがちに一つの提案をしてきた。


「ショウタさんがギルドに迷子の子供の親の捜索を依頼する形ならばできます」


「じゃあ、それします」


 即決する翔太にヴァージルは目を見開いて驚いた。


「お金がかかるんですよ。よろしいんですか?」


「いくらですか? 20万Gまでなら出せます。それ以上するなら後で必ず払います」


「いえ、そういう事ではなくてですね。ショウタさんがお金を払ってもよろしいのですか?」


「え? どういうことでしょう? 仰っている意味が分からないのですが」


 ヴァージルは未知の物体Xでも見るかのような視線を翔太に向けてくる。翔太は首をかしげながら、ヴァージルの次の言葉を待つ。ヴァージルは気を取り直したのか元の営業スマイルに戻った。


「ええと、依頼料10万Gとなります。よろしいでしょうか?」


「はい。お願いします」


 翔太は皮の鞄から金貨10枚を取り出しカウンターに置く。ヴァージルは金貨を数え終わると翔太に向き直り笑顔で丁寧に説明しはじめた。


「タミヤ・ショウタ様、迷子の雑務依頼をお受け(たまわ)りいたしました。依頼内容は迷子の両親の捜索と迷子の子供の保護となります。一度受理成されましたので撤回は原則としてできない規則となっております。ご了承ください。

では子供と両親の特徴をお聞きしたいので1階の応接室までおいでください」


 それから一階ギルドの応接間に案内された。そこでエミーについていろいろ質問したが、分かった事はエミーという名と種族が人間族であること。歳が7歳であり、家はどうやらエルドベルグにある事だけであった。

 だが少なくとも家がエルドベルグにあるのは大きい。両親が見つかるのも時間の問題であろう。


 翔太は一安心し、ヴァージルにエミーの事を頼んで応接室を去ろうとすると、エミーがまたコアラの様に翔太の足にしがみ付いて離れない。

 翔太はまたしゃがんで、エミーに今家の人を探しているからここで待つように言うが、翔太が去ろうとすると、足にしがみ付いて来た。


(確かに、迷子は心細いよね。なんか懐かしいな)


 翔太は幼い頃、長谷川心菜に連れられて新宿まで遊びに行った事を思い出していた。

 心菜に買いたい物があるからここで待っていろと言われ、街のど真中で数時間も放っておかれたのだ。当時の恐怖は本来なら凄まじいものであっただろう。

だがそのとき翔太の手には姉の柚希の手がきつく握られており、ほとんど恐怖を感じなかったのだ。

 ちなみにその後心菜は、翔太の祖父、玄斎にこっぴどくヤキを入れられていたが。


(どうせ今日一日中暇だ。この子に付き合おう! この子を連れてもエルドベルグの見学という僕の目的は達成できるしね。)


「じゃあ、エミーの家の人が見つかるまで僕と一緒にエルドベルグの見物でもしに行く?」


「うん! 行きたい」


 エミーは元気よく答える。翔太はエミーの頭を撫でる。そして、翔太から決して離れない事、変な人にはついて行かない事、何かあったら大声で助けを呼ぶことなど、必要な注意をし、エミーの手を引き今度こそ部屋を出ようとすると、今度はヴァージルに止められた。

 

「ショウタさんはまだHクラスです。護衛のクエストはDクラスから。今エミーちゃんを連れて一人でエルドベルグを歩き回るのは危険です」


 翔太はどうやってヴァージルを説得しようかと悩む。確かにこのヴァージルの指摘は午前中までなら的確だっただろう。だが今はフィオンさえ驚くほど翔太は強くなってしまっている。ゴブリンを素手で(ほふ)れる程に……。

 一度宿屋キャメロンまで行ってフィオンにでも相談するかなと考えていたら、ヴァージルから驚くべき提案がなされた。


「私も今日は午前中で仕事が終わりですので私も御一緒いたします」


 綺麗な女性と歩くといつもろくな事がない翔太は無意識のうちに拒絶反応を起こし、やんわりと断るが、ヴァージルは思ったよりもずっと押しが強かった。

押しに弱い翔太に抵抗できるはずもなくヴァージルの同行が決定してしまう。





 エミーのお腹がクゥーと可愛らしく鳴ったのでヴァージルのお勧めの喫茶店まで案内された。移動中、エミーがヴァージルと翔太の手を握って来た。この翔太達の姿は傍から見れば父母が子供を連れて歩いている図だ。周囲から奇異の視線が翔太達に降り注ぐ。

 その視線に強いトラウマがある翔太はまさに(はり)(むしろ)状態だった。ヴァージルもさすがに恥ずかしかったのか、頬を赤く染めていた。そんな恥じらうヴァージルにドキッと思わずしてしまう翔太だが、絶世の美女のヴァージルと自分ではどう見ても釣り合っていない事を思い出し、急速に冷めていった。

 喫茶店の名前は『ブリューエット』というらしい。

三人で喫茶店『ブリューエット』の中に入るとウエイトレスらしき女性が席まで案内してくれた。このウエイトレスはヴァージルと友達らしい。エミーを真中に翔太のヴァージルが両側から手を繋ぐ状態なのだが、それを見たウエイトレスの一言は翔太をひどく落ち込ませた。


「この子達(・・)迷子? 冒険者ってそんな事もやるのね。」


 この言葉にヴァージルが吹き出してしまい、翔太がジト目をヴァージルに向けると、ゴホンという咳払いをして説明し始めた。

 その後簡単な自己紹介をした。ウエイトレスさんの名前はブレンダというらしい。ヴァージルと同じくらいの年齢だから19歳くらいだと思う。茶髪の肩までかかる髪を持つ美人とまではいえないが存在感がある女性だ。

 翔太達三人は席につきおすすめのお茶とケーキらしきものを注文した。この世界には緑茶もコーヒーもないらしい。コーヒー好きを通りこしてコーヒー中毒だった翔太にとって毎日の食卓にコーヒーが出ないのはまさに地獄だ。いつか絶対異世界にもコーヒーを作って広めてやると野望を抱く。

 注文したお茶とケーキらしきものが来た。エミーがフォークでケーキを突き刺すようにして口まで運び、ハムスターの頬袋の様に頬を膨らませながらモグモグと頬張った。あまりにも可愛らしいので翔太とヴァージルはそれを食べるのを忘れてエミーに見惚(みほ)れる。その視線が恥ずかしいのかフォークを止め翔太とヴァージルに疑問の視線を投げかける。


「どうしたの? ショウタ! ヴァージル!」


「いや、なんでもないよ。ねえ、ヴァージルさん?」


「え、ええ、ホントこのケーキ美味しいわね」


 素早くヴァージルが口にケーキを入れて咀嚼(そしゃく)する。誤魔化す事に成功したようだ。翔太もケーキとお茶を堪能(たんのう)することとした。

 お茶らしきものは、茶色の液体でどちらかと言うと紅茶に味が近くかなり美味しかった。一方ケーキらしきお菓子の方は甘さがやや足りなくカサカサしていて、お世辞にもおいしいとは言えない。

 将来、地球に帰るまでの間に機会があればケーキのお店を出したりしたら面白いかもしれない。その技術が翔太にはある。

 なんせ、姉――柚希という家事不能娘と十数年もの間一緒に暮らしてきたのだ。両親が忙しい時など全て翔太が家事をやっていた。

しかも長谷川心菜が給料日前に食事をせびりにきたときもほとんど翔太に命令が下る。だから翔太は一通り何でも作れる。特にケーキはケーキ好きな母と姉に命令されて頻繁(ひんぱん)に作っていたから自信はある。

 そんな事を考えてほくそ笑んでいると、ヴァージルから突如尋ねられる。


「ところで、ショウタさんはどこの国出身なのですか?」


 この問は翔太を著しく困らせた。正直に異世界人と言うわけにもいかない。翔太はまだヴァージルをそこまで信じられない。


「え~と……」


 翔太が言い淀んでいるとヴァージルが勝手に察してくれた。


「あ、言いたくなければ別に話さなくても良いです。出身国を言いたくない冒険者も多いですし」


「申し訳ありません」


 翔太は謝りつつも少し気まずくなったのでエミーに気になっていた事を尋ねた。


「エミー、君って兄妹いるの?」


 エミーは少しの間キョトンとした仕草をしたがすぐに答えた。


「お姉様がいる」


「そう、じゃあ僕と同じだね。優しい?」


 エミーも翔太と同じだといわれて喜んだようで得意気になって自慢する。


「うん、とっても優しいんだよ。それでね。とっても強いの」


(うぇ……僕の場合とそっくりだ)


「そ、そう、僕と同じだね。僕のお姉ちゃんも滅茶苦茶強いよ」


「うん、同じ! 同じぃ!」


 エミーはキャッキャッとはしゃぐ。どういう訳かヴァージルが寂しそうな顔をしていた。


「ヴァージルさん。どうかしましたか?」


「私、兄弟姉妹がいないから。少し(うらや)ましくて」


 話題の選択を誤ったと反省する翔太。そんな翔太の様子に気付いたのか、すぐにヴァージルはこぼれるような笑顔を向けてくれた。

 翔太は今の話題を変えようと考える。


「そういば、今日アームレスリング大会があるみたいですね」


 エミーはキョトンと小首をかしげ、翔太に疑問の視線を投げかける。


「アームレスリング大会って何?」


 翔太にはアームレスリングが地球と同じ意味、同じルールなのかもわからないし、その前にアームレスリングについて詳しい知識があるわけではない。腕相撲大会程度の知識しかなかった。咄嗟にどう答えようか迷ったが、黙っているわけにもいかず稚拙(ちせつ)な説明をしてしまう。


「腕相撲大会のことさ」


 翔太の説明でも全く理解できなかったらしい。エミーは頭の中で疑問符が乱舞(らんぶ)している様子だ。そこでヴァージルから助け舟が入った。翔太は大きく息をつく。


「アームレスリング大会は二人でお互いの力を競うゲームよ」


「力を競う?」


「そう。右肘を台の上に載せた状態でお互いの手を握り、相手の手の甲を台につけた方が勝と言う勝負。口で説明するより見た方が早いわね。次、見に行ってみる?」


「うん! 行くぅ!」


 ヴァージルのこの提案に身を乗り出すように賛成の意を示すエミー。エミーは残りのケーキを口に放り込りこんで早く行こうと翔太達にせがむ。

 兄弟姉妹のいないヴァージルにとって、エミーはまさに理想の妹なのかもしれない。まだケーキとお茶が大分残っているのにもかかわらず、エミーの催促(さいそく)に答え席を立ってしまう。翔太も軽いため息を吐いて席を立つ。





 会計を済ませて喫茶店『ブリューエット』を出ると、三人はアームレスリング大会の会場まで向かう。

 会場まで行く途中にヴァージルにアームレスリング大会について聞いた。やはり、発案は異世界人である。

 そのルールを聞いたところほとんど地球と同じだった。唯一違うところは、その商品の豪華さだ。優勝者に与えられる商品には毎年、七賢人の一人、発明王『レナルド・ダンクワース』の最新作が提供されるのが通例であり、金などいくら積んでも買えるものではない。翔太の予想だがこの人がアームレスリング大会を考案したのだろう。無茶苦茶なやり口からして間違いはない。

 この金を出しては買う事ができないアイテムや武器・防具を求めて多数の冒険者やこの日のために力自慢を雇った貴族、富豪達が多数エントリーしているらしい。特に今年の優勝商品はいままでとは桁が違うらしく、エントリー者は数倍から数十倍に膨れ上がる見込みとのことであった。

 ヴァージルから説明を受けていると会場である中流区にある大きな広場まで来ていた。この広場は地球でいう公園のような場所であり、サーカスや各種大会などの催し物が頻繁になされている場所らしい。広場の周りには多数の出店が立ち並び、沢山の人々の熱気と喧騒と言ってもいいほどの活気に溢れている。


「わあ。すごい! すごいよ。ショウタ! ヴァージル!」


 エミーはこれ程の人ごみは初めてだったのか、目をキラキラ輝かせながらキョロキョロと辺りを見回している。


「エントリー締切期限まで、あと30分程あります。試合はあと1時間程先でしょう」


 ヴァージルが腕時計を見る。この世界にも時計があるは昨日の夕食の席でフィオンに聞いていた。これも異世界人の発明らしい。翔太の腕にしている時計とこの世界の時計は約30分程ずれていたので、翔太は時計の時刻をセットし直した。翔太の腕時計は13:00分を示している。試合開始まであと1時間はある。


「どうします? 会場へ入ってどこか座れるところ確保しておきます?」


 ヴァージルもこの翔太の提案に頷きエミーの手を引き会場へ入ろうとする。だが手を引かれるエミーがヴァージルを上目遣いで見上げ言葉を発する。

 このエミーのヴァージルに向ける仕草と言葉は翔太に一抹の不安を呼び起こす。


「ねえ。ショウタと、ヴァージルは参加しないの?」


「わ、私? 私はあまり力が強くはないし。ショウタさんはどうですか?」


「ぼ、僕? 僕も無理ですって! 見ての通りのモヤシっ子です」


「私、ショウタとヴァージル、応援したかったのに……」


 エミーがなんともいえない悲しそうな顔をする。それを見たヴァージルが困ったように唇を噛み、思い悩み始めた。


(こ、この展開は……猛烈に嫌な予感がする。どうにかヴァージルさんの思考を正しい方向へ誘導しないと)


「あの、ヴァージルさん。僕思うんですけど――」


 翔太がヴァージルに最悪の展開から回避しようと提案をしようとしたのだが、実際に話し始める前にヴァージルの力強い声がこれを遮る。


「ショウタさん! お願いがあります」


意を決したような面持ちで翔太に向き直るヴァージル。


「な、なんでしょう?」


(最悪だよ。次の言葉が予想できる)


「私と一緒にアームレスリング大会に出場してください!」


「ちょっと待て下さい! 僕、マジで力ないですよ。ヴァージルさんだってついさっき自分でそう言ったじゃないですか!」


「人間にはやらねばならないときがあるのです。今がそのときです」


「そ、そんな無茶な……」


 ヴァージルは完全にやる気だ。もう何を言っても止まるまい。そう確信しエミーを横目で見る。翔太と目が合うとエミーはペロッと舌を出して微笑んだ。予想通り最初から彼女の作戦だったらしい。将来きっと男達を手玉にとる立派な悪女になる事だろう。


「無茶でもやるのです」


「はい、はい。わかりましたよ」


 もう、どうにでもなれと半場やけくそ気味に翔太は承諾する。ムキムキの大男達と腕相撲など悪夢でしかないが殺されることはないだろうから。

 



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