プロローグ
冒険者ギルドの会議室の中はむせ返る程の血の匂いが充満している。椅子も机もないただ広い部屋の中央の血だまりの上に田宮翔太は仰向けになっていた。
もう何時間経っただろうか。目の前の化け物共は悪鬼のような笑みを浮かべ翔太を何度も傷つける。翔太が少し前にラーニングしたスキル《高速再生》ですぐに翔太の身体は回復され、再び傷つけられ、弄ばれる。
当初は自らの身体が引き裂かれる事に恐怖した。生きたまま怪物に手足をゆっくりと齧られる事に絶望した。じきに世界が終わるんじゃないかというような痛みに涙した。
いっそこのまま狂ってしまいたかったが、それは許されてはいない。目の前の豪華な椅子に踏ん反り返り、恍惚の表情で翔太の惨状を眺めている化物との契約によって。
もっとも、それも最初だけだ。すぐに七転八倒の痛みにも慣れた。恐怖も絶望も別の感情へ塗り潰された。翔太の中にあった大切なモノが徐々に全く別のモノに変質し、禍々しい何かを形成していく。
今の翔太は極めて冷静だった。ただ冷静に自分の身体の一部を切断され、化物共に喰われている。
なぜこうなったのだろうか。突然こんな訳が分からない世界に召喚され、それでも幼馴染と姉を探し出そうと慎重に行動してきたつもりだ。だが、今化物共の玩具となっている。どこかで選択を誤ったのは間違いない。
翔太はこの十数日間の出来事を思い出そうとする。ビデオの巻き戻しのように克明に数日間に翔太が経験した出来事がイメージとして頭に浮かんでくる。
そうあれは――
お読みいただきありがとうございます。
今度こそ最後まで書き切ります。お許しいただけれるならもう一度完結の機会を頂きたく思います。