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生存不可区域  作者: 如月
4/12

生存3-2/2日目.救助部隊

 エレベーターに乗ることはできなかったが、覆面男はオレがこの階にいることに気付かなかったようで、そのまま上の階へと上っていった。このオフィスビルから脱出するなら今だ。上の階へ行った覆面男が戻ってくる前に降りなければならない。

 なるべく音を立てないようにしてドアを開けた次の瞬間、金属と金属がこすれ合うような轟音が耳元で響いた。それが何か考えたくもなかったが、それと顔との距離は数センチのため嫌でも分かってしまう。

 ーーーーどうやら、覆面男の罠にまんまと引っ掛かってしまったようだ。エンジン音が遠ざかっていったように感じたのは、エンジンを切ったからだろう。

 テレビで取り上げられるサイコパスは頭が良い奴が多かったが、この覆面男も例から漏れず頭が良かったようだ。

 そんな考察は置いておき、早く動かなければ次の一撃で確実に殺される。オレは転がり落ちるようにして階段を駆け下りた。

 覆面男は、顔の横にあったチェーンソーをオレがいた方へとスライドさせた。あと1秒でも反応が遅れたらオレの頭はとんでもないことになっていただろう。

 上がるよりは体力を使わないので楽だ。このまま行けば逃げ切れるだろう。

 が、オレが次の段に足をのせた時、体が空中に投げ出される感覚があった。勢いをつけすぎて、足を踏み外したのだ。

 オレの体は階段の突き当たりまで落下し、壁に打ち付けられた。視界の端では覆面男がゆっくり歩いてくるのが見える。

 急いで立ち上がろうとするが、踏ん張った左足に痛みが走って、うまく立ち上がれない。どうやら足首を変な方向に曲げてしまい、捻挫したようだ。

 手すりを掴んで何とか立ち上がったが、覆面男はそこまで迫っている。もうチェーンソーが届く間合いだろう。

 これ以上逃げられそうもない。


「……ここまで、か」


 覆面男はチェーンソーを思いっきり振り上げた。


 もうダメだーーーー


 オレが生きることを諦めた瞬間、突然覆面男の頭から血が噴き出した。その血液はオレの顔まで飛び掛ってくる。

 覆面男はその場に力なく倒れ、しばらく痙攣していたが、すぐにピクリとも動かなくなった。倒れる時にチェーンソーが体の下敷きになり、非常にグロテスクなことになっている。

 自身の死を間近に感じたからかは分からないが、そんな光景を見ても特に何とも思わなかった。何が起きたのか全く理解できない。とりあえず助かったことは分かった。

 覆面男の亡骸を呆然と眺めて突っ立っていたら、足首に鋭い痛みが走った。どうやらアドレナリンの効果が切れたらしい。これはしばらく痛むだろう。

 この痛みでオレの思考は元に戻った。チェーンソーは止まることなく覆面男の体を刻み続けている。ぼんやりとしていた意識がが元に戻った今、この凄惨な場所に居たら気が狂いそうだ。

 オレはくじいた左足になるべく負担をかけないように下まで降りた。片足だけで降りるのは上へと上がる時と同じぐらいきつかった。

 非常階段から出て、安全確認のためロビーを見渡してみる。周囲は覆面男の活躍? によってほとんど一掃されたらしく、奴らはいなかった。

 ここでならしばらく休憩しても問題ないだろう。壁にもたれかかるようにして座り、さっきのことを考えた。

 覆面男の頭が弾ける瞬間、窓ガラスが割れていた気がする。ということは、他の誰かが何かを投げ込んだ? いや、覆面男がいたのは地上5階だった。地上から20メートルは離れているわけだ。

 そういえば、チェーンソーのエンジン音に混じり、火薬が爆発を起こしたような音が聞こえた。火薬を使う武器といえば、やはり銃だろう。

 いろいろな考えを巡らせていると、複数人の足音がロビーに聞こえてきた。小走りしているようなので、奴らではないことは確かだ。

 出入口に視線を向けていると、黒い戦闘服にガスマスクといった装備の5人が見えた。

 手にはスコープが付いた自動小銃。その統率された動きから訓練された兵士だと感じられる。

 一通り周囲の安全を確認すると、先頭に立っていた人が無線機に手をかけ誰かと話し始めた。


「こちらアルファチーム。HQ、応答せよ」

『こちらHQ。何か見つけたか? どうぞ』

「生存者1人を救出した。これより回収地点へ向かう。オーバー」

『了解した。健闘を祈る。オーバー』


 先頭にいた人はHQという人物と連絡を取ったようだ。民間人1人とは、おそらくオレのことだろう。

 無線機を胸の辺りにあるケースにしまうと、隊長格の男はオレに向き直った。


「あ、あなた達は?」

「私たちは東京都に取り残された民間人を救助するために派遣されたアルファチームだ。これから回収地点へ向かい東京都から脱出する。立てるか?」


 脱出? 今脱出と言ったのか?

 脱出という言葉で思考がまた停止しかけたが、この東京都から出られるということはしっかり理解できた。


「はい、まあ、何とか」

「よし。本宮! 上にいる岩波に降りてくるよう伝えろ」

「了解リーダー、今から伝える」


 本宮と呼ばれた男は、無線機を取り出して岩波という人物に連絡を取り始めた。上、ということは、覆面男を倒したのはたぶんその人物だ。

 隊長は、外に立たせていた見張りの2人にも声をかけ、オレに手を差し伸べてきた。オレはその手に掴まり、左足をかばうように立ち上がる。


「回収地点は渋谷駅だ。急ごう」

「隊長、そろそろ時間が……」

「分かってる」


 回収時刻のタイムリミットが迫っているらしい。さっきから仲間の1人が腕時計をしきりに気にしていたのは、それが原因のようだ。

 すると、入口の外にもう1人の男が見えた。その男は帽子だけしているので、顔がはっきりと見えている。肩には狙撃銃がかけられていた。


「よーし、全員揃ったな。行くぞ!」


 隊長のかけ声で部隊は陣形を取り始めた。オレも一応近くに寄ってみる。

 オレが本宮の近くに行くと、本宮はホルスターから拳銃を取り出してオレに手渡してきた。


「護身用に持ってな。使い方分かるか?」

「ありがとうございます。まあ、だいたいは」


 オレは受け取った拳銃をスーツの内ポケットにしまった。内ポケットに拳銃を入れるというのは、何となく男のロマンがある気がする。

 隊長が先陣切って出入口を抜けると、それに続いて他の4人も外に抜けた。オレも遅れないように出入口を抜ける。

 部隊は陣形を崩さずに渋谷駅へと向かった。





 その後、回収地点で他の部隊と落ち合い、無事東京都から脱出できた……

 というわけにはいかなかった。現在、本宮とオレ以外は全滅していた。

 なぜこんな状況に陥ったのか、それは数時間前にさかのぼる。


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