表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生存不可区域  作者: 如月
3/12

生存3-1/2日目.Psychopath〈サイコパス〉

 武器を探すためマンションを出たオレは、道端に首が無い死体を見つけた。体の部分は特に傷跡が無いので、奴らに喰い殺されたというわけでもなさそうだ。

 マンションを見上げてみると、ここはオレが襲われたマンションだと分かった。オレが気絶していた間に殺されたのだろう。

 よく見れば、体の一部が切断された死体があちこちに落ちているではないか。上半身と下半身が真っ二つに分かれている死体もあれば、体の中心を上から下に一刀両断された死体もある。相当切れ味のいいもので無いと人間の骨ごと切断するのは不可能だろう。

 オレが死体の違和感に首を傾げていると、何かのエンジン音のような音が聞こえてきた。車だろうか?

 音の正体を確かめるため、オレは音がしている方向へと足を進めた。

 ……この時、音のする方へ行かなければ良かったと思うのはもう少し後のことだ。






 サイコパスといえば、常軌を逸した行動を取るというイメージがある。まさにその通りだった。

 このパニックで内に眠っていた狂気が覚醒でもしたのか、覆面を被った男が両手首にチェーンソーを括り付け奴ら相手に振り回しているのが見える。

 小学生の頃に実物のチェーンソーを見たことがあるので分かるが、従来のそれと形が多少違うようだ。

 グリップが手首に括り付けた状態でも届く位置にある。それでチェーンソー両手持ちという無茶なことができるのだろう。

 今のところ覆面男は奴らを切断するのに忙しいようで、こちらには気付いていない。だが、見つかったら非常に危険だ。

 しかし、もしかすると話せるサイコパスかもしれないし……チェーンソーは強力な武器だし……。

 などと考えたが、覆面男の足元を見てその小さい希望は完全に打ち崩された。

 どう見ても奴らの仲間ではない死体が右肩から左脇腹にかけて切断されている。つまり、人間だろうが奴らだろうがなんだろうが、視界に入れば殺す。やばい奴ということだ。

 今、覆面男に群がっていた最後の奴が倒された。覆面男はくぐもった声で雄叫びをあげ、獲物を探すために歩き始める。その方向が、なぜかオレのいる方向。

 早く逃げなければ、あと数秒で見つかるだろう。オレはすぐさま覆面男から見えない位置へと走り込もうとした。

 その時、オレの足元に落ちていたガラス瓶が勢いよく踏まれ、派手な音を立てて割れた。当然、今の音で覆面男が気付いたはずだ。足音が一瞬だけ止まり、今度は地面を蹴る音へと変わった。

 これが拳銃を入手できた運の代償とでもいうのか。

 オレは足をフル稼働させ、近くにあったオフィスビルへと逃げ込んだ。このビルは運良く入口の自動ドアが大きく穴が開いており、電気の供給がシャットダウンされた現在でも入ることができる。

 今オレがいた道路は直線的な道なので、そこで見つけられないなら覆面男はどこかのビルに隠れたと確信するはずだ。もしビルの中に入ってきたら、何とか隠れてやり過ごすしかない。

 入口の自動ドアをくぐってすぐ横に、非常階段へのドアが見えた気がした。非常階段へ繋がるドアを開けると、そこは非常階段というより非情階段になっていた。

 普通は灰色で無機質な印象のはずの非常階段は、至る所に飛び散った血で鮮やかに彩られている。この階段で何があったのか、想像するだけで吐き気が込み上げてきた。

 だが、早く登らなければオレもここの一部になってしまう。オレは吐き気を堪えて1段目に足をのせた。

 しばらく階段を上った後、窓の外を見てみた。そこには、数あるビルの中から、覆面男がオレの入ったビルへ真っ先に足を踏み入れてくるのが見えた。偶然なのだろうか、それとも何か確信を持って入ったのか?

 ふと階段へと目を向けると、真っ赤な足跡が続いていた。どこかで血溜まりを踏んだらしい。階段のここまで続いているということは、覆面男はオレの足跡を辿って来ているわけだ。

 自分の間抜けさを嘆きつつ靴を脱ぎ、これ以上足跡を付けないようした。急いで階段を上り、適当な階でドアノブを回してみる。しかし、ドアノブが壊れているのか全く回る気配がない。


「何なんだよ、こんな時に!」


 階段を駆け上ったので息が切れ始めているが、ここが開かない以上さらに上るしかないようだ。次の階へと急ぐが、オレの足が悲鳴をあげる。

 20代なので年齢的には若い方だと思うが、このパニックの中休む時がほとんどなかったので疲れがたまっているようだ。

 だが、足を止めれば覆面男に追いつかれてしまう。ガクガク震える足に鞭を打たせ、何とか次の階まで上りきり、ドアノブを勢いよく回した。

 さっきのドアが嘘のように、ここのドアはあっさりと開いた。どうやら、オフィスルームのようだ。部屋の中は荒れに荒れていて、パソコンやら紙やらがそこら中に散乱している。

 手を膝について息切れが治るのを待とうとしたが、チェーンソーのエンジン音が聞こえてきた。覆面男は休む暇さえ与えてくれないようだ。

 隠れる場所を探したが、オレが隠れられそうな場所がない。どこに隠れるか迷っている間にも、チェーンソーのエンジン音は次第に近づいてくる。

 いざとなったら戦うしかない。だが、チェーンソーに対抗できる武器がはたしてオフィスルームにあるのだろうか?

 部屋の中をぐるりと見回してみると、奥の方に何か見えた気がした。オレはそれが何か理解する前に走り出していた。

 オレの視界に入ったのは、現代社会ではほぼ使わない人はいないエレベーターだ。エレベーターを使えば、上へと上がってくる覆面男を簡単にまくことができる。

 エレベーターの前まで来て下ボタンを押してみるが、反応がない。苛立ちから連打するが、どれだけ押しても意味がないことは分かっていた。

 東京都は電力供給をシャットダウンされたのだから。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ