生存2日目.隠れ家探し
とりあえず近場にあった3階建てのビルに駆け込んだオレは、血まみれになったハンマーを構えて奴らがいないか探してみた。幸い、このビルの中に奴らはいないようで、物音一つ聞こえない。
隠れる場所がどこであろうと、寝る場所は屋上と決めている。屋上に続くドアを封鎖しておけば奴らは侵入不可能だし、最悪パイプを伝って逃げればいいからだ。
だが、人生なかなかうまくいくようにできていないようで、今回のビルは屋上への階段が完全に崩壊しており、上がることはできなかった。本当は屋上がいいが、贅沢は言っていられない。今夜はビルの一室を使うことにしよう。
そう考え、なんとなく目に付いた部屋のドアを開けてみた。飛び散った血で錆び付いているのか、ドアはなかなか開かない。
開かないドアを押したり引いたりしていると、蝶番が外れてドアが倒れた。ドアが中にあった何かに引っかかり、ガラスが割れた音も響く。かなり大きい音だったが、奴らは気付かなかっただろうか?
慌てて窓から外の様子を覗いてみるが、外の奴らに別段変わった様子はない。ほっと一息ついて後ろを振り返ろうとした時、後頭部に電撃が流れた。
オレは足から力が抜け、力なくその場に崩れる。一体何が起きたのだろうか。激痛で思考がまとまらない。
ぼやける視界の中、誰かがオレの顔を覗き込んだ。男か女か分からない。
「な……だ、人……だった……」
覗き込んだ人物はそう呟くと、オレの足をつかんで引きずり始める。意識はそこで途切れた……
気が付くと、オレの視界には見覚えのない天井が映っていた。体を起こそうとしてみるが、後頭部が激しく痛みまたその場に倒れた。
どうしてこんなことになったのだろうか。記憶が曖昧だが、確かビルの窓から外を見て後ろを振り返ったらーーーー
そこまで思い出したら、後はなだれ込むようにして全て思い出した。そうだ、オレは見知らぬ誰かに殴られて気絶したんだ……
状況が飲み込めたところで辺りを見回してみたが、近くには誰もいない。どうやら、気絶したオレをここまで運んだ後は放置していたようだ。部屋の広さからマンションだと推測できる。
手で体を支えて、もう一度起き上がろうとした時、オレは自分の手に違和感を感じた。
おそるおそる手を見てみると、唯一の武器ハンマーが握られていなかった。それどころか、コンビニから回収した食料すらもないではないか。
「またやられたか……ちくしょう!」
またも他の生存者に物資を盗まれたようだ。まったく、どうしてオレは奴ら以外に対してこうも警戒心が薄いんだ? あの高校生の件で人はいつ裏切るか分からないことが分かったというのに。自分でも呆れてくる。
いや、今は自己嫌悪に陥っている場合ではない。今奴らに襲われたりでもすれば、どうすることもできずに死ぬ。
もうとにかく何でもいい、その辺りに鈍器か何か落ちていないだろうか。まあ、都合よく落ちているわけない……いやあった。しかも銃だ!
部屋の壁に死体がもたれかかっており、銃を抱えているではないか。銃口が2つあるが、それは火力2倍と捉えていいだろう。
警官の拳銃といい、この……散弾銃? といい、オレはツイているのかもしれない。
扱い方が分からないが、弾を込めて引き金を引けば撃てるはずだ。銃を所持した人が住んでいた部屋ならば、必ずどこかに弾がある。オレはこの部屋を探索してみることにした。
じゃあまずタンスの中から……ない。
次は机の中……ない。
それならベッドの下……ない。
念のため風呂場……ない。
最後はトイレ……あるはずがない。
どういうわけか、どこにも銃弾が見つからない。探し忘れた所でもあるのか? いや、くまなく探したはずだ。見落とすはずがない。
よくよく考えてみれば、この部屋で倒れていたからといって部屋の持ち主ではないのかもしれない。先入観は捨てなければいけないという教訓だろうか。
「はぁ、時間無駄にした〜」
銃弾探しが無駄骨だと理解した瞬間、後頭部の痛みがまたぶり返してきた。踏んだり蹴ったりである。耐え難い痛みをこらえてオレはゆっくり横になった。
横になると、リラックスできて次第に落ち着いてきた。落ち着くと思考が広がっていく。
銃を見つけられた喜びで考えなかったが、落ち着いて考えてみればオレをここに放置した奴があの銃を見つけられなかったわけがない。もしかしたら、この銃は弾が入っていないのではないだろうか。
オレは上半身を起こし、残弾を確認するため隣に置いてあった銃を手に取った。
どこで残弾を確認するのか分からず、いろいろな部分をいじっていたら、真ん中が折れるようにして開いた。開いた部分には弾が入りそうな2つの穴が付いている。
中を覗いてみるが、やはり弾がない。弾がなければモデルガンとほぼ同じである。
ちらりと窓の外を見てみると、朝日が昇り始めているところだった。ということは、無防備な状態で9時間近く眠りこけていたということか。
……ほんと、死んでなくてよかった。