生存1日目.食料集め
昨日まで普通の会社員だったオレが、どういう訳かコンビニにある食べ物を漁っている。手には拳銃。はたから見たら強盗に及んでいる男に見えるだろう。
しかし、それを通報する人間は誰もいない。それはなぜか? 理由は簡単、人がいないからだ。
いや、いないというのは少し違う。かつて人であった物はそこら中を徘徊している。
3日前、渋谷のど真ん中で事件は起きた。人が人を喰うという衝撃的な事件だ。オレは会社に向かう途中で、偶然その場に居合わせてしまったのだ。
喰われた者は突然起き上がり、近くにいた人間に喰らい付いていた。まるでゾンビ映画を見ているようで、とても現実とは思えない光景だった。
次々と周りの人々が喰われていく中、オレは必死に逃げていた。助けを求める人がいようが、それを無視して逃げた。
通りは放棄された車が玉突き事故を起こし、いろんなビルから火の手が上がっていた。ほんの数分で、都市の機能は一瞬にして失われていたように思う。
国は示し合わせていたかのようにアメリカと協力し東京都を隔離、被害は最小限に抑えられたとテレビで放送していた。その放送もすぐに途切れてしまったのだが。
このパニックが起きてすぐに逃げ込んだビルの上から道路を覗いてみたら、即死の傷を負っているような奴もちらほら見かけた。まるで地獄を見ているようで、生きた心地がしなかったのを覚えている。
一時はそのビルを隠れ家として使っていたのだが、奴らの襲撃に遭い命からがら脱出してきた。もはやここ東京に安全な場所なんてないのかもしれない。
奴らの正体はよくわからないが、今の所わかっているのは生きた人間を喰うことと、頭を撃てば倒せるということだ。
ちなみに、今持っている拳銃は奴らから逃げている間、偶然見つけた警官の死体から入手した。
当然拳銃など撃ったことはなかったが、奴らに襲われた時、躊躇なく頭に撃ち込むことができた。頭に当てられたのは運が良かったからだが。
この時に人間追い詰められると何でもできるもんだな、と実感した。
この拳銃のおかげで窮地を脱出できたことは何回もある。本当に入手することができてよかったと思う。
だが、残りの弾はあと2発。そろそろ本格的にまずい。急いで代わりの武器を探さなければいずれ奴らに喰われてしまうだろう。
とはいったもののここは日本であり、銃ほどの強力な武器はごく一部の場所でしか手に入らない。この拳銃を手に入れられたのは完全に奇跡だ。
できれば奴らから少し距離を取れる武器があるといいんだが……
そう考えた時、奥の方で物音が聞こえた。アルミ缶が落ちるような小さい音だったが、神経が鋭敏になっているからだろうか。どれだけ小さな音でも反応してしまう。
放っておくこともできるが、それだといきなり後ろから、何てことも考えられる。減らせるリスクは減らしておくべきだろう。
音の正体を確かめるため、音のした方に向かうことにした。もし奴らだったらと思うと、拳銃を握る手が震えてしょうがない。
何回か奴らと対峙せざるを得ない場面はあった。だがこの緊張感、慣れでなんとかなるものではない。
「……ここからか?」
奥にあったドアには小さいガラスが付けられていたが、何かが立てかけられていて中の様子が伺えない。これは中に入るべきなのか、入らないべきなのか。
とりあえず、ノックしてみることにした。
「誰かいるのか……?」
ノックの音が静寂のコンビニ内に響き、少しの間沈黙が流れた。心拍数が全力疾走した後のように上がり、拳銃を握る掌が汗で湿り出す。
と、ドアノブが回り、ゆっくりとドアが開かれた。ドアノブを回して開けているので、普通の人間のはずだ。このパニックが起きてから生きた人間に会えたことがないので、こうして生きた人間に会えると安心できる。
開かれたドアの隙間から出てきたのは高校生ぐらいの男で、髪を金色に染めている不良のような感じだった。
「よかった、ようやく生きている人に会えたよ」
「……だったらその銃降ろしてくれよ」
気づけば、拳銃を構えた手がその男に向けたまま硬直していた。
「あ、ああ、すまん」
「拳銃持ってるってことは、あんた警察の人だよな。 教えてくれよ、この国で何が起こってるんだ!?」
「いや、オレは警官じゃないんだ。この拳銃は拾ったんだよ」
「なんだよ、期待させやがって……」
それにしても、初対面なのに少し失礼だなこの男。いや、この状況じゃ仕方ない……のか?
男と話していると、今度は後ろでガラスの割れる音が響いた。喉の奥から響くような低い唸り声が聞こえる。どうやら、奴らが入ってきてしまったようだ。
「オレが見てくる。君はここにいるんだ」
「待てよ、こんな場所で銃なんて撃ったらもっと来ちまうだろうが。これ使え」
男はそう言うと、部屋の中から大きめのハンマーを取り出してきた。
確かに人口が多かったこの場所で銃を撃てば奴らが大勢寄ってくるだろう。ここはハンマーでなんとかしよう。
ハンマーを受け取り、足音のする方へ慎重に進むと、片腕が無くなっている奴がいた。まだこちらに気づいていないようで、オレに背を向けたまま動かない。
これは、一撃で仕留められるはずだ。
そう考えたオレはゆっくりとハンマーが当たる間合いまで奴に近づいた。その時、足元で何かが折れる音がした。突然冷水をかけられた時のように心臓が一気に縮み上がる。足元を見ると、スナック菓子が踏みつけられ粉々になっていた。
この静かな場所で鳴ったその音は爆音のようで、瞬く間にコンビニ内を反響する。奴はオレの方を向くと、その焦点の合わない目でオレを睨みつけてきた。
よく見れば腹に大きな穴が開いており、そこから腸がただれている。グロテスクに耐性がないので、こういう光景はなるべく見たくない。
いや、今気にするべきは奴を倒すことだ。奴はすでにオレへと歩を進めている。
奴らは基本足が遅いらしく、落ち着けば対処はしやすい。オレはハンマーを思いっきり振りかぶり、ハンマーの重さを感じながら奴の頭めがけて振り下ろした。
骨が砕ける音がして、目をそらしたくなるような光景が目の前に広がった。頭が砕けた奴の死体を見ていると、吐き気が込み上げてくる。
オレは吐き気に耐えつつ高校生の男を連れてこのコンビニを離れることにした。腕時計に目をやると、短針は午後6時を指している。
夜出歩くのは危険だ。さっさと引き上げたほうがいいだろう。
そう考え高校生の男がいた場所に戻ると、そこに男の姿はなかった。部屋の中も確認してみたが、やはりいない。
「おーい、どこ行ったんだー?」
奴らに聞こえないようなるべく控えめな声で呼びかけてみるが、反応はない。まさかもう一体いて、それに襲われたのだろうか?
そう思い拳銃を引き抜こうとした時違和感を感じた。ズボンに突っ込んであった鉄の感触がない。よく見れば、腰に装備していた拳銃がないではないか。
「まさか……あの野郎、銃盗んで逃げやがったのか!?」
急いで外に出てみたが、もうどこにも男はいなかった。
やられた……
額に手を当てて油断しきっていた自分を責めていると、どこからともなく2発の銃声が聞こえた。その後に続くようにして男のものと思われる悲鳴が聞こえてくる。
確信はないが、オレはあの男だと察していた。映画で勝手な行動を取る奴はだいたい死ぬが、まさにそれだ。
オレはその悲鳴を無視し、今夜身を隠す場所を探すため足を進めた。