~共通ルート編~
優しい誘惑
~共通ルート編~
☆☆ASAMI_side☆☆
清林高等学校2年に無事進級した、私『水川 麻美〈みずかわ あさみ〉』はいつものように家を出ると駅に向かい、そこから電車に30分乗って学校へ通う。
この周りは住宅街なのでとても静か。
通学・通勤途中の人たちも多いけれど、電車の中はあまり満員にならず、朝はとても爽やかに通えてしまうのが良いところ。
「おっはよー、麻美。」
「おはよう、望。」
1駅後に乗ってきたのは、同じ高校で同じクラスの友達の河北望〈かわきたのぞみ〉。
リーダーシップ型でいつも盛り上げてくれるパワフルな女の子。
(結構振り回されてるんだけどね)
「何、ニヤニヤしてんの~。」
「違う違う。望はいつも元気だと思って。」
「ちょっとバカにしてるでしょ。」
「違うって!」
いつもの会話が始まって、望と話すこの時間があるとまた学校が始まるなと改めて思う。
*******
「おはよう」
「おはよう」
教室に入ってからは、園田東子〈そのだとうこ〉、栗原美緒〈くりはらみお〉の2人が加わりいつもメンバーでまた、1日が始まって、
「今日は午前中で終りだからさ、お昼食べて帰ろうよ」
「ごめん。私と東子バイト入ってる。」
望のと~っても嬉しい誘いだ。
だけど、人手が欲しいと前から頼まれていたのでその申し出を断るしかなくて。
「え~、いつも夕方からだったじゃん。」
「望。仕方ないんだよ、前から頼まれてたんだ。」
「東子冷たいじゃん」
「すねないの。じゃあ、東子たちのバイト先に行ってお昼にしない?」
美緒の癒し笑顔とその提案に望の瞳がパアっと明るくなった。
その笑顔にホッとした東子と私はお互いを見て呆れ顔を見せた。
「そう言えば、二年なんだよね私ら。」
「どうしたの」
一旦話が終わったさきから、望が思案気な顔見せた。
「彼氏っていつ出来るの?」
「私に聞かないでよ。」
真剣な眼差しで私を見てきたけど、わかる訳ないじゃん。
私もいないのに。
「東子なんで」
私に聞いてもしょうがないと諦めたのか、唯一彼氏持ちの東子に話がいく。
「どこで売ってるの。的な聞きかたされても困るんだけど」
本当に困るよね。
「東子と同じで家庭教師頼んでみたら?」
「勉強嫌い・・・」
癒し系美緒の提案でも勉強になると、望は逃げ腰だ。
東子は高校1年生の時1か月入院していたので、その遅れを取り戻す為に家庭教師を頼んでいた時期があった。
それが出会いで、恋人の関係にまでなった。
(彼氏・・・か)
「お前たち、HR始めるぞ!!」
騒がしい教室に担任の先生が入って来て、話はそこで中断した。
*******
放課後 図書室前の廊下
「東子ちょっと、図書室寄っていい? 借りた本返したいんだよね」
「珍しい何借りたの?」
「昔読んだ絵本だよ。」
絵本?と首を傾げる東子を置いて、図書室へと入った。
「せ~んぱい。」
「木原くん。」
図書室のカウンターから可愛らしい声を掛けてきたのは、同じ図書委員の男の子。
木原亮太〈きはらりょうた〉くん。ふわくしゅカールの柔らかそうな顔をした可愛らしい後輩。
何故かすごく懐いてくれている。
(子猫みたいでナデナデしたい)
「これ、返しにきたの」
「『黒猫キャットの夢の国』?」
「うん。あれ? 今子供っぽいって思わなかった。」
「違いますよ。可愛いって思ったんです。」
可愛らしい男の子に可愛いって言ってもらうのってちょっと嬉しい。
「ここは、赤くなって僕を意識する所ですよ」
不満げな木原くんがまた、可愛いい。
「ごめんね。木原くん可愛い顔してるからあんまり男の子と接してる感じしなくて」
「それ、すごい傷つくんですけど」
「ホント、ごめん」
こんな風に懐いてくれる後輩はいなかったからとても新鮮だった。
下の兄弟が居るってこんな感じなのかもしれない。
「作戦変更するからいいです。」
「え? 何?」
更に不満げに小さな声で何か言ったのが聞こえなくて聞きかえしたけれど、木原くんは「なんでもないです」と可愛い笑顔で本の返却処理を続けた。
「木原くん、じゃあね」
笑顔で手を振る私に、笑顔で手を振ってくる木原くんはやっぱり可愛いかった。
*******
放課後 廊下
図書室をあとにした私たちは、玄関口へと足を向けた。
校舎内にはまだ人が沢山いて午後からのクラブ活動に向けて其々がのんびりとした休憩を過ごしている。
「土井先生だ」
東子が指した先に土井恵〈どい めぐむ〉先生がいた。生徒会顧問で私たちに国語を教えてくれている。
「園田に、水川か。今から帰るのか」
「はい。」
2人で返事し、挨拶しようとした時にノートを手渡された。
「何ですかこれ?」
私は渡されたノートを見つめる。
「ノートだ。見てわからないか?」
「先生失礼ですけど、麻美はそこまで頭悪くないですよ」
「東子まで何を言ってるの!っていうか、私そんなに成績悪くないよ!」
「園田の顔に似合わずノッてくる感じ良いね」
この2人の何故かこんなやりとりがいつも解らない。
東子のクールでハッキリとものを言う性格なだけに、冗談か本気か解らない。
(ボケたことは解るけど何で・・・望の時は基本的にツッコミ役なのに)
「で、これは?」
「あっそれ、そいつに渡してくれ。『出す気なら人のを写さずに。マイナス10点』以上」
と去りながら手を振るけど、全く掴めないあの先生。
「ん?これ、音無のノートだ」
「ふ~ん。いいんじゃない、渡してくれば」
ニヤッと笑う東子の顔は、すごく意味ありげた。
*******
放課後 グランド
土井先生から預かったノートを音無真次〈おとなししんじ〉へ渡すためにあいつが所属しているサッカー部へ顔を出すことにした。
(とは言っても、直接顔を出すのは嫌だな)
東子は玄関口で待ってるからとついてきてくれず、玄関口とは反対に位置するグランドは1人できていた。
サッカーグランドになっている場所は見下ろす形になっているので、全体が良く見える。
「水川何してんの?」
「きゃあ!」
「えええ!!」
「脅かさないでよ!」
「ちげーよ。ってか、ボーっとしてるお前が悪いんじゃん」
全く謙虚に謝ればこっちだって素直になれるのに、音無はどこか俺様気質を持っている。
「これ。」
持っていたノートを渡す。
勿論土井先生の伝言も忘れずに。
「何でお前が持ってくんの? 委員長でもないお前が」
「知らない。偶然会ったからついでじゃないの?」
本当に不思議そうな顔をしている。
私にだってわかんない。
「取敢えずサンキューな。」
「どういたしまして。じゃね。」
「練習見てかね?? 俺のカッコいいシュート見れるぞ」
「残念でした。今からバイトなの」
「あそ。」
お互いに手を振って別れた。
それにしても、
(何で少し寂しげだったの)
*******
商店街の道
玄関口に居た東子と合流した私は、ようやくバイトへと足を向けていた。
バイト先へは、1駅歩いたぐらいの距離にあって駅から少し離れた場所に位置していた。
少し隠れ屋みたいな雰囲気で楽しい。そのワクワクがあって決めたようなものだった。
その途中で、反対側の道から1組のカップルが楽しそうにあるいてくるのが見えた。
「望があんなこと言うから、何となくカップルに目がいっちゃう」
「麻美も年頃だからね。仕方ない」
「欲しいけど、別に無理して作りたいと思わないんだけど・・・」
「遊びする気ないんなら、今のままでいいんじゃない?」
「東子が彼氏持ちだら言えることじゃないの?」
「居なくても同じ事言える自信ある」
真剣な顔をそう言われると納得してしまう。
東子だって、偶然今の彼氏と出会って続いている。
「あの人、麻美見ているよ」
「え?」
顔を向けた先に、私が目にしたカップルの男子がこっちを見ていた。
彼女は楽しそうに自分の話に夢中になっている。
偶然に目がった・・・という感じじゃない。
「有名な先輩だ」
「日野先輩・・・?」
さすがに私でもわかる。日野淳〈ひのあつし〉同じ高校の3年生。
何故有名かと言うと、いつも連れている彼女が違うからだ。
本命がいると聞いたこともあるし、来る者拒まず、去る者追わずだとも言われてる。
「気をつけなよ。結構泣かされてる子知ってるよ。」
東子が注意している最中でも日野先輩は私たち(わたしでいいのか)から目を逸らさない。
そして軽く手を上げて、
「じゃあね」
と声を掛けた。
「え?」
「麻美・・・知ってるの」
「まさか!! 顔は知ってるけど話したことないよ。バイト先にだって来たことないし」
私と東子は日野先輩が声を掛けてきた意味が解らず、それ以上関わることもないと結論付けバイト先へと足を向けた。
*******
商店街の道の花屋
ドンっ
「きゃ!」
「麻美!」
何かにぶつかったみたい。
尻餅ついた体をさすりながら、前をみるとスーツを着た男性が居た。
赤い薔薇の花束を抱えたとても上品で威圧的で大人の男性。
「失礼、大丈夫か」
「私こそ!! ごめんなさい。友達と話をするのに夢中だったから」
「怪我はしてないか」
花束を持っていない方の手をさり気無く差し出してくれた。
遠慮なく、手をお借りして起き上がらせてもらった。
「悪かったね。人待ち合わせのメールを見ていたものだから」
「本当にこちらこそ、ごめんなさい」
「じゃあ、失礼するよ」
目の前に置いてあった見た目だけでも高級そうな車に乗って去ってしまった。
「ちょっと麻美大丈夫」
「えっ? 大丈夫だよ」
「ひと目惚れした」
クールな瞳で私を見る東子に、慌てて否定する。
慌ててると余計に認めてる風に見えるけど、絶対に違う。
「大人だなって思っただけだよ。かっこよかったでしょ」
「私は範疇外。」
「かっこいいってだけの話をしてるだけ」
「顔がタイプじゃない。それに不倫になるよ、指輪してたし」
「良く見てるね」
感心する。恋人がいてもそれは見てしまうものなんだろうか。
でも、明らかに住む世界が違う人だし、私の人生には関わらない人種だ。
*******
バイト『CAT’S CAFE』
紅茶専門の喫茶店。
ケーキ屋さんと連動しているので、女性客が自然と多い。
雰囲気としては、男性も気軽に入れるようにと木を中心とした落ち着きのある内装で統一されている。
しかもケーキだけではなく、私たちの雇い主であるマスターの腕は一級品でサンドイッチ、パスタは常連さんの間で裏メニューとして定着していた。
「おはよう。」
「おはよう、京弥くん。」
清澄京弥〈きよすみきょうや〉。有名なセレブ学校のに通う2年生。
家の家訓らしく、基本的に自分の小遣いは自分で稼ぐべし、とのことらしく1年近く一緒にバイトをしている。
「麻美と東子も入りなの」
「マスターが今日は来てくれっていってた」
「京也くんこそ、なんでお昼からいるの」
清林高校は今日は特別に午前中で終わっただけなので、別の学校は通常通りだから京也くんがいること自体不思議だ。
「今日から2日間試験休み」
「って、試験勉強しなよ!!」
「必要ないから言うんだよ。僕は全国模試10位内に入れるのに今更じゃないかな」
「勉強してるから出来ることなんでしょ」
私が慌てているのがとても不思議らしくて、軽く笑われた。
「勉強は授業聞いてればわかるし、2年次の教科書は全部読み終わったし。することないんだ」
だから、バイトに来ているこの京也くんの脅威的な記憶力を改めて思い知らされたような気がする。、
「麻美、こいつの頭と競うのが間違ってる」
「わかってるんだけど」
(私が非常識なの??)
*******
家に帰宅
午後8時半に帰宅。
バイトがある時は必ずこの時間に帰ることが多い。
(ん?この靴)
最近見ていない、見慣れている靴を発見。
「お兄ちゃん、お帰り」
「麻美・・・ただいま。で、おかえり」
「ただいま」
水川誠〈みずかわまこと〉、私のお兄ちゃん。
大学2年生。大学へ入学と同時に一人暮らしを始めたから最近は滅多に会えなくなった。
電車で2時間の距離にあるお兄ちゃんのアパートにはやっぱり行きづらい。
それに、それにブラコンだと言われるは釈然としないし。
「お父さんとお母さんは?」
「仕事で遅くなるそうだ。」
「ふ~ん」
私が高校へ入り、バイトをし始めた頃からお母さんも第2の人生を謳歌するんだと、働き始めた。
お父さんもサラリーマンなので、サービス残業させられてお仕事に勤しんでいるんだろう。
さすがに、寂しがる年齢ではないけれど中学まではお母さんが基本的にいたから一人だとやっぱり寂しい。
「それで、お兄ちゃんは何でいるの? 春休み終わってるよね?」
「忘れもん。で、明日は午前中休講だから泊まって帰ろうと思ってさ。」
「ふ~ん」
「ふ~んって他に返す言葉なしかよ」
ソファに座り、テレビを見てるお兄ちゃん。
少し嬉しいのもあるけど、何となく落ち着かなくて会話が出来ないでいた。
「まあ、いいや。飯まだだろう、何か取ろうぜ」
「待って、ご飯あるから簡単な物なら作れるよ」
「お前、料理できんの??」
「え? レトルト買い置きしてるから大丈夫だよ」
「レトルトかよ。ちょっと喜んだ俺がバカだった。」
業とらしい大きな溜息を見せつけられ、遠慮なしに睨んでやる。
「失礼だな、今日は疲れたからレトルトなの。普段はちゃんとやってるもん」
「ふ~ん」
疑いの眼差し。
確かに凝った料理は出来ないけど、それなりにしてる自覚はある。
(すごくムカつく)
「お味噌汁つくってやる!」
「それは俺も出来る」
「何がいいの」
「フレンチとか・・・」
「材料ないのに出来る訳ないじゃん! もう!バカにされてる。 好きにすれば!!」
本気で膨れだした私を見て、本気で笑うお兄ちゃん。
全然面白くない!!
「ごめんって」
「ごめんて顔してないよ」
何で涙目になって笑うの
「本当に悪かったって。じゃあ、一緒に飯にしよ。味噌汁作って」
清々しいほど、爽やかなお兄ちゃんの笑顔に私はそれ以上怒る気も失せてしまう。
「じゃあ、レトルト温めてよ。」
「了解いたしました。」
その後30分もしないうちにお母さんが帰ってきた。
私とお兄ちゃんの食事を見て、「不健康よ」と一喝された。
買い物袋からサラダを差し出され、お母さんも惣菜のお弁当を食べ始める。
それを見て私もお兄ちゃんもツッコんでしまったのは言うまでもなく・・・。
*******
お昼からのバイトはやっぱり疲れた。
望や美緒もあの後お昼を食べに来店し、長い時間居座っていた。
私と東子の仕事振りを見て「よくやるね」と感心してたらしい。
何事もない日常が過ぎてまた、明日。
だけど、明日からの私の生活はある選択によって変わり始める。
では、皆様。
お休みなさい。
良い明日を。
―――――――――――――――――――――共通ルート終了