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夏の想い出

作者: 氷最

また蝉の鳴く季節が来た。

僕は16回しかこの季節を体験していないがもう飽きた。




僕は蝉が嫌いだ。

うるさいし何と言ってもあの様相が駄目だ。



基本的に僕は昆虫という部類は嫌い。



夏は虫が多くて嫌いだ。




もうすでに夏休みだ。

学校に行く必要はない。

毎日家で勉強、食事、ゲーム、睡眠の繰り返し。

しかしそれも2日、3日もすれば飽きた。


連絡が来る筈のない携帯電話を片手に持ちながら僕は何かを期待していた。



もう夏休みも中盤に差し掛かったぐらいだろう。


携帯電話が鳴った。

メールだ。

春日 凪。懐かしい名前だ。

最後に彼女の名前を聞いたのは去年の丁度この時期だ。

僕はメールに返事をしなかった。

僕は彼女に返事をする必要はない。



僕は久々に家から外の世界に出た。

やはり蝉がうるさい。

そして暑い。

蝉の鳴き声が暑さに拍車を立てる。

苛々する。

殺意が芽生える程に。


でも僕には行くべき場所がある。

その為ならこんな物辛くも何ともない。



家を出てどれくらいたったのだろう。

僕は電車に乗り去年も行った場所に向かおうとしている。

まだ引き返せる。

まだ戻ることが出来る。


そんな考えもくだらないことに気が付いた。

僕は行かなければ行けない。


僕は電車を降りた。

家を出てどれくらい時間がたったのだろう。

辺りの風景は田舎のようだ。そして陽も傾きはじめていた。


僕はとあるアパートに向かった。

そこは駅からそう遠くない距離にあった。

階段を上り部屋の前で立ち止まった。

【春日】

懐かしい名前のプレートが貼られている。

僕はポケットから鍵を出しドアを開けようとした。

しかしドアは勝手に開いた。

「遅かったね。」

彼女は僕にそう言って少し微笑んだ。

「悪い。でもうちからいくら頑張ってもこのくらいはかかるさ。」

彼女は僕を部屋に招き入れてくれた。

一年ぶりに彼女にあった。

僕にはもっと長く感じていた。


彼女といられるのは今日だけ。

僕は彼女の温もりを手放したくなかった。




次の日の朝、僕は部屋を出ようとしたとき。

「いってらっしゃい。」

部屋から彼女の声が聞こえた。

「あ、わりぃ。起こしちまったか。」

「ううん。大丈夫。ただ、いってらっしゃいが言いたかっただけ。」

彼女は微笑んだ。

「そうか。いってきます。」

僕も微笑むことが出来た。

「うん。いってらっしゃい。」




去年の僕は微笑むことすら出来なかった。



外の世界に出た。今日も蝉の鳴き声がうるさいし暑い。

気のせいだろうか僕の頬を水が流れた気がした。



僕は近くの交差点に向かった。

途中で花と水を2つずつ買った。

そこには去年僕が置いた花と水が入ったペットボトルがあった。


僕は新しい物と交換した。

手を合わせた。



もう一ヶ所行くところがあった。



ここから少し山に入った所にそれはあった。



【春日】

それにも懐かしい名前が彫られていた。



それにも去年僕が置いた花と水が入ったペットボトルがあった。


新しい物と交換し【それ】も綺麗に磨いた。


やはり気のせいではなかったみたいだ。

僕の頬を水が止まることなく流れ続けていた。


気付けば僕は彼女の墓石の前で大粒の涙を流しながら大声で泣いていた。




彼女は一昨年あの交差点で事故にあって死んだ。

僕は信じられなかったけどそれが現実であった。

彼女は死んだ。二度と会うことは無いと思っていた。

しかし去年、ある出来事が起きた。

彼女からのメールが届いた。

最初は信じる筈もなかった。

でも現実は違った。

あの部屋で彼女は僕を待っていてくれた。


そのとき一年に一度。彼女の命日に会うことが僕らの秘密になった。




彼女は僕に会いに来続けてくれる。


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― 新着の感想 ―
[一言] どうも、評価依頼をいただきましたふじぱんでございます。このたびは依頼ありがとうございます。 それでは感想のほうを…。 中盤部から後半部は、若干読者を置いていきぼりにしてしまう流れではな…
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