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鳴神の娘  作者: かざみや
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第一章 「雷(いかづち)の娘」 九話

「……ねえ、少彦名。今の聞いた?」

 建加夜彦が出ていくのを見届けると、斐比伎は己の襟首に向かって話しかけた。

「--わざわざ確かめずとも、すべて聞こえておるわ」

 襟の間からひょい、と顔を出し、少彦名は渋面で答える。そのまま斐比伎の肩に移動すると、器用に彼女の腕を伝い、とん、と板床の上に飛び降りた。

「大和に行くのよ! 父様と一緒に。皇子様方や、もしかしたら大王にだってお目にかか

れるかもしれないわ!」

「……それがそんなに嬉しいかの」

 ずっと襟の中に入っていた少彦名は、随分と窮屈だったらしく、肩や首をぐるぐると回しながら呟いた。

「あたりまえじゃない!」

「……そういうものかの」

 少彦名は納得しかねるように言った。

「--ところで斐比伎。わしは腹が減ったわい。何か、食べ物はないのか」

「あ、そうか。忘れてたけど、そういえば、もうとっくに夕餉の時刻を過ぎてる頃だわね。わかった。とりあえず、何か食べるものをもらってきてあげるわ。私もおなかすいたし」

 斐比伎は立ち上がり、室の扉に手を掛けた。

 そんな斐比伎を見上げて、少彦名はためらいがちに口を開く。

「……のう、斐比伎」

「なに?」

 斐比伎は軽く振り返って聞いた。

「……大和へは、行かぬほうがいいと思うが」

「何言ってんのよ」

 少彦名の言を、斐比伎は一笑に付した。

「あなたも、今の父様のお話を聞いたでしょう? 吉備の姫である私が行かないわけにはいかないでしょうに。--少彦名ったら、お腹すきすぎて頭が変になったの? わかった、すぐに食べる物もらってきてあげるからね!」

 軽やかに笑い、斐比伎は室から出ていった。

 閉じられた扉を見つめ、少彦名は考え深げに嘆息する。

「……行かぬほうが、よいのじゃ」

 小人神は、託宣を告げるように呟いた。

「お前が今のままでいたいのならば、な」





(第一章終わり 第二章へ続く)



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