最終章 「絆を絶つ者」 五話
--神代。
おかした罪により、高天原を追放された須佐之男神は、出雲の地へと降り立った。
その後、須佐之男の末裔であり、国津神の祖となった大国主神は、海の彼方より現れた少彦名神と義兄弟の契りを結び、旅をしながら国津神の仲間を集めて、「国造り」を行なった。
ある時、高天原の主神である天照大御神は、この地上を統治する支配者として、自らの子孫を降臨させようとした。
しかし、地上に生まれた国津神達は、高天原に坐す天津神の要求に従わなかった。そこで天照は、天津軍神である武御雷神をつかわし、地上を平定させることにした。
国津神達はやがて、武御雷神に従うこととなった。しかし、最後までこれに強硬に反抗したものがあった。大国主神の子にして国津軍神・建御名方神である。
武御雷神と建御名方神は戦い、武御雷神が勝利した。……そして、「国譲り」は行なわれた。
「……出雲王・振根の妻は、建御名方神の神裔にあたる巫女だった。そしてその二人の間に生まれた子の、更に裔に生まれたのが、この俺ってわけさ」
斐比伎を見つめながら、五十猛は言った。
「国津神の血を引いた、出雲振根の生まれ変わり。……な、あんたと似てるだろ? 血も魂も、背負った縁がぐちゃぐちゃだ」
「だからって……」
五十猛を見返したまま、斐比伎は困惑しながら言った。
「神代に国津神と天津神が争ったからって……その裔である、私とあなたが現世でまた戦わなければならないの? どうして!」
「--それは、お前が『絆を絶つ者』だからじゃ、斐比伎」
斐比伎の必死の問いかけに答えたのは、五十猛ではなく、彼女の肩に乗った少彦名だった。
「……少彦名?」
斐比伎は驚いて、肩の上の小人を見る。
「……わしらはのう、斐比伎」
大きくため息をつき、少彦名は語り出した。
「わしと大国主と国津の仲間達は、神代の時代に共に国造りを行なった。わしらは大地に稲種を根付かせ、人や家畜のために治療法を定め、地下から玉水を引いたりもした。人の世の道理を広め、災害を逃れる法を教えてまわったりしたものじゃ。……そうやって、わしらはゆっくりとこの大地を育て上げてゆくつもりじゃった」
一度言葉を切って息を吸い、少彦名は更に話を続けた。
「しかし、わしらの計画は途中で頓挫した。未完成の地上を、天の奴らに渡さねばならなくなってしまったのじゃ。国津神が始めたものを、天津神が完成させようとする--そうすると、どんな結果になるかわかるかの?」




