私がボクになった理由
この想いは報われない。
そう思ったのはいつだろうか?
私には異性の幼馴染がいる。
容姿端麗で運動神経抜群、成績も良く、誰にでも優しい完璧な幼馴染だ。
当然、友人達からは羨ましがられていたし、幼馴染と言う事で距離が近いため、彼のファンクラブを名乗る娘達からは嫌味も言われた。
そんな時にはどこからともなく颯爽と現れ、私の事をかばってくれるのだ。
そして、私は少女マンガやゲームのお約束に漏れる事無く、幼馴染に恋をした。
淡い初恋だったんだと思う。そう思いたい……
だけど、そばにいたから気が付いてしまった。
小さな頃からそばにいたから……
彼は女の子など恋愛対象ではないと。
彼の視線の先にはいつも可愛い男の子がいる事に。
それに気が付いても当然、私は信じる事が出来なかった。
好きな男の子が女の子ではなく、男の子が好きなんて思いたくないからね。
きっと、彼はボーイッシュなタイプの娘が好きなんだと勝手に思い込もうとした。
だから、彼の興味をひきたくて髪を短くして、一人称も『ボク』にした。
幸いと言って良いかはわからないが、私の胸は残念だったし、運動部にも所属していたから動きやすい格好にしたいと言えば、友人達や家族もしぶしぶだが納得してくれた。
幼馴染だけは付き合いが長いせいか首を傾げていたが本人に向かって理由を言えるわけもなく、何とか誤魔化した。
この格好なら、私の事を見てくれるのではないかと淡い期待もした……
だけど、そんな想いは脆くも崩れ落ちた。
中学に入る頃には恋愛対象として見て貰えなくても、この格好ならずっとそばに居れるのではないかと思っていた。
自分でも女々しいとは思うし、彼が気づいてくれないなら、自分の想いにふたをしてしまえばそばに居れると割り切ろうとも考えた。
それでも……
どうしても想いが溢れ出てきてしまう時はある。
私の初恋が終わった日。
それは私が私立月宮高等部に入学してしばらくした日だった。
放課後、人気のない図書室に『私』と幼馴染の男の子の2人。
沈む夕日の光が彼の端正な顔を照らし、私はその顔に目を奪われてしい、胸が高鳴る。
そんな気持ちを彼に気づかれないように1度深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、2人で回った部活見学の話を振ろうとする。
「ねぇねぇ。ユーマ、さっき見た弓道部の先輩。カッコ良くなかった? 凛としていて清楚な感じだったけど、どこかにエロスがあって……あの袴姿ね!?」
「……弓永さん。いくらなんでも女の子が女の子に欲情するのはどうかと思うんだけど」
冗談交じりだけど、幼馴染の『波瀬優馬』が異性に興味があるか確認するように印象に残っていた弓道部の先輩が弓を弾く姿を思い出しながら聞く。
その言葉に優馬はどこか呆れたようにため息を吐く。
これは誰にでも優しい彼が『ボク』にだけ見せてくれる表情。
その表情に再び、胸が高鳴り、抱き付いてしまいたい衝動に駆られるが、何とか自分を押さえつける。
「あんた、それでも男!! 袴が乱れた時に見えるあのキレイな鎖骨を見て、欲情しないの!! それは男としてどうなのよ!!」
「いやいや、女性の鎖骨に欲情する弓永さんの方がどうかと思うけど」
彼は学校では私の名前を名字で呼ぶ。
いつも残念に思うのだが、自分のファンクラブを名乗る娘達から私を守るための一つの手段だと聞いた。
彼が自分の事を気づかってくれるのは嬉しいのだが、やっぱり、名前で呼んで欲しいと思いつつ、彼が女性に興味を持ってくれているのではないかと期待を持ちながら、女体の神秘を語る。
しかし、彼はまったく反応はしない。
その様子に私は自分の想いを押さえるように唇を強く噛んだ。
「ふーん。やっぱり、ユーマはそっちなのね」
「そっち?」
「バラよ。薔薇。BL。 男の子なのに男の子が好きって奴」
悔しいとは思いながらも、一生懸命に私は『ボク』を演じる。
彼の特殊な性癖を確信するように小さく笑みを浮かべて彼の顔を覗き込む。
彼の表情には小さく焦りの色が浮かんだ。
……決定かな?
今にも涙が溢れだしそうになる。
わかっていた事、わかっていた事だけど辛い。
そんな気持ちを何とか押さえつけて『ボク』は笑うんだ。
「良い。必ず、良い男とからみなさいよ。変な男に捕まるのは止めてよ」
「弓永さん、君は僕を軽蔑しないのかい?」
彼の顔を覗き込み。
今日1番の笑顔を作り上げ、彼の事を応援すると笑う。
「だって、好きな人の応援ができるのは素敵な事でしょ。ふられちゃったのは残念だけどね」
自分が思っていた以上にあっさりと言葉が出てきた。
この想いが報われない事はわかっていたから、まるで同性愛に偏見がないように。
予想していなかったのか、優馬は言葉を失ってしまう。
私の精一杯の告白に真面目な彼は一生懸命に言葉を伝えようとするが不意を突かれた事もあり、言葉は繋がらない。
「じゃあ、ボクは弓道部に入部届だしてくるよ……バイバイ。私の初恋」
私は何も言えない優馬の顔を覗き込むと優馬の頬に口づけをして一直線に図書室を逃げ出す。
このままでは何とか押さえつけてきた涙が流れ出てしまうから、これ以上、情けない姿を見せたくないし、今は優馬の顔を見ている事が出来なかったから……
この日、ボク『弓永 深月』の初恋が終わりました。
以前、二次創作で生み出した弓永深月をヒロインに書いてみました。
当時の彼女を知っている方達に彼女の笑顔にある想いを知っていただきたかったからです。
二次書いてた時は彼女にもハッピーエンドを考えてたんですけどね。
書けなかったのは残念ですが、いつか機会が有ったら書いてみたいです。