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不老不死の男と、不老不死にはなれない女の話

作者: つぐみ

 長い長い生の中で、一度だけ恋に落ちて、一人だけを愛する。

 どこの夢見がちな脚本かと思えば、自身の一族についてだなんて、笑えもしない話だ。

 

 おそらく世に言う、「吸血鬼」というもの。

 それが、私だった。

 別に血液以外の物からも栄養はとれるし、十字架やニンニクも平気だ。

 吸血したものが同じ吸血鬼になることも無い。

 太陽の下で灰になることも、鏡に映らないということも無かった。

 ただ人間よりは運動神経がよく、怪力で。

 治癒力が高く、非常に寿命が長い。

 人間から見れば、そう。不老不死と見える程度には。

 そうして、一生をともにしたいと思ったものを、同じ体質に変えることができる。そこから吸血鬼伝説の一つが生まれてしまったんだろう。

 けれど。


「……どういう、事なんだろうね」

「自然の、摂理でしょうね」


 恋に、落ちた。正直馬鹿にしていた一族のこの傾向は、きっちり俺にも受け継がれてたらしい。

 けれど、それはただの悲劇でしかなかった。もはや悲劇ですらなく、喜劇と呼べるほどの。


「私の家は、代々氏神様を奉っていたのだけれど、それと関係があるのか。それとも、ただの遺伝的な問題なのかな」


 唯一の相手は、どう手を尽くしても、同じ体質にはならなかった。老いて、そしていつか、死ぬ。俺たちにとってほんの一瞬の間に。彼女は生きて死ぬのだ。あっけなく死ぬ。


「……ごめんね」

「なんで」

 

 謝るのか。


「先に、行ってしまうから」

 

 覆ようもないその事実に、ただ、二人で抱き合っていた。互いしか、縋れるものがなかった。


「追いかけたいよ」

「駄目よ。しぶといんでしょ?死ぬのに苦労するでしょう。それに、自殺したら地獄行きなんだって」

「追いかけて会えないなんて、嫌だな」


 互いに頭を埋めた肩口は、冷たく湿っている。


「待ってるから、ゆっくりして、たくさんあったことを教えてよ」

「君がいなくなれば、世界は酷くつまらないことばかりだよ。俺たちはそういう性質なんだ」

「……知ってるよ」


 唯一を見つけてしまえば、もうその次を見つけることも適わない。そんな厄介な一族なのだ。


「生きられたら、良かった。長く…永く」

「死ねればよかった。早く…早く」

 

 正反対の言葉は、けれど同じことを願っている。

 叶わぬと知っていながら、それでもなお、そう願わずにはいられない。



――あなたと、ともに。


――世界を生きたかった。


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