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ボクらは透明な、細長い器の中で生まれて、
ボクらは重厚な、キラキラ光る灰色の鉄の匣の中で育って、
ボクらは真っ暗な部屋の、緑色の光のパネルの前で出会って、
そして、ボクらは――。
『トゥ。任務だ。』
「…はい。」
呼ばれて、瞼をゆっくりと開けた。無心で横たえた体を起こし、用意された服を着る。
部屋にぽつんとある全身鏡の前に立つ。銀色の髪に、赤い瞳、白い肌をした、背の低い、ほっそりとした自分の姿が映る。
服を調え、最後に髪型を確認して、部屋を出、長い長い廊下を行く。
突き当たりにある『教員室』の銀色の扉の前に立つと、スッと扉が開いた。
一歩入り、背筋を伸ばす。
『教授の前では、礼儀正しく』。
ここでの、ルールだ。
「素早い身支度だ。実に宜しい。」
穏やかで、優しげな男性の声がする。『教授』だ。
『教授』の部屋は暗いので、誰も『教授』の顔をはっきりと見た事がなかった。尤も、”見た事がない”という記憶が、”本当に正しいかどうかはわからない”が。
モニタを背に暗がりの中でにこりと笑う『教授』に、トゥが「ありがとうございます」と礼を述べると、『教授』は満足げに頷いて、トゥに一枚の紙を渡した。
この紙には、任務についての詳細が記されている。トゥは隅々まで舐める様に文字を追った。
そこへ、一人の少年が入って来た。
背が低く、細く、ただ必要な部位は鍛えられていて、髪は銀色で、目は赤くて…。
トゥと全く同じ形の少年は、トゥと同じような白いシャツに、黒いスラックスを履いて、黒いコートを羽織っていた。
「トゥ。今回の任務でキミとチームを組む、エインだよ。」
トゥはエインを見た。
だが、エインはトゥを見なかった。
「早速任務について話そう…。」
そう言って、『教授』がモニタの操作パネルを叩く。
『教授』の背後に並ぶ十六面のモニタに、巨大人工衛星が映し出された。衛星は惑星を模った球体をしていて、一見すると本物の星に見える。
「この衛星は知っているかな?」
「”B-32辺境地区・No.5コロニー付属衛星・オェングス”。リゾートや療養地として、五百年前に作られた衛星です。」
エインがすらりと答えると、『教授』は満足げに頷いてにこりと笑った。
皺の山に、背後のモニタの光が反射し、蝋人形のような笑顔だ。
「その通り。そして、水を蓄える能力のない人工惑星の代表格でもある。あまり一般に公表されていない事だが…、人の住む北半球は緑豊かだが、南半球は砂漠化が進んでいる。」
「10年前の管理局爆破テロ事件で、環境管理機能が破損した所為ですね。」
オェングスは統一政府成立以前に造られた。元の持ち主である国家はコミューンとしてまだ残ってはいるが、比較的早い時期に衛星の所有権は別のコミューンの民間企業に渡り、数百年。配備される軍事力が低ければ低いほど、ヒトは歓迎をする。使用目的から必要最低限の防衛力しか備え付けられなかった衛星は、案の定、反政府集団に付け入られた。
「その通り。あの事件後、大規模なメンテナンスが行われたが、修繕不可能な部分が出た。元から、そういう造りだったのだろう。一時は廃棄も提案されたが、結局、比較的被害が少なく、復旧も早かった北半球をメインに継続使用する事になった。権利者は、ウェストミニオン社。」
『教授』の解説の後、エインがすかさず「我々が使用しているシャトルの開発会社ですね」と言う。
「その通り。今回の任務も、ウェストミニオン社からの依頼となる。」
そう言って『教授』が一枚ずつ紙を二人に手渡した。
「」




