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「なーなー、航平。どうなってんの?いつになったら実行してくれるわけ?」

 

ちっ。

とうとうきたか、泰治。

俺が安在とつきあいだしてから二週間が過ぎている。

そろそろ何か言ってくるとは思っていたんだ。

朝っぱらから屋上まで連れてこられたけど、俺はいつも始業ギリギリに登校するからもうチャイムが鳴るんじゃないか?

そう思ったところで校内にチャイムが鳴り響く。

このまま教室に戻る……ことはできそうにないか。


俺は腹をくくって泰治を見つめた。

「それ、無理。俺にはできない」

「はぁ、なんでだよ?」

「俺が安在を好きだから」

おおぅ、目が落ちそうなほど見開いてるなぁ。

殴りかかってくるかと思ってたけど、それよりびっくりしたって感じだ。

「安在見ててわかったけどおまえが言うような嫌な女じゃない。泰治は見下されたって言ってたけど、あれ、目を細めて物をよく見ようとしてただけだぞ?ちょうどコンタクトなくして裸眼じゃなんも見えてなかったからだ」

「航平、俺を裏切んのかよ?」

俺が仲間だったみたいな言い方するな。

脅して引き込んだくせに。


「最初っからいやだって言っただろ?」

「おまえ、わかったっつったじゃん」

「告って俺もおまえと同じように振られれば、そこでおまえが考えを改めると思ったんだよ。俺だってまさか安在がOKするなんて思ってなかったんだ」

「今更言い訳かよ。で?自分の彼女になったとたん惜しくなったって?そりゃあれだけの女なら連れて歩くだけで自慢だよな」

「自慢?んなつもりねぇよっ」

安在を商品か何かのように言われてカッとなった。

そんな俺にどうだかというような目を向け、泰治は顔つきを一変させる。


「おまえって昔からそうだよ。人の良さそうなそぶりみせてやたら正論並べ立てんの。んで自分は悪くありませんって――もう、それ偽善者っぽくて最悪だよな。俺、おまえのそういうところすげぇムカついてた」

「偽善?おまえに俺がどう見えてるか知らないけど――そもそも安在のこと逆恨みしてんのは泰治だろ?んな腐った根性の奴に俺のことをとやかく言われたくない」

俺は普段は争いは避けるけど、こんな風に避けられない状況なら売られた喧嘩は買うほうだ。

ざけんなよ。

なんでここまで言われなきゃならないんだ!!

まず己のやろうとしたこと省みて海よりも深く反省しろっっっ、このボケ!


泰治を睨み返して臨戦態勢に入ると冷たい視線が返ってきた。

「おまえが俺の話に頷いた時点で共犯だろうが」

俺を押しのけ通り過ぎざまに言われた台詞に返す言葉が見つからない。

「なのにそれに目ぇつぶって、自分を正当化しようとするとこが偽善だっつってんだ」

目で追った先で振り返った泰治がニヤリと笑った。

俺は呆然とそれを見つめるしかできない。

「俺、おまえのことがガキのころから大嫌いなんだよ」

捨て台詞を残して泰治が校舎に消えた。



ガキの頃から大嫌いって……。

俺と泰治は幼稚園からのつきあいで、小学生の時は毎日のように遊んでたし――。


「嘘、だろぉ……」

その場に座り込んで俺はうつむく。

まさか10年以上も俺は泰治に嫌われてたんだろうか?

そう思うとさすがへこんだ。

こんなんじゃ授業に出る気になれない。

ああもういい、今日はサボろう。


投げやりな気分になった俺は塔屋の影に移動して座り込んだ。

泰治とはこれっきり縁が切れてしまうんだろう。

心底嫌そうに大嫌いと言われた相手と仲良くしたいと思うほど俺はマゾじゃない。

中学で疎遠になったのは俺があいつに避けられたからだったのかもな。

自分の考えにまたへこんで、壁に背を預けながら長々とした溜め息を吐いた。


泰治の件は片付いたと思えばいいだろ、俺。

これで安在と大手を振ってつきあえるんだから。

目を閉じた俺の心に、ふとあることが思い浮かぶ。

俺が安在に告白した理由なんて、べつに彼女に話さなくてもいいんじゃないか?

なぜかいままで正直に話す気になっていたけど黙っていたっていい話だ。

告白した時はどうであれいまは彼女のことが好きだし、自分から嫌われるようなことをしなくても……。


そうだ、俺の良心がちくちく痛むなんてのはちょっと目を瞑ればいい。

安在のことを大切にして彼女に好かれるよう頑張るほうが、精神的にも穏やかでいられる。

「……って駄目かなー。やっぱ」

「ダメって何が?」

目の前に巽がしゃがみこんでいたことに驚いて俺は声をあげた。

「うわっ、巽!?」

「おはよ」

や、と手を上げる巽は相変わらず飄々としていて表情が読めない。


「な、んでここに」

「HRの途中で木戸が教室に入ってきたんだよ。で、航平のカバンはあるのにいないままだから、もしかしてあいつに呼び出されたのかと思って探しにきた――授業、始まるよ?」

「いい、サボる」

「ボコられて動けない?」

「そんなんじゃないからおまえは教室戻れ」

「わかった」


すく、と立ち上がって巽が消える。

扉の開閉音に俺は額をおさえた。

なにやってんだ、俺?

心配して探しに来てくれたあいつを邪険にあつかって。

これじゃ八つ当たりだ。

しばらくして一時間目が始まるチャイムが鳴った。


自己嫌悪に陥った俺の前髪をぬるい風が揺らしていく。

休み時間になったら帰っかなぁ。

いや、でも今日はまだ安在を見ていない。

俺がたまにでいいと言ってから弁当は毎日じゃなく、数日置きに作ってきてくれるようになった彼女だ。

今日は安在の弁当の日だしそれは食べたい。

なにより彼女の顔を見れば元気になれる気がする。


そこへ塔屋の扉が開いた音がした。

俺と同じサボリ組みかと思ったところで、カバンを手に巽が現れた。




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