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13 雛姫視点

「西嶋君、これどうぞ。数学を教えてもらったお礼」

お弁当を食べ終えて図書館に戻ってきたところで、わたしが自販機で買った苺ミルクを渡すと、西嶋君はちょっと戸惑ったような目を向けてきた。

「なんで苺ミルク……?」

「え?だってよく飲んでるから」

学校で何度も見かけたもん。

これを飲むくらいだから西嶋君って甘い物平気かな?

そう思って尋ねてみるとお母さんとお姉さんが甘い物好きでケーキをよく食べるみたい。


じゃあ、あの質問してみようかな?

うずうずと西嶋君を見つめると、苺ミルクを飲む目が問うような眼差しに変化した。

「お菓子、作ったら食べてくれる?」

「食べる」

やった!

これもわたしのやりたいことの一つだったの。

お菓子を作って食べてもらうって。

「けど弁当とかお菓子とか材料費バカになんないだろ?今日も弁当食べといていうのもなんだけど無理ない程度で――」

「もしかして迷惑だった?」


これって遠まわしにいらないよって断られてるのかも。

そう思って尋ねた瞬間。

「それはない!弁当はうまいしお菓子だって食べてみたい。そこは誤解なしで!! ただ、毎日はやっぱ悪いってか……材料費だけでなく、弁当作るのに早起きしなきゃいけないだろ?」

そんなの気にしなくっていいのに。

「受験生なんだしその時間を勉強か睡眠に充てたほうがいいと思う。だから時々で充分」

「せっかく彼女なのに」

いまのうちにやりたいことやっておかなきゃ、時間なんてあっという間に過ぎちゃって、明日にでも「お別れ」なんてことになりかねないものっ!

だからお菓子作るぅ~。


絶対譲りませんって思いながら西嶋君を見ていると、彼は少し考えるような素振りを見せてから口を開いた。

「あの、さ。もっかい公園戻って散歩――」

「え?」

いきなり話が変わったため一瞬、西嶋君が何を言い出したのかわからなかった。

公園で散歩がどうしたの?

「――とかはしたくないよな。勉強しに来てんだし」

「行くっ」 

わたしの返事の素早さは0コンマって世界だったと思う。

だって初めて西嶋君が誘ってくれたんだもの。

どんな心境の変化だろうと、気の迷いだろうとかまわないっ。


「行きたいっ!!」

嬉しい、嬉しい、嬉しいっ!

お腹がいっぱいなると眠くなったりするし、食後の運動をしたいのかもしれないけれど、それをわたしと一緒にって思ってくれたんだもん。

わたしの返事を聞いた西嶋君は苺ミルクを飲み干すと、ゴミを捨てた後わたしに右手を差し出した。

「繋いでく?」

きゃあ!

こんな夢みたいなことあっていいの!?

「うん」

ためらいがちに手を伸ばすと西嶋君の手がしっかりとわたしの手を握ってくれた。

嘘みたい。

わたし、西嶋君と手を繋いでる。

うわ、緊張してきちゃった。

手に汗をかいたらどうしよう。


「な、なんか照れるね」

「言うな」

即座に言われてわたしはビクつく。

なんか怒らせた……?

「あ、ごめ……」

「余計に緊張する」

へ?緊張してるって言った?

じゃあぶっきらぼうな返事はそのせいなのかな?

「嘘、西嶋君も緊張してるの?沈黙へいきなのに」

「それとこれとは別」

指摘すると西嶋君はわたしから目をそらすように歩き出した。


ねぇ、もしかして西嶋君も照れてるの?

もっと顔をよく見せてくれなきゃわからない。

そんなわたしの願いが通じたのか、彼がわたしを見下ろしてくる。

でもお互いの視線がぶつかったとたん、妙に気恥ずかしくて自分から勢いよくそらしちゃった。

うわ、これ感じ悪いよね?

怒ってないかな?

そうっと窺うように顔を上げると……あれ?

なんか西嶋君も顔を背けてたっぽい?

今度もまた目が合って、なんだか二人して笑っちゃった。


なんだ、西嶋君もわたしと一緒なんだ。

そう思うと嘘みたいに力が抜けた。

「西嶋君の手おっきいね。公園まわってる間、繋いでていい?」

だからこんな大胆発言までしちゃったの。

返事はなかったけれど、繋いだ手に力がこもったからいいってことなんだろう。

あなたの手は大きくて少しごつごつしてて、でもとっても温かい。

繋いだ手を見つめてると嬉しくて自然に顔が綻んじゃう。



「安在はどんなものもらったら嬉しい?」

二人して黙々と公園を歩いてたら突然西嶋君が尋ねてきた。

わたしたち二人、どちらもおしゃべりってわけじゃないから、一緒に帰っていてもたいていこんな感じ。

最初こそ何かしゃべらなきゃってぐるぐるしていたわたしも、今じゃすっかりこの静かな時間も楽しめるようになってる。

「え?プレゼント!?」

「ん。姉ちゃんがもう少ししたら誕生日なんだけど、どんなもんやったらいいかわかんねぇからいらないよなっつったら、プレゼント寄越せって蹴り入れられた」

あ、なんだ。

わたしにじゃないのか。

それにしてもバイオレンスなお姉さんだなぁ。


「甘い物好きなんだったら有名なケーキ屋さんのケーキとか、お菓子とか……」

「毎年弟とそれで済ましてたら誠意がないって去年却下された」

なるほど。

それで困ってわたしに相談してきたのね。

「じゃあ服とか?」

「趣味がいまいちよくわかんね」

「お花?」

「花知らないし自分の姉に花ってすっげ寒い」

「あとは小物とかカバンとかアクセサリーとか」

わたしが纏めて提案すると西嶋君は「だよな~」と溜め息を吐いた。


「なんであいつのために、んなこっぱずかしそうなものを買いに行かなきゃならないんだ。女物のカバンとかアクセサリー選んでる自分を想像できない」

首をふった西嶋君は「あ」とわたしに目を向けた。

「今度の休み、予定ある?なければ買い物つきあってくんね?」

「行く!」

わたしは反射的に返事をしてた。

うわぁい!来週も西嶋君とデートだ!!

「ありがと」

ホッとしたようにそう言った西嶋君がお礼とともに笑顔をくれる。


くぅ、こんな無防備な笑顔向けてくれるなんて。

写真ー、写真撮らせてほしいっっっ!

この際携帯ででも――とカバンに手を伸ばしかけ、わたしは我に返った。

だめだめだめ、いきなり写真撮らせてって言ったら絶対引かれるから!


「西嶋君のお姉さんがどんなもの好きなのかリサーチしてね」

「ん。姉ちゃんの持ち物適当に写真とってメールする」

「え?プライベートなものだし――」

「知らね。プレゼント寄越せっつったあいつが悪い。――やーこれで肩の荷が下りたわ」

「ちょ……西嶋君も一緒に選んでよ?わたしにお任せはだめだからね!こういうのは相手を思って選ぶ気持ちが大事なんですっ」

言い切ってしまってからわたしは冷や汗が出そうになった。


まずーい、ついお説教臭く……ウザイとか思われちゃったかな?

わたしを見下ろす西嶋君は少しあって、ふ、と微笑んだ。

「わかった」

うっぎゃぁぁあ!

なにこれ、なにこれ、なにこれ。

なんだか日増しにわたしに向けてくれる笑顔が増えてる気がする。

しかも今のこれは――うわぁぁん、すっごく写真に撮りたいぃ!!


わたしの目が今だけファインダーになってくれますように。

そう願いながらわたしは西嶋君の素晴らしく可愛くて素敵な笑顔を脳裏に焼きつけた。



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