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11 雛姫視点

次の日の朝、登校したとたんわたしは親友たちに両腕をとられて、人気のないトイレに連れて行かれた。

朝からトイレって……イヤガラセの定番場所だよ、二人とも?


「雛姫、あんた西嶋となんかあった?」

「昨日ひなと西嶋が一緒に帰ってたって聞いたけど?」

もう広まってるの?

やっぱり見てた人いるんだ。

わたしを見つめる二人の声が揃う。

「もしかしてつきあうことになったの!?」

「うん」 

わたしが頷くと彼女たちは一斉に抱きついてきた。

「やったじゃん!ひな」

「まさかあんたが告白できるわけないし……向こうから?」

「そう」

わたし、嘘は言ってないよね?


「ただずーっと西嶋を見てるだけだった雛姫なのに、こんな急展開――いきなりすぎてびっくりだよ~」

「あいつ、ひなの視線に気づいてあんたのこと気になりだしたんじゃない?」

いいえ、それはないです。

だって西嶋君はわたしのこと好きでもなんでもないもん。

でもそれをゆんちゃんとようちゃんには言えない。

言えばどういうことかと彼女たちは尋ねてくるはずだから。


わたしは昇降口で聞いた木戸君の話や、そこから西嶋君とつきあうことになった経緯すべてを、二人に話す気はなかった。

優しい二人のことだもの。

わたしのために怒ってくれるでしょう?

それとも何もかもを承知で西嶋君とつきあうことを選んだわたしに悲しむのかな?

だからね、何も言わないでおくの。

西嶋君と別れたときは、理想化しすぎてたみたいって誤魔化すことに決めてる。

つきあってすぐに別れるなんて、相手と合わなかったって理由がきっと一番多いはず。

だからそれが一番、理由としてありそうでしょう?


でも本当の彼は以前と変わらず優しくて実はマイペースなのよ?

当たり前だけどわたしと違った考え方をして、素敵なものの見方をする人だった。

それに昨日の別れ際、わたしが笑顔を向けると同じように笑ってもくれたの。

西嶋君の笑顔は2年が経って断然男っぽくなっていて、それでもやっぱり可愛いからわたしはドキドキが止まらなかった。

そうやって彼について集める小さな発見は、わたしの大切な宝物になってくの。

少しずつ、心の中にたまっていくのが嬉しい。


でもそれがさらにわたしの気持ちを募らせ、彼に胸を焦がす結果となってしまうってわかってる。

そして最後まで西嶋君に大好きだって言えないまま、この恋は終わってしまうんだろうな――。



「良かったね」って自分たちのことのように喜んでくれるゆんちゃんとようちゃんに、わたしは曖昧に笑うことしかできなかった。




* * *




お昼休みの屋上でお弁当を囲みながら、わたしは仲がいい二人を見つめてる。

相手はもちろん西嶋君と成山君だ。

「あっ、巽!てめ、俺の最後のベーコンポテトっ」

「早いもの勝ちなんだよ?所詮この世は弱肉強食なんだから。でも可哀想だから航平にはこれあげる」

「サンキュ――ってミニトマトは安在が作ったもんじゃないだろ!」

「何言ってるの。安在さんが丹精込めて家庭菜園で作ったものかもしれないじゃない。てことはこのお弁当のなかで一番作るのに時間がかかってるよ。ね?安在さん」

「え?……わたし、家庭菜園はしてないけど」

「おまえ、でたらめばっか――あ!ベーコンポテトを食いやがったな」

「素直だよねー、航平って」


ちょっと多かったかなって思ってたお弁当なのに、もうおにぎり一個しか残ってないんだけど……あ、西嶋君が取っちゃった。

なのでお弁当箱は空です。

完食!

しかもほんの数分でっ!!

弟もよく食べるけど、二人はそれ以上じゃない?

すごいなぁ、男の子って。

見事な食べっぷりに驚いているわたしの視線に、西嶋君が「あ」と気づいたように言った。


「おにぎり、ほしかったとか?返す?」

「ううん、いいの。食べて食べて。それよりお弁当足りた?」

「ん、もうちょっと食える気もするけど」

「俺はまだいけます」

そーっと成山君が西嶋君のおにぎりにお箸をのばしたところで、それに気づいた西嶋君はベチと彼の手をはたいた。

「お・ま・え・はー!これは俺んだ!」

大きく口を開けて……ひ、一口ってぇ!

喉つめたりしないかな?

大丈夫?


「はー、うまかった」

もぐもぐ、ごっくんとおにぎりを飲み込んだ西嶋君の言葉にわたしは耳を疑う。

うまかったって言ってくれた!?

本当?

お料理とお菓子作りがわたしの唯一のとりえなの。

でもいままで家族以外に食べてもらったことがないから、実は微妙だったらどうしようって思ってたんだ。

不味かったら顔を見ればわかるけれど、微妙な場合顔に出ないだろうし、お世辞でおいしいって言わせちゃうでしょう?


「すっげうまかった。ごちそうさま」

しっかり手を合わせるなんて躾が行き届いてるのね、西嶋君って……って、そうじゃなくて!

おいしかったって嘘じゃない?

喜んでくれたのかな?

「良かった。また作ってくるね」

「マジで?」

そう言った彼の顔が綻んだ。

わっ、嘘みたい。

笑ってくれた。

ニコニコするタイプの人じゃないから、こんなふうに時おり見せてくれる笑顔がもうたまりませんっ。

あぁあ、ニヤけちゃうぅ~~~。


「安在って料理得意なのな?」

「得意っていうか、お料理とかお菓子を作るのが好きなの。だから大学も家政学科を志望してる」

「ふーん、じゃ安西さん、航平と志望校離れちゃうね。家政学科のある大学って女子大でしょ?航平、理系に強い大学狙ってるよ。因みに俺は将来ネコ型ロボット作って、ネズミにも負けないストロングキャットにするつもり」

やっぱり西嶋君は理系の大学に進学するつもりなんだ。

予想はしていたけれど成山君の言葉にわたしは落ち込む。

「西嶋君は理系クラスだしわたしは文系だもん。進学先が違うってわかってるしそれに――」

わたしは我に返って口を閉ざした。


西嶋君とはすぐに別れることになるから仮に同じ大学になっても辛いだけ……。

落ち込んで、そううっかり余計なことまでしゃべってしまうところだった。


「それに?」

西嶋君に促されてわたしは無理やり笑顔を浮かべ首を振る。

「ううん。いまから先のこと考えたって仕方ないよね」

お弁当箱や水筒を片付けてわたしは立ち上がった。

「次の授業の当番なの。先に戻るね?」

西嶋君たちに別れを告げて塔屋に飛び込む。


ネガティブになるな、わたし。

つきあっているうちにいろんなことをしようって決めたでしょ?

一緒に帰る。

お弁当を作って一緒に食べる。

もう二つも叶えた。

この次は……。


「図書館デート」


小さく呟いて頷く。

休日デートは憧れだったの。

普段学校じゃ見られない西嶋君が見れるといいな。

そんなことを思うとへこんでいたはずのわたしの気分が少し浮上した。



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