~聖女の人形~
時間軸は前話~勇者の人形~の千年前です。
――――――――神様
この世界が神の作りし箱庭だと言うならば
あなたに選ばれたという私は
あなたの《マリオネット》以外の何者でもなかったのでしょうか―――――――
「《神に選ばれし伝説の乙女》・・・・ね。」
「どうしたいきなり。」
ポツリとこぼした独り言を聞き咎められて、彼女はゆっくりと振り向いた。
それにつられて、ここに来てからだいぶ伸びた髪がさらりと肩口を滑る。
自分の私室に無断で入って来るような人間は一人しかいない。
振り向けば、予想通りの人物が立っていた。
全く遠慮を見せない無礼な侵入者に、彼女は辛辣な言葉を投げかける。
「・・・勝手に入ってこないでくれませんか。」
「今更だな。それより、どうしたと聞いているんだが?」
初めて会った時から変わらない横柄な態度に、彼女は溜め息をつきたくなった。
確か、こういうのを俺様と呼ぶのだったろうか。遠い記憶を引っ張り出していると、相手の瞳が剣吞に細められた。
経験からわかる。こういう時の彼は、誤魔化さない方がいい。
「少し、考え事をしていたんですよ・・・・かつての私は、《神様のマリオネット》だったのかもしれない、と思いまして。」
マリオネット
それは《操り人形》
心無き、人の形をした道具
「・・・・・・何故だ?」
「ご存じのように《この世界は神がつくりし箱庭》です。ならば、《神の使い》である私は、《神様のマリオネット》と呼ぶのがふさわしいかと。ああ、この場合の神とは『彼』ではなく、もっと・・・そう、上位の存在ですよ?
『彼』も私も私の世界で言う、機械仕掛けの神。解決困難な事態に現れる、絶対的な力を持った存在と呼ばれても、製作者には逆らえない。ならばどこかに製作者がいるはずです。」
あえて説明したのは、自分たちがこの世界の神を知っているから。
かの存在を思い出し、月明かりに浮かび上がる彼の瞳に鋭い光がよぎる。
緩やかに衰退していく世界
万策尽きた人々は、神からの託宣に従い、救世主たる『神の御使い』を異世界から召喚した
そうして呼ばれたのが、目の前の少女。
聡明な彼女は、最愛の姉と再会するために救世主となることを受け入れた。
人々の期待に、少女は醒めた目をしながらも応えていった。
だが、彼女は裏切りを知る。
彼女を呼び寄せ、世界救済への道を示し続けた神の偽りを。
――――『世界救済』とは世界の浄化であり
――――『神の御遣い』はそのスイッチだった
そして彼女は神に反旗を翻した。
人に絶望していた人形は、他者のために操り糸を断った。
―――――――――――その代償は、彼女の帰還
「実の両親すらも見限り、姉の幸せにしか興味の無かった私がこんな決断をするなんて、ここへ来る前の私が聞いたら世迷言だと嗤ったでしょうね。」
「ああ、最初の頃か。アレは酷かったな。警戒心むき出しで、まるで毛を逆立てた子猫だった。」
「正直、すぐにでも帰りたいくらいでしたからね。それと、警戒心を煽ったのは間違いなくあなたです。」
「面白かったぞ。」
彼女の髪をもてあそびながらクツクツと笑う男。
そんな彼に何を言っても無駄だと嘆息すると、手を止めていた作業を再開する。
ムッとした男は、彼女をの頭にあごを乗せるようにして後ろから覗き込んだ。
彼女の手元にあるのは、羊皮紙と羽ペン、インク。
「重いのですが。」
「何をしている。」
「見ての通り書き物です。そして重いです、あごが痛いです。」
「何を書いている。仕事か。」
「あなたと違って、私は仕事を溜め込んだりしません。これはただの趣味です。それより重いし、あごが刺さって頭が痛いです。」
「俺だって溜め込んだりしない。お前の趣味が書き物だなど、聞いた覚えはないぞ。」
「・・・・わかりました。話すからどいてください。」
今夜の作業を諦め、手早く片付ける。振り返れば、彼はいつの間にか少し離れた場所にある椅子に座ってこちらを見ていた。
彼の向かいにある椅子には座らず、くるりと体の向きだけ変えて向き合う。
「全くあなたは・・・側近の者たちに同情しますよ。」
首を振ってそう言う少女は、自分が『影の右腕』と呼ばれていることを知らない。
言うつもりもない男は、さっさと話せと無言で促す。
「物語を書いているんです。登場するのは異世界から来たシスコンの少女と、強引で俺様でどSな王様と、王様に振り回されている周囲の人たちと・・・・・・孤独に狂った神。」
挙げられた人物が示すことに、男は片眉を跳ね上げた。
1度壊されかけたこの世界から、失われたものは多い。それは技術であったり、芸術であったり、知識であったりする。
それを埋めるように新しいものが生み出されるだろう。そして、古いものは忘れられていく。
聡明な少女は、そのことを知っていた。
「未だ幼い新たな神のためにも、真実は広めるべきではない。それはわかっています。それでも、消えていくのは耐えられなかったんです。」
「それで王妃自ら執筆か?」
その呼称に聞こえないフリをして続ける。
「一冊だけ、絶対に劣化も破損もしないようにした本を作るつもりです。いつか、それが必要な誰かが読むように。」
「それは、予見か?」
「どうでしょうか。後世に全ての後始末を押し付けた、罪滅ぼしかもしれませんよ。」
「召喚陣を残しておくことと関係あるのか?」
「・・・・・どうですかね。」
問われて、一瞬、言葉に詰まった。
その一瞬に何を読み取ったのか、男はそれ以上追求することも無く立ち上がる。
さらり、と前髪をかき上げられて、彼女は戸惑った。
彼らしくなく揺れる瞳が見えた、と思ったら突然彼の胸元に引き寄せられた。
「何がしたいんですか、あなたは。何か変なものでも食べましたか。拾い食いするほど意地汚いとは知りませんでした、むぐっ。」
「お前は自分を人形と表現したが。」
いつもの調子を取り戻し毒づく彼女をさらに強く抱きしめることで黙らせ、続ける。
「お前が人でなくとも、手放す気はないからな。」
「・・・脈絡無いですね。それにしても、気に入ったものは絶対にはなそうとしないなんて、子どものような人ですよねあなたは。」
「気に入られているとわかっているなら不満は無いだろう。それに、人形と子供ならぴったりだな。」
何とか搾り出した憎まれ口もあっさりとかわされ、彼女は降参した。
「もう勝手にしてください。」
「言われなくとも。」
そのまま降りてくる気配に目を閉じ、彼女は体をゆだねた。
――――――誰にも言わない願いがある
全ての決着のために必要な『異世界の者』
それを呼ぶための召喚陣に、手を加えた
一つ、全てが終わった時に呼び出したものが望めば、元の世界に帰ることが出来る
一つ、呼び出すものは『神の孤独』を理解または共感できるものとする
前者はせめてもの償い、そして後者は希望
孤独な神にどうか、優しい終わりを
――――――根拠の無い予感がある
あの日、光に包まれたのは2人。現れたのは1人。
ならば、もう1人はどうしたのか。
きっと自分には知ることはできない。
だからせめて、自分が知る誰よりも優しい彼女のことを願う。
どんな道でもいい、ただ幸せに。
登場人物紹介
聖女
異世界から召喚された16歳の少女。
血のつながらない姉を溺愛しており、義姉以外はどうでもいいと思っていた。
そのため、聖女として召喚された時も非協力的だった。
美しい黒髪から、黒の聖女と呼ばれる。
現在は世界の復興支援に尽力する傍ら、王の右腕として働く。
王のしつこい求婚に根負けして受け入れたが、「聖女」のネームバリューを利用するため、結婚は承諾していない。
王
聖女を召喚した国の王。
有能、冷酷、傲慢な俺様。(1番権力を持たせちゃいけないタイプとは聖女の言葉)
神や聖女といった存在を信用していなかったが、今まで出会った女とは異なる聖女の反応を面白がり、協力する。
聖女のことは1人の人間として認めており、唯一自分と対等な女性と見ている。
独占欲は非常に強い。
聖女はツンデレ。




