悪戯(4)
六回目のセッション。凛の悪戯は、もう一段階上に登った。
この日は授業前のリラクゼーションの時間を少し長く取った。「先生、最近お疲れでしょ。今日はゆっくりやろう」と言えば、達也は嬉しそうに頷く。セッションの時間を楽しみにしているのは、もはや凛だけではなかった。
深い状態に入った達也に、凛は囁いた。
「先生。目を覚ましたあとね、凛がリラクゼーションのことを褒めたら、先生は自然に凛のことも褒め返したくなるの。凛の外見でも、性格でも、何でもいい。先生が思ったことを、そのまま口にしたくなる。普段は言わないようなことも。でも言った後で恥ずかしくなったりしない。自然に言えたなって、それだけ」
覚醒後。凛はタイミングを見計らって、さらりと言った。
「先生のリラクゼーション、本当に上手くなったよね。凛、先生にやってもらうの好きだなあ」
嘘だ。やっているのは凛の方だ。でも達也にその自覚はない。
達也は微笑んで、それから少し目を見開いた。何かが口から出ようとしている、という表情。
「……凛は、髪がきれいですね」
唐突だった。授業の最中に、脈絡もなく。達也自身、言った瞬間にわずかに驚いた顔をしたが——暗示通り、すぐに自然な表情に戻った。
「なんか急に思ったので。すみません、変なこと言って」
「え、嬉しいんだけど。先生、もっと言っていいよ?」
「もっと、ですか」
「うん。凛の良いところ」
達也は苦笑しながら——しかし、その苦笑の奥にある柔らかな光は本物に見えた。
「凛は……不思議な魅力がありますよね。わがままなのに、憎めない。目が離せなくなるというか」
凛の心臓が鳴った。これは暗示の力だろうか。それとも、先生の中にもともとあった感情を暗示が引き出しただけだろうか。区別がつかない。区別がつかないのに、嬉しくて仕方がない。
「先生、それってもしかして口説いてる?」
「いえ、そういうわけでは——」
「冗談だってば。でも嬉しいよ、ありがと」
凛はにっと笑った。その笑顔の裏で、胸の奥が甘く疼いていた。先生に褒められたい。先生に見てほしい。先生の口から凛の名前が、凛への賞賛が出てくるのが、こんなにも心地いい。
最初は先生を困らせるのが楽しかった。次に先生を操れることが面白かった。でも今は——先生が凛に向ける眼差しが変わっていくことが、何よりの報酬になっていた。




