第5話 指輪をはめたら、竜になりました
指輪を指にはめた瞬間、胸の奥で何かが弾けた。
熱い。
けれど、焼けるような痛みではない。
身体の内側から、力が溢れ出してくる感覚。
息を吸うと、肺いっぱいに空気が流れ込み、吐いた息だけで周囲の空気が震えた。
「……え?」
視界が、急に高くなる。
天井が近い。
いや――近すぎる。
次の瞬間、轟音が響いた。
木材が砕け、粉塵が舞い上がる。
倉庫の屋根が崩れ、外の光が一気に流れ込んできた。
(……私、壊した?
でも、痛くない。私の身体の方が固いってこと?)
恐る恐る、視線を落とす。
赤い宝石のような光沢を帯びた鱗に覆われた前肢が見えた。
その先には、大きく黒い、鋭い爪。トカゲのよう。
(……なに、これ)
そして、背中に、何かある。
肩越しに見ると、赤い背中に、コウモリみたいな2枚の羽が生えていた。
(……なんか、竜みたい?夢?)
頭が追いつかない。
けれど――
その時、はっきりと思い出した。
――フルール。
胸の奥が、ぎゅっと縮む。
私がいたところは、倉庫だったようだ。建物の外に出ると、少し向こうに、学校の校舎が見えた。
「フルールは……別邸か」
頭の中で、必死に整理する。
「確か、馬車で三十分くらい……」
今のこの身体で、馬車には乗れそうもない。
そもそも、近づいたら大騒ぎだ。
とりあえず、歩いてみた。
どしん。どしん。
地面が揺れる。
一歩ごとに、ものすごい音が響いた。
「……遅いし、目立つし」
しかも、あまり速くない。
「うーん、どうしたものか……」
悩みながら、無意識に背中の違和感――羽を、ぱたつかせた。
その瞬間。
足が、ふっと地面から離れた。
「……え?」
身体が、浮いている。
「もしかして……この羽で、飛べる?」
遠くへ飛んでいくイメージを思い浮かべながら、
もう一度、意識して羽を動かす。
ばさっ。
羽ばたくたびに、身体がどんどん高く浮かんでいく。
次は、前へ進むイメージ。
すると、ちゃんと前に進み始めた。
「うわっ……!」
思わず声が漏れる。
「私、飛んでる!?」
背中の大きな羽をぐわわっと左右に広げ、
ばっさばっさと羽ばたく。
眼下には、まばらに小麦やいろいろな緑の畑が広がる平原。
斜め前には、黒い森と、その向こうに青く連なる山並み。
ひんやりとした風が、身体をすり抜ける。
「……」
思わず、目を細めた。
気持ちいい、なんて言っている場合じゃないのに。
ふと、今飛び出してきた倉庫のあたりから、
ざわざわと数人の声が聞こえた気がした。
「あ、いけない」
我に返る。
「それより!」
私は、ぐっと気持ちを切り替えた。
「早くフルールのところに行かなきゃ。間に合って!」
身体が少しぐらつく。
それでも、意識して左へ旋回する。
視界の先に、領主の別邸がある方向を定めて、
私は、そのまま空を切った。
ばさり、と大きく羽ばたいた。
友を助けるために。
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