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竜国の姫は、田舎で静かに暮らしたい  作者: コフク
第二章 竜になれなかった者――闇と竜の血

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第4話 放火犯の調査と、帝国の影

 火事の日、マックスさんは王都へ急ぎの連絡を入れていた。そのためだろう。

 火事の二日後、ビュートゥさんたちが到着するのと、ほぼ同じ頃――

 王都から、調査団が派遣されてきた。


 魔法省高官だという、背筋の伸びた女性。

 騎士団の副長を含む、腕利きらしい男性が数名。

 そして――


「……大きい」


 銀色の毛並みを持つ、二頭の魔法犬。

「フェンリルですな」

 ビュートゥさんが小声で教えてくれた。


「魔法の残滓を嗅ぎ分けます。

 犯人がどんな魔法を使い、どこから来たか――

 ある程度は分かるでしょう」

 魔法省の女性は、淡々とそう告げた。

 だからこそ、森の火事が起きた一帯は封鎖されていたのだ。

 私は、胸の奥で少しだけ不安になった。

(あの時、雨を降らせちゃったけど……

 痕跡、消えてないよね……?)



 研究所の関係者として、私たちもマックスさんに同行し、挨拶をする。

「リリです。この村で暮らしています」

 それから、調査が始まり、他の所員と、調査団の人達が話している隙に――

 

 私は、そっとフェンリルに近づいた。

「……あの」

 二頭の耳が、ぴくりと動く。

「臭い、残ってます? 追えそうですか」


 一瞬の沈黙。

『……ウワワン!?』

 驚いたような声が響いた。

『え、なに? この子、僕らに話しかけてる?』

「はい。話しかけてます。で、……残ってます?」

 恐る恐る聞くと、今度は落ち着いた声が返ってきた。

『薄いけど、僕らだったらわかる程度には、まだ残ってる。』

 オスが先に答えてくれた。

『国境の方へ向かってる。その先は……闇の国』

『ウッフッフッ。あなた本当に、話してること分かるのねエ。

 日数からしても、もう追いつけないでしょうけど。

 ……あっちの町の方から臭いが来てるワ。そして、いろんな薬の匂い』

 メスも答える。

『商人に紛れて入ってきたのかな』

 コフクも会話に混ざる。


「凄いね。それだけ分かるんだ。で、そういうの、どうやって人に伝えてるの?」

『魔法具で伝えられるものもあるけど、最近はビュートゥさんも、伝えてくれたりするね。

 あなた程ではないけど。』

『ああ、誰かと似てると思ったら、あなたビュートゥさんと似た臭いがするのねエ。

 竜国の人ね!』

(おじいさんと同じ匂いの女学生というのはちょっと複雑……)


 そのとき。


『――あ』

 二頭のフェンリルが、同時に顔を上げた。

 私も、つられて視線を上げる。


 木の枝に、烏が一羽、止まっていた。


 真っ黒な羽。

 不自然なほど、静かな佇まい。

 ――カァ。

『竜』

 ――そう、聞こえた気がした。

 心臓が、どくんと跳ねる。

「え……?」


 今のは、空耳?

 それとも――


『……帝国の、黒烏クロウだ。偵察だな』

 フェンリルが低く唸る。


 黒烏は、こちらを見下ろしていた。

 紫がかった光を宿した瞳。


(……探されてる?)


「リリちゃん?」


 マックスさんの声に、はっとする。


 目を戻すと、黒烏はすでに羽ばたいていた。

 黒い影は、森の奥へ溶けるように消えていく。


 残ったのは、胸の奥の、ひやりとした感覚。



――帝国南部。

 灰色の石で造られた、高い塔。


 雲の低い空を、無数の黒い影が横切っていた。

 ばさ、ばさ、と羽音が重なる。

 それは、黒烏クロウだった。

 一羽や二羽ではない。

 塔の周囲を、円を描くように舞う、

 一羽の烏を軸に、無数の黒烏の群れが集合体クロウ・レギオンを形作る。


 黒髪の青年は、窓辺に立ち、外を見下ろしていた。

 紫の瞳が、静かに細められる。

「森は燃え、赤い竜が出た。

 だが、どこから来て、どこへ消えたかは確認できなかった、か」


 報告した男は、膝をついている。

「先ほど、竜の匂いのする人間が村にいたとの、黒烏の報告もありました」

「それは、興味深いな」

 青年は、くすりと笑った。


「赤――竜国の王の血筋か? それとも、近い者か」

 机の上には、一枚の粗い地図。

 印が付いているのは、アグラールの国境付近。


 背後で、誰かが言った。

「皇子、次はどうなさいますか」


「次の機会を伺い、引き続き情報を集めろ」

 青年――帝国皇子レオグリムは、静かに言った。


「竜になる方法は、まだ分からない。

 ――だが、必ず辿り着く」



「どうだった?」

 戻ってきたマックスさんが尋ねる。


『国境に向かってます』

『他国に入った以上、これ以上は追えません』

 フェンリルの報告を、魔法省の女性が記録していく。

「やはり、単独犯ではありませんね」


 調査団は、その日のうちに王都へ戻る準備を始めた。


 事件は、ひとまず「調査中」となったが、

 私の中では、終わっていなかった。


 私は、何も言えずに、森の方を見ていた。

(……竜、って、言った)

 気のせいで済ませるには、

 あまりにも、はっきりしすぎていた。


 ――竜の血は、

 望まぬ声にも、耳を澄ませてしまう。

 胸元の指輪に触れる指が、かすかに震えた。


 ――遠くで、誰かが、私を探している。

 理由は、まだ分からない。


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