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竜国の姫は、田舎で静かに暮らしたい  作者: コフク
第二章 竜になれなかった者――闇と竜の血

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第2話 回復の系譜――知らなかったのは、私だけ

 その場にいる全員が、分かっていたような空気だった。

 ――ただ一人、私を除いて。


 ビュートゥさんが家に着いて少しして、マックスさんとその肩に乗ったコフク、護衛騎士のウィルさんも家に来た。

「一緒に来て紹介しようと思ってたんだけど、先に来ちゃったね。知り合いだったの?」

 マックスさんが、結局のところどういう知り合いなのか、ビュートゥさんから聞く。

 大魔法使いであるおばあちゃんと以前から知り合いであったこと、竜の国が戦争に負けて混乱している中、赤ん坊だった私をある人から預かって、育てられないので信頼できるおばあちゃんに預けたこと。……まだ、私が竜の国の姫だといった話はしないようだ。

 その流れで、話題は自然と魔法の話に移った。


「そういえば……」

 マックスさんが、思い出したように言った。

「ジーナさん、僕が回復魔法を使えるって、最初から分かってましたよね」

「分かってたっつか……」

 おばあちゃんは、マックスさんの顔をまじまじと見てから言った。

「目と髪に、緑色があるでしょう。

 緑が多いと言えば、回復魔法と薬の国のファイマール。

 私も若いころ、勉強しにファイマールにも行ったことがあるさね」

「えっ、すごい。

 おばあちゃん、ファイマールに行ってたの!?」

 私も初めて聞いて、思わず身を乗り出してしまう。

「さすが、いろんな国で知識を得たから、大魔法使いになれたんですね」

 マックスさんも褒めるが、

「行った行った。

 けど、回復魔法は知識が付いただけで、魔力が向いて無いから駄目じゃった」

 ちょっと、残念な顔をする。

「薬だけ身に着けて帰ってきたよ」

「でも、おばあちゃんの薬、すごく効くよ。みんな助かってる」

「リリも薬は作れるから、そのうち教えるさね」



「ところで……」

 おばあちゃんは、ふっと目を細めた。

「マックスさん、回復魔法は、お母様から教わったんか?」

 一瞬、空気が止まった。


「……ええ。小さいころ、怪我をしたとき、母が治してくれて。

 興味を持って真似したら、僕も回復の魔力があるのが分かって。

 母が、少しずつ教えてくれた」

「そうかい」

 おばあちゃんは、頷いた。

「だけどなぜ、母からと?」

「今の王妃様は、二十数年前に、ファイマールから嫁いで来られたでしょう。

 マックスさんは、二十歳かそこらでしょう」

 再度、沈黙。


 その沈黙を破ったのは――

「……それ以上は、言わないであげてください」

 ウィルさんだった。彼は一歩前に出る。

「因みに、この方……まだ十八歳です」

「えっ?」

 私は思わず声を上げた。

 マックスさんは、両手で顔を覆ってしまった。


「……あれ?」

 私の中で、何かがつながっていく。

「それって、つまり――」

 私は、ゆっくり言った。

「マックスさん……は、王子様ってことですか?」


 沈黙。みんなが顔を見合わせる。

「……あ、言っちゃった」

 ウィルさんが、しまった、という顔をした。


「まあ、そうです」

 マックスさんは、観念したように笑った。

「アグラール第2王子です。

 次男なので、好き勝手してますけど」

「本当は、好き勝手できない立場なんですけどね」

 ウィルさんが、ぼそっと補足する。


「……分かってなかったの、私だけ?」

「ばれないかなと思ったのに。遠慮されたりするのは嫌なんだよね」

 マックスさんは、残念そうに言った。

「普通の村人にはばれないでしょうが、ジーナ師匠は、普通ではないですから。

 それより、リリア様! ジーナ師匠は、ファイマールだけじゃあないですよ。

 確か若い頃は世界各国を旅して、各地の魔法を学んだと。お噂ですけど。

 わしもぜひその時の話を色々と伺いたい」

 ビュートゥさんが、目を輝かせて話に入ってきた。

「うーん、もう、昔の話だから、ほとんど忘れたし、まあ、そのうち、おいおいね……」

 

 ビュートゥさんにとっては、第二王子とかより、大魔法使いの方が上らしい。

 まあ、私も王子とか良く分からないから、同じようなものだけれど。


 その時、外で馬車の止まる音がした。

 ほどなくして、扉が叩かれる。


「王都魔獣研究所より参りました。ココット・ルヴァンです」

 私がドアを開けると、立っていたのは、きっちりまとめた栗色の髪、細縁の眼鏡、落ち着いた琥珀色の瞳の女性。書類を手に持っていた。

「研究所立ち上げに必要な魔法具、最低限の資材、帳簿、報告書様式などを出張所の方に置いてから参り    

 ました。遅れて申し訳ありません」


 部屋を一見し、マックスで視線が止まる。

「第二王子殿下。

 研究所本部の王都への報告書、三件未提出です」

「え、あれはだね……」

「すぐにサインしてください。本日中に提出いたします」

 有無を言わせず、手に持っていた書類とペンを差し出した。


 そしてその視線が、コフクに向く。

 ……目が優しくなる。

「コフクさん、相変わらず、可愛らしいですね」

 半歩、近づく。

「触っても……いえ、失礼しました。

 サインが終わったら、届けていただけますか?」

 すっと姿勢を戻す。

 コフクが、『ピピイ!(了解!)』と答える。


 何事もなかったかのように、私へ向き直る。

「竜化報告の当人ですね。研究員として、よろしくお願いします」

 魔獣についてはもちろんすごく知識があるのだろうが、他の二人と比べたら、普通の人。

 ちょっと、安心する。


 その夜。

 私は、指輪にそっと触れた。

 

 指輪がくれた、この新しい出会い。

 明日からもまた、新しいことが起こっていく気がする。

(いい人たちで、良かった。

 これからも、良い方向に、進んで欲しいな)


 そんな予感と、願いを、

 指輪に、静かに込めて。

 いつの間にか私は眠りについていた。




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