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竜国の姫は、田舎で静かに暮らしたい  作者: コフク
第二章 竜になれなかった者――闇と竜の血

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第1話 王都からきた研究員

火事のあと、エルント村は静かな日常に戻っていた。

静かすぎるほどに。


けれど、私は感じていた。

――何かが、確実に動き出している。

 マックスさんは、王都の魔獣研究所から、数名の所員がこちらへ来る予定だと言っていた。そのため、出張所にする建物として、ある程度の規模の場所を探していたところ、すぐに話がまとまったらしい。

 今の領主が、前の領主から引き継いだものの、手が回らず放置気味だった農場。それを譲ってもらい、最低限の改修をして使うことになった。


「場所も決まったから、準備ができ次第、研究員に来てもらうよう伝えたよ。

 一人、顧問みたいな人がいるんだけど……ものすごく乗り気で、すぐ来るって言ってた。

 リリちゃんにとっても、きっと良い人だと思う」

 マックスさんは、そう言って少し苦笑した。


――そして、本当にすぐに来た。

 火事の日から、二日後の朝。


 朝食を食べ終わったか、というころ、

 トントン、トントン、と、家の扉を叩く音がした。

「ごめんくだされー!」

 ずいぶんと大きな、よく通る男性の声。

「おや……もしかして」

 おばあちゃんが、少し驚いたように立ち上がる。


「え? おばあちゃん、知ってる人?」

「はいはい、今行くよ――」

 そう言って扉を開けた瞬間――


「師匠! お久しぶりです!」

 勢いよく頭を下げたのは、年配の男性だった。

「おお、久しぶり!

 あんたの師匠じゃないがね。元気だったかいね!」

 二人はそのまま、ぎゅっと抱き合った。


「……え、どなた?」

 私がそう口にした瞬間、男性がこちらを見て、目を見開いた。

「リリア姫ですか!?

 こんなに大きくなって……あの赤ちゃんが!」

「え、姫?――」

 次の瞬間、私は抱きしめられ、両手で頬を包まれ、ぐりぐりと頬ずりされていた。

「ちょ、ちょっと……!」

 ようやく解放され、私は一歩下がる。

(とんでもなく、やばい人がきた?)

 と、思った時。


「リリ、この人はビュートさんじゃ」

 おばあちゃんが、紹介してくれた。

「ああ、名乗るのが遅れましたな。

 ビュートゥと申します。

 今は魔獣研究所で、研究員だか顧問だかをやっとります」


「……あの、手紙の?」

「はい。姫にとっては、赤ん坊の頃の記憶はないでしょうから、初対面も同然でしょうが、

 わしにとっては、この家に姫を預けに来た日のことが、つい昨日のようでしてな」

 そう言って、しみじみと私を見る。

「やはり、ジーナ師匠に預けて正解でした。

 よくぞ、ここまで無事に育ててくださった」

「当たり前さね」

 おばあちゃんは、少し誇らしげに言った。


「目やお顔立ちが王にそっくりになられて。

 でも、良かった。可愛らしいところは母上似ですな。

 少し小柄なのは……まあ、まだ育つでしょう」

 余計なことも言っている気がする。

(それよりも……この人が、あの、全ての始まりの、手紙の人なんだ)

「……ビュートさんは、私の両親のことも、知っているんですよね」

「もちろんですとも! わしなどに、敬語は使わんでください。

 喜んでお話しましょう」


 私は、少し考えてから頷いた。

「分かった。じゃあ……

 家族や、竜国のこと。

 それから、指輪のことも教えて」

 一拍、置いて。

「あと、魔法とかも」


 ビュートゥさんは、目を潤ませながら、笑った。

「ええ、ええ。

 これから一緒にいられる時間も増えるようですし、いくらでも聞いてくだされ」

 ――この時は、まだ知らなかった。


 この日から、ここに研究員が集まり、

 竜国や指輪の話、

 そして、私の家族の秘密が、少しずつ明らかになっていくことを。


 そしてそれが、

 私や周囲の人の運命を、大きく動かす始まりになることを。


 けれど今は、ただ、

 扉の向こうからやって来たその人を前に、

 知ることへの無限の期待と、大きな不安の波がぶつかり合って、

 どうしようもなく、胸が揺れ動いていた。




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