第2話 おしゃべりな牛たち
翌朝、目が覚めた瞬間から、身体の調子が良すぎた。
眠気が残らない。
布団から起き上がる動作すら、軽い。
(昨日、特別なことは何もしてないのに……)
胸元の指輪に触れる。
赤い宝石は、朝の光を受けて、静かに深みを増していた。
「この辺は、明日には採れるかね。こっちはまだだね。
採るのはリリに任せて、秋野菜に魔法をかけておこう。」
おばあちゃんが秋野菜や果物の畑へ行って、魔法をかけた。ぶわわーっと土が光る。
私も少しでも学びたくて、おばあちゃんが魔法を使う時はじっと見てしまう。
「すごいなー。」
一度でも土が整うのに、土の状態を保つため、それを続けることが大事、と言う。
「私も野菜、採らないと。」
私も木箱を持ち上げようとして、風魔法を使った。
すると、ほとんど意識しないうちに箱が浮く。
「……軽い」
一度に沢山浮かべても、魔力が減る気がしない。
「無理すんでねぇよ。力が増えた時ほど、気ぃつけな」
おばあちゃんは、それ以上何も言わなかった。
学校へ向かう馬車でも、また別の異変が起きた。
「今日は道が乾いてて走りやすいな」
馬の声だった。
(……聞こえた?)
学校に着いてからも、異変は続いた。
最初の授業は魔術の実技。
対戦で、魔法を使って、ボールで点数を取り合う。
走る、飛ぶ、守る。
どれも昨日までより軽やかで、チームが圧勝した。
「リリ、どうしたの?」
「もしかして、今まで隠してて、これが本当の力なの?」
フルールや、他のクラスの子たちが駆け寄る。
「昨日、誕生日だったからかな?覚醒したのかも」
私は冗談交じりで、引きつり笑いをしながらそう言って胡麻化したが、これはきっと……。
そして、酪農の授業。
「今日はマタタキ牛の乳しぼりをします」
大きな目を持つ牛たちは、ぱちぱちと瞬きをし、そのたびに小さな光を散らす。
「静かにね。牛は繊細です」
順番を待っていると、一頭のマタタキ牛がこちらを見た。
「今日は人が多いな」
低く、穏やかな声。
私は、完全に固まった。
(……牛まで喋る)
星のような光がふわりと漂う。
「それ、食べてもいいのよ」
牛に言われるまま口に入れると、ほんのり甘かった。
「あなた、私の声が聞こえてるのね」
マタタキ牛は、満足そうに瞬きをした。
周りの生徒たちも真似をして、不思議なおやつに夢中になっている。
胸元の指輪が、じんわりと温かい。
(……これは、偶然じゃない)
力は確かに、目覚めている。
そして私はまだ、その意味も、行き先も知らない。
ただ一つ分かっているのは――
もう、昨日までの私には戻れないということだった。




