第14話 静かな村、守る約束
領主の家へ向かう馬車の中で、私は窓の外を眺めていた。
いつもと変わらない、のどかな村の景色。
けれど、胸の奥には、理由の分からないざわつきがあった。
「リリ、どうかした?」
向かいに座るフルールが、首を傾げた。
「え? ううん。何でもない」
そう答えながら、無意識に胸元へ手を伸ばす。
服の下で、ネックレスの鎖と指輪がひやりと触れた。
(……竜の国、なんて)
そんな言葉が、頭に浮かぶはずもない。
と、信じたいけれど……。
「ねえリリ。今度のお茶会、楽しみだね」
「うん」
私は笑った。
「研究員のマックスさんと護衛騎士さんが、さっき家に来たんだけど……何か話した?」
「ああ、行ったのか」
フルールは少し顔をしかめる。
「というか、あの人、研究員じゃなくて……研究所の責任者のはずだよ」
「え、偉いの?」
「すごく偉いと思う。
まあ、竜が出ることはほとんど無いから、それだけ重要ってことだろうね。
“竜に会えるまで帰らないつもりです!”って言ってたし」
(それは、困った……)
胸が冷たくなる。
もし、長居して。
もし、あの指輪を見られて。
もし、好奇心で“試して”でもされたら。
(終わる)
その晩、私はおばあちゃんと話した。
「マックスさん、研究所の所長だって」
「ああ、緑の目の人だんべ。隣国ファイマールの人かもしれんね。
確か、今の王妃がファイマールから来た人で、見たことがあるけど」
「ファイマールって回復魔法が得意なんだっけ……って、そうじゃなくて」
おばあちゃんは、真顔になった。
「また来るって言ったか。気ぃつけんとね」
私は息を吐いた。
研究対象になって、王都に連れていかれる。
檻みたいな場所に閉じ込められる。
一生、帰れない。
(嫌だ)
私はまだ十六歳だ。
魔法も、やっと色々試し始めたところ。
この村で畑をやって、学校も卒業して、
好きなだけ美味しいものを食べて、好きに暮らしたい。
(……森のボスになったみたいだし)
おばあちゃんが、私をぎゅっと抱きしめた。
「あたしが守る。
こう見えても昔は、大魔法使いとか言われたもんさ。大丈夫」
胸がじんと熱くなって、私は小さくうなずいた。
「……うん」
窓の外では、風が畑を撫でていく。
平穏は戻ったようで、
確かに、何かが新しく始まっている。
――こちらを向いた視線を、逸らせないまま。




