第12話 お詫びのお茶会の約束と、平穏の兆し
森の件はひとまず落ち着いた――はずだった。
領主が森へ兵を送ったことは止まり、畑への被害もぴたりと止んだ。
けれど、領主の家の方は、別の意味で荒れていたらしい。
週明けの朝。学校の廊下で、例の人が立ちはだかった。
しわの無い服、つやのある靴。
領主の息子は、いつも通り妙に整った姿で、落ち着かない笑顔を作っている。
「……フルールちゃん。少し、話がある」
フルールは足を止めず、横目でだけ彼を見る。
「何ですか」
「……父上に叱られた」
そこで彼は、咳払いをひとつ。
「勝手に別邸に女の子を呼んで、お茶会をしようとしたこと。
領主の倉庫に人を閉じ込めて、それを竜に壊されたこと。
評判が悪くなるようなことはするな、と……ひどく怒られた」
その言い方だと、怒られたのは評判の件で、やったこと自体は軽く見ているみたいに聞こえる。
私は黙って、フルールの隣に立った。
「……フルールちゃん。喜んでほしかっただけで悪気は無かった。謝る」
フルールは、きっぱりと言い返す。
「私より、リリがひどい目にあったんだから。リリに謝って」
彼は、私を見た。
そして次の瞬間、少しだけ眉を寄せた。
「……あ、リリちゃん、だっけ? ごめんね」
――名前、覚えてなかったのね。
こちらも別に覚えたくなかったから、お互い様なのだけど。
そう思った瞬間、変に冷静になってしまった。
「二人でお茶会やりたいと言ったから、お供が気を利かせてくれたみたいで。
閉じ込められたって……無事で良かった」
私は、できるだけ淡々と答えた。
「うん。村の神様にお願いしたら、偶然竜に助けてもらえたみたい」
彼は顔色を変えた。
「それは……二人は敵に回したくないね」
そして急に、話の方向を変える。
「父上に、何かお詫びの品を聞いて来いと言われたんだ。
フルールちゃんと……リリちゃん? 何が良い?」
フルールが、にっこりして私を見る。
「それなら、あのお茶会のお菓子。
まだ料理人の人がいるなら、リリも一緒に食べたいかな。ね、リリ」
私は少し考えて、うなずいた。
「私たちだけじゃなくて、村の同じくらいの歳の子たちも呼んでくれたら、みんな喜ぶかも」
「それは、きっとみんな“新しい領主と領主の息子さん、いい人”ってなるね!」
フルールが追い打ちをかける。
領主の息子は、分かりやすく目を輝かせた。
「そ、そうか。評判が良くなるか。料理人はまだいる!
父上に提案してみるよ!」
彼は、妙に機嫌よく去っていった。
私とフルールは顔を見合わせる。
「……これで平穏、戻るといいね」
「うん。ほんとにね」
その時は、私もそう思った。
――まさか、翌日に思わぬ来客が来るなんて。




