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竜国の姫は、田舎で静かに暮らしたい  作者: コフク
第一章 畑と竜と、戻れない日常

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第1話 誕生日、畑、そして姫への手紙

※短編「竜の国の姫らしいですが、田舎で好きに暮らしたい 」の書き直しです。第一章の後、続きも書きたいと思っております。

畑仕事は嫌いではない。

 土の匂いと、朝の空気に混じる青い香りに包まれていると、心が落ち着く。

ここは王都から遠く離れた小さな村で、私の一日は、いつも畑仕事から始まる。

竜なんて、物語の中にしか出てこないような、そんな場所――の、はずだった。


 私はリリ。今日で十六歳になる。

 背は同年代より少し低く、細身で、年より幼く見られることが多い。腰まである黒髪は、作業の邪魔にならないよう、いつも一本の三つ編みにしている。


朝から、風魔法で野菜の入った木箱を浮かせ、倉庫へ運んでいた。

 マルウリ、ダダニンジン、大トマト。どれも色つやが良く、今年は出来がいい。


 うちの畑は、正直言って異様だ。

 同じ作物、同じ季節、同じ水量。

 それでも、他の畑より一回り大きく、味も濃い。

(……おばあちゃんの土魔法、やっぱり普通じゃない)


 畑の端では、おばあちゃんが静かに土に手をかざしていた。

 鍬も使わず、ただ低く詠唱すると、土が淡く光る。

 地中の魔力が整えられ、栄養豊かになっていく。


 この国では農業の要の土魔法の得意な人が多い。

おばあちゃんの魔法はその中でも、桁違い。

 けれど、私は畑仕事にはあまり向かない火魔法、次いで風魔法が得意だ。

(あんなに教えてもらって訓練してるのに。

私、おばあちゃんの孫じゃないんだろうな……。

両親、この国の人かもあやしい。)

 そんなことを考えていると、家の方から声がかかった。

「リリ、倉庫が終わったら居間に来な。話があるんさ」

 声の主は、おばあちゃんだ。

 小柄で、白髪を後ろで小さくまとめている。背中は少し丸いけれど、動きには迷いがなく、長年魔法使いとして生きてきた人特有の落ち着きがある。

 居間に入ると、今日は窓辺には私の好きな花が飾られ、テーブルには野菜たっぷりのシチューと焼きたてのパン、ジュースまで並んでいる。

「うわあ、私の好きな物ばっかり。おばあちゃんのシチュー、おいしいから大好き。」

「忘れないように、今のうちに渡そうかね。十六歳のお誕生日、おめでとう。」

 そう言って、おばあちゃんは白い布に包んだものを差し出した。

 中にあったのは、中にあったのは、細かい、何か文字のような模様がぐるっと刻まれている金細工の指輪に、細い銀色の鎖をとおした、ネックレス。

指輪には赤い宝石がはめ込まれている。

 思わず、息をのむ。

「……きれい。高そうな……どうしたの?」

「あと、これ。」

と、どうしたのか答えないまま、おばあちゃんは封筒を差し出した。

 手を空けようと、取り敢えずネックレスを首にかけた。

 その瞬間、胸の奥を、熱がすっと走った感覚があり、力が増した気がした。

「……今、何かした?」

「何も。気のせいだいね」

封筒を受け取る。

 中には、短い手紙が一枚だけ入っていた。


――リリヴァ姫へ。

十六歳になったら、指輪を渡していただくようお願いしました。

困ったことがあれば、指輪をはめてください。

侍従兼護衛 ビュートゥじいより――


「……姫?」

 声が小さく漏れた。

 おばあちゃんは、少しだけ視線を落とした。

「その男――ビュートとは、元々手紙のやり取りをしてたんさ」


 昔、おばあちゃんは国外の戦に魔法使いとして呼ばれ、しばらく村を離れていたことがある。

 その時に出会ったのが、別の国から来ていた一人の騎士だった。

「妙に礼儀正しくてな。最初は、戦場での魔法の使い方を聞きに来ただけだったんだいね」

 それがいつの間にか、戦が終わったあとも手紙が届くようになった。

 国の様子、仕えている主の話、そして遠く離れた竜人の国――イシュルンのこと。

「ビュートはな、あたしを“師匠”って呼んでたんさ。年は向こうの方が上だったのに、不思議な男だった」

 けれど、ある時を境に手紙は途絶えた。

 最後に届いた返事は、途中で戻ってきてしまったという。

「それからしばらくして、赤ん坊のあんたを抱いて、突然訪ねてきたんさ」

 長旅で疲れ切った様子だったという。

 白髪交じりの髪、古い騎士の外套、剣を帯びながらも、抜く気配はなかった。

「国が、もう保たねぇって言ってな……。あんたを守れなくなるって」

 国の名はイシュルン。

 竜人の国と呼ばれていたが、すでに滅びの只中にあったらしい。

「いつか迎えに来られるかは分からねぇ。

ただ、十六歳になったら、この指輪と手紙を渡してくれって、そう頼まれた」

 その日の話は、そこで終わった。

 シチューはいつも通り美味しく、窓の外では畑が静かに風に揺れていた。

 ――まだ、この時は思っていなかった。

 この指輪が、

 私の暮らしを、そして運命を、大きく動かすことになるなんて。


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