【4】『大切なとき』 ー 止まっていた時間シリーズ ー
静かにむかえた今日の結婚式。
そして、静かに始まる披露宴。
私は、今日の披露宴のためにいくつかの選択をした。
きっと、私にしかできない選択。
結婚式で私は、バージンロードを父と歩くことは、叶わない。
それでというわけではないけれど、『人前式』という形式にした。
神様や仏様に誓うのではなく、参列してくれた人々に対して、
二人で結婚の誓いをする、という形式。
この形式だと、バージンロードは新郎新婦が腕を組んで登場する、
という流れになる。
式に参列している人々は、限られた人しか、私の家族の事情を知らない。
そして、今日、父がこの結婚式に出席していることも。
きっと、誰であっても事情を話せば理解してもらえたと思う。
でも、私は母を尊重したい気持ちを優先した。
母は、結婚式の準備について、何も言わなかった。
父のことを話した時も、
「呼びたい人を、呼んだらいいんじゃない。」
それだけだった。
式が無事に終わり、スタッフの人が声をかけてくる。
「お疲れ様でした。素敵な誓いの言葉でしたね。少し休憩した後、
お色直しをしましょう。」
「はい。ありがとうございます。」
「それと、披露宴の入場される時なんですが、
新郎様はお祖父様と、新婦様はお父様とご入場されるということで、
ご紹介するときはどのように致しましょうか?」
「あぁ。じゃあ、新郎はそのままお祖父様で、
私は……親しくしている、親戚。ということにしてください。」
私には、今、これ以上の答えは見つけられない。
「ふぅ……。」
深呼吸をするように、息を整える。
「かしこまりました。何も、不自然なことはございません。
素敵な披露宴になりますね。」
「はい、ありがとうございます。」
気遣ってくれるスタッフに、精一杯の笑顔で返す。
私は、披露宴用のドレスに着替えて、軽いメイク直しと、
髪型のセットをしてもらう。
「いいお式でしたね。私、泣いちゃいそうでしたよ。」
ヘアメイクを担当してくれている女性が、声をかけてくれる。
「はは、ありがとうございます。」
「あの誓いの言葉を聞いている時、あれは、お父様じゃないかなぁ。
新婦様に似てたから。泣いちゃってましたね。」
言われた瞬間、目に溜まりそうになる感覚を、必死に鎮めた。
「……そう、なんですね。あまり、親に対してという感じじゃなかったので、
印象が良くなかったらって心配だったんですけど。」
「いやいや、嫌な印象なんて全然なかったですよ。
とても、心がこもっていました。」
「よかったです。」
メイクとヘアセットが終わり、披露宴会場の入り口に向かう。
そこには、驚いた様子で私を見つめる、父がいた。
「びっくりしたよぉ。なんだよぉ。」
「よろしくね。パパ。」
父の顔を覗き込むと、少し目は赤い。
口を強く瞑って、じっと私の顔を見つめていた。
そして、私が前に向き直った時、披露宴会場の扉が開いた。
その瞬間、たくさん飾られていた風船が1つ音を立てて割れた。
まるで、今から動き出す、合図のように。
たくさんの人の笑顔と、煌びやかな照明の灯り。
まだ、日も落ちていない。
扉の中に足を踏み入れると、あたたかい拍手に包まれたような感覚。
たとえ、正解ではなかったとしても、この景色が答えだと、心から思える。
この幸せな時を、感じたい。
一緒に。
〜 エピローグ 〜
式を終え、披露宴の準備のため、控え室に移動する時のこと。
父に呼び止められる。
「才華、いい式だったな。」
「ありがと。」
「1枚だけ、大地くんと3人で写真撮らせてくれ。スマホだから、すぐすぐ。」
「え、写真渡せるよ。ちゃんと撮ってもらおうよ。」
「いいから、1枚だけ。」
「うん、わかった。」
「すいません、お忙しいのに、3人で写ってる写真撮りたいので、
お願いしてもよろしいですか?」
父がスタッフに、笑顔で声をかけた。
スタッフがスマホを受け取って、笑顔で頷く。
「行きまーす。はいっ、ちーずっ」
パシャッ
写真を撮り終えると、父が私たちに近づいて、優しい顔で言った。
「大地くん、才華、二人ともおめでとう。
パパはさぁ、もう本当に、最高だぁ。」
父は、頬に伝う涙をそのままにして、笑っていた。
——ありがとう。私も、最高だよ。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。




