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『止まっていた時間』シリーズ

【4】『大切なとき』 ー 止まっていた時間シリーズ ー

作者:
掲載日:2025/12/16

静かにむかえた今日の結婚式。


そして、静かに始まる披露宴。


私は、今日の披露宴のためにいくつかの選択をした。


きっと、私にしかできない選択。


結婚式で私は、バージンロードを父と歩くことは、叶わない。


それでというわけではないけれど、『人前式』という形式にした。


神様や仏様に誓うのではなく、参列してくれた人々に対して、

二人で結婚の誓いをする、という形式。


この形式だと、バージンロードは新郎新婦が腕を組んで登場する、

という流れになる。


式に参列している人々は、限られた人しか、私の家族の事情を知らない。


そして、今日、父がこの結婚式に出席していることも。


きっと、誰であっても事情を話せば理解してもらえたと思う。

でも、私は母を尊重したい気持ちを優先した。


母は、結婚式の準備について、何も言わなかった。

父のことを話した時も、


「呼びたい人を、呼んだらいいんじゃない。」


それだけだった。


式が無事に終わり、スタッフの人が声をかけてくる。


「お疲れ様でした。素敵な誓いの言葉でしたね。少し休憩した後、

お色直しをしましょう。」


「はい。ありがとうございます。」


「それと、披露宴の入場される時なんですが、

新郎様はお祖父様と、新婦様はお父様とご入場されるということで、

ご紹介するときはどのように致しましょうか?」


「あぁ。じゃあ、新郎はそのままお祖父様で、

私は……親しくしている、親戚。ということにしてください。」


私には、今、これ以上の答えは見つけられない。


「ふぅ……。」


深呼吸をするように、息を整える。


「かしこまりました。何も、不自然なことはございません。

素敵な披露宴になりますね。」


「はい、ありがとうございます。」


気遣ってくれるスタッフに、精一杯の笑顔で返す。


私は、披露宴用のドレスに着替えて、軽いメイク直しと、

髪型のセットをしてもらう。


「いいお式でしたね。私、泣いちゃいそうでしたよ。」


ヘアメイクを担当してくれている女性が、声をかけてくれる。


「はは、ありがとうございます。」


「あの誓いの言葉を聞いている時、あれは、お父様じゃないかなぁ。

新婦様に似てたから。泣いちゃってましたね。」


言われた瞬間、目に溜まりそうになる感覚を、必死に鎮めた。


「……そう、なんですね。あまり、親に対してという感じじゃなかったので、

印象が良くなかったらって心配だったんですけど。」


「いやいや、嫌な印象なんて全然なかったですよ。

とても、心がこもっていました。」


「よかったです。」


メイクとヘアセットが終わり、披露宴会場の入り口に向かう。


そこには、驚いた様子で私を見つめる、父がいた。


「びっくりしたよぉ。なんだよぉ。」


「よろしくね。パパ。」


父の顔を覗き込むと、少し目は赤い。


口を強く瞑って、じっと私の顔を見つめていた。


そして、私が前に向き直った時、披露宴会場の扉が開いた。


その瞬間、たくさん飾られていた風船が1つ音を立てて割れた。


まるで、今から動き出す、合図のように。


たくさんの人の笑顔と、煌びやかな照明の灯り。


まだ、日も落ちていない。


扉の中に足を踏み入れると、あたたかい拍手に包まれたような感覚。


たとえ、正解ではなかったとしても、この景色が答えだと、心から思える。


この幸せな時を、感じたい。


一緒に。




〜 エピローグ 〜


式を終え、披露宴の準備のため、控え室に移動する時のこと。


父に呼び止められる。


「才華、いい式だったな。」


「ありがと。」


「1枚だけ、大地くんと3人で写真撮らせてくれ。スマホだから、すぐすぐ。」


「え、写真渡せるよ。ちゃんと撮ってもらおうよ。」


「いいから、1枚だけ。」


「うん、わかった。」


「すいません、お忙しいのに、3人で写ってる写真撮りたいので、

お願いしてもよろしいですか?」


父がスタッフに、笑顔で声をかけた。


スタッフがスマホを受け取って、笑顔で頷く。


「行きまーす。はいっ、ちーずっ」


パシャッ


写真を撮り終えると、父が私たちに近づいて、優しい顔で言った。


「大地くん、才華、二人ともおめでとう。


パパはさぁ、もう本当に、最高だぁ。」


父は、頬に伝う涙をそのままにして、笑っていた。


——ありがとう。私も、最高だよ。









最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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