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終末の刻限  作者: はゆめる
第一章
6/13

二日目 英傑召集

森の聖都に夜の帳が降りる頃、ユーメリナは昼の治癒師としての務めを終え、ようやく祈りの間に向かおうとしていた。その瞬間だった。


空気が震えた。


柔らかな青白い魔力が彼女を包み、やがて消えた。王都からの招集の知らせ。王国の歴史で一度も行使されたことのない魔法だった。


「……応えなければ」


エルフは契約を違えない。古き掟であり、彼女自身の誇りでもある。急いで装束を整え、聖都の転移陣へと向かった。


淡い光に包まれ、次の瞬間には王都の私室に立っていた。胸に不安が芽生える。導かれるまま謁見の間へと向かう。


謁見の間に入ると、息を呑んだ。そこには誰もが名前を知る英傑たちが集っていた。


聖騎士ロンジヌスが純白の鎧で直立している。女王直属の親衛聖騎士として名高く、その佇まいだけで正義の威厳が漂っていた。剣聖アスモダイは片腕に愛剣を抱き、鋭い眼差しを向けている。冒険者から傭兵まで経験した、戦場を知り尽くした男だった。


仮面の魔法剣士ニョルドは無言で佇んでいる。仮面の下に何を隠しているのか、謎めいた存在だった。ドワーフ王ヴェルンドが豪快に笑う。その笑い声にも、歴戦の王者としての貫禄があった。


「聖女殿も召されたか。ご苦労なことだ」


ヴェルンドの声に、ユーメリナは微笑んで答えた。


「エルフは契約を違えません」


北の大賢者トートは深い知識を宿した瞳で静観し、大司教カサンドラは王都教会の聖職者として神聖な祈りの気配を纏っている。


集った七人が、王国最強の切り札だった。




扉が開き、女王が現れた。


その歩みは静かだが鋭く、魔力を帯びている。ただの統治者ではない。剣にも魔法にも精通した武人であると聞く。


「皆、夜分に集まってくれてありがとう」


女王の声が響く。


「昨日の大地震と共に未知の地下迷宮が出現し、魔物の群れが王都を襲撃した。学匠院の調査で、二百年前に絶滅したはずの『アーク種』と判明している」


謁見の間に緊張が走る。


「そして先ほど、調査のため派遣した先遣隊六十名が予定時刻になっても帰還しないことが判明した。魔法による連絡も途絶えている」


英傑たちの表情が変わった。


「事態は想像を超えている。だからこそ、契約に基づき皆を集めた」


女王の視線が皆を見渡す。


「頼みたいのは、この迷宮の調査だ。先遣隊に何が起きたのか、迷宮の正体を突き止めてほしい。これは王国だけでなく、世界に関わる危機になる可能性がある」


重い沈黙が落ちる。女王の直感が告げていた──これは単なる魔物の襲撃ではない。


「要するに迷宮探索というわけか」


沈黙を破ったのはヴェルンドだった。豪快に笑い、拳を鳴らす。


「久しく冒険者じみた真似はしておらん。だが腕が鳴るわい」


その楽観に、胸の奥で違和感を覚える。しかし、使命は明らかだった。


「聖女ユーメリナ」


女王の視線が向けられる。


「あなたの治癒術は不可欠です。力を貸していただけませんか」


静かにうなずく。


「古き盟約に従い、必ず果たします」


他の英傑たちも承諾の意を示した。聖騎士ロンジヌスは膝をつき、剣聖アスモダイは無言で剣に手を置く。




謁見が終わり、それぞれが散っていく。ユーメリナは一人、城の回廊を歩いていた。


窓の外の王都には、昼間の戦いの傷跡が残っている。松明の明かりが修繕作業を照らしていた。その光景が妙に儚く見える。


先遣隊六十名が行方不明──その事実がまだ実感として湧かない。しかし、契約召喚という前例のない手段が事態の深刻さを物語っている。


治癒の力を持つ身だが、果たして仲間たちを守り抜けるだろうか


夜が更けていく。王都に響く修繕の槌音が、迫りくる運命を刻んでいるようだった。そして、遠く森の向こうに見える黒い影──突如現れた迷宮が、不気味にそびえ立っている。

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