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ある日のハンニバル・修正点が二つあります。ご確認下さると幸いです。

お世話になっております。作者です。

病状報告です。


腰の痛みは大分引いたのですが、左足に原因不明の痺れがあり、検査の為現在入院中です。


本来ならば連載休止といきたいのですが、せっかく来て下さる皆様を手ぶらで返す事はしたくはありません。


故に、ベッドの上でスマホを使い、即席で書いた物語をあげます。ハンニバルが大将軍に就任したての頃の話です。


即興で書いたので色々不備があるとは思いますが、楽しんで頂けたら幸いです。


何とか来週までには回復させ、連載を再開させたいと思ったおります。


以上です。


いつも拙作をお読み下さり本当にありがとうございます。皆様のご存在が、どれ程僕の救いになっているか、ここに表現出来ないのが残念でなりません。


今後も皆様の為に頑張りますので、末永いお付き合いをどうぞ宜しくお願い申し上げます。


追伸:皆様、中腰には本当に気を付けて!ぎっくり腰はマジで辛いですよ!

カルタゴの首都 イーマリンド(作者注:首都の名前が不明なので適当につけました)早朝。


軍事府へと続く通りを、千鳥足で行くハンニバル。時折道の端でヘドを吐き、道行く通行人に介抱されている。

「おいおい大丈夫かよハンちゃん、まだ若いからって飲み過ぎちゃいけねぇよな」

土木作業員服がよく似合う初老の男が、前屈みになるハンニバルの背をさすりながら言う。

「す、すまねぇなカークのおっさん」

ゲェゲェと吐く合間で、ハンニバルが何とか礼を言う。

「で、どうしたんだ?失恋でもしたか?」

カークがニヤニヤ笑いながら言う。

「バーロイ。俺をふる女がこの世にいるわきゃねーだろ」

そう言いながらハンニバルは、口元を手の甲で拭いながら身を起こす。

「助かったぜ、ありがとよ。今度また飲みに行こうぜ」

「あんたの驕りだろうな?」

どこかからかう様なカークの口調に、ハンニバルがしれっと嘯く。

「バカ言ってんじゃねーよ!苦労や悲しみを分かち合ってこそのダチだろうが」

「一国の大将軍が平民と割り勘かよ。大丈夫かこの国は」

呆れた様に首を降るカークを前に、ゲラゲラ笑うハンニバル。そんな二人に、通りを行く人々が温かな眼差しを向ける。カークと別れ、何とか軍事府に到着したハンニバルを待ち受けていたものは、ちょっとした騒動だった。正門の前で、一人の老婆が守衛二人に何やら噛みついている。

「よぉ、婆さん、どーしたんだ?税金に関する文句なら他所行ってくんな」

「こ、これは大将軍!ご苦労様です!」

敬礼する二人の守衛をよそに、ハンニバルか老婆に気さくに声をかける。小柄ながら引き締まった体つき。背筋などそこいらの若者よりシャンとしている。油断なく光るその目付きから推測するに、おそらく商売人の類だろう。料理人だろうか?それにしては身に付けているエプロンは綺麗だな。そんな事を考えるハンニバルをよそに、老婆がその身を守衛からハンニバルへと向け、喰らいつく。

「誰かと思えばハンニバルじゃないか!丁度良かった!あたしゃリーサ。この街でもう五十年以上指輪屋を営んでいる。大変なんだ!ちょっと聞いとくれよ!」

老婆の言い分を要約するとこうだ。最近どの店でも万引きの被害が酷い。どうも数人で計画的に行われている様だ。商業府や警備府に訴えても「自分達で何とかしろ」と相手にしてくれない。何とか軍隊の力で万引き犯を取り締まってほしい・・・・・・。

話を聞き終えたハンニバルは、呆れた様に首を降る。

「おいおい婆さん、気持ちは分かるがそりゃお門違いってもんさ」

「どのお門が違うのさ!悪い奴等をやつけるのがあんたらの仕事じゃないのかい!」

唾を撒き散らしながら喚く老婆に辟易しながらも、何とか老婆を宥めるハンニバル。いつの間にか二人の周りに人だかりが出来ている。

「婆さん、俺等の仕事は他所の国の奴等と戦う事だ。こそ泥をとっ捕まえるのは俺等の仕事じゃねえ」

「あたしらの税金で飯食ってる奴等があたしらの役に立たんでどーすんのさ!こそ泥やっつけられなくて、どうして他所の国とやらに勝てるってんだい?!」

老婆の超理論に形勢不利と判断してか、ハンニバルが華麗に撤退をはかる。

「ば、婆さん、俺急いでんだわ。後はこいつ等と話してくれや。んじゃあな」

「そ、そんな大将軍!」

縋り付いてくる守衛二人をよそに、しゅたっ、と手を上げて建物の中に避難するハンニバル。その背中を、老婆の粘ついた声が追う。

「残念だねぇ、あのハンニバルがこの程度の男だなんて。これを聞いたらあの娘達はどんなに悲しむか」

ピタリ、とハンニバルの足が止まった。

それを見た老婆の目に、狡猾な光が浮かぶ。彼女はこれ見よがしに声を高め、さらなる追撃を行う。

「うちのお客さんの若い娘達にさぁ、今日軍事府に行ってハンニバル大将軍に会って来るって言ったら皆キャーキャーもう大騒ぎでさ。サイン貰って来てくれだの、手紙届けてくれだのもう凄いのさ」

ハンニバルが静かに振り返った。


今日一番、引き締まった顔で。


そんな彼の視界の中で、老婆は悲嘆にくれたフリをしている。

「そんなあの娘達にあたしゃ言わなきゃいけない。「ハンニバルは器の小さい、しょーもない男だったよ」」

「婆さん!」

ハンニバルがつかつかと疾風の如き足取りで、もといた位置に戻る!そのあまりの変わり身の速さに、守衛達二人は勿論、周りの見物人達までもが口をポカンと開けている。そんな彼等の反応などお構いなしに、ハンニバルが老婆の両肩をガシリと掴む。

「その娘達の中に、マーゴットちゃんはいるのか!」

「はて?マーゴット?誰だっけかねぇ。あたしも年でねぇ。忘れっぽくてさ」

わざとらしくすっとぼける老婆に、ハンニバルが熱い口調で語りかける。

「マーゴット・タラス!(作者注:しつこい様ですが、こんな人いません。作者の想像です)カルタゴ国美人投票三連覇の国一番の美女だ!」

がぶりよってくるハンニバルの顔の前で、老婆がパンと手を鳴らす。

「ああ、ああ、そうそう思い出したよ!いたいた。よく来るよ、マーゴットちゃん。「ハンニバルさんってどんな人なのかしら」って興味津々の様だったねぇ」

「婆さん、済まなかったな」

ハンニバルがキザに髪をかきあげる。

「何がだい?仕事があるんだろう?早くお行きよ」

虫でも追い払うかの様に手を降る老婆に、ハンニバルが言う。

「婆さん、これは芝居だ」

「へー」

「こいつ等が民に冷たくする俺をちゃん諌める事が出来るか、心を鬼にして試していたのさ」

そう言って情けなさそうな目付きで守衛達を見るハンニバル。そんな彼に、二人は当然抗議の声をあげる。

「そ、そんな大将軍!」

辺りに漂う白けた空気の中で、喚く守衛を一睨みで封じたハンニバルが、いけしゃあしゃあと続ける。

「軍は民を救う為にある!一人の民を救わずして何の軍隊か!任せろ、俺が責任を持って、この国からそのこそ泥共を殲滅してやる!」


「突然の呼び出しで何かと思えば、まさかこんな事の為とは」

「まぁ、そう言うなマハルベル。こんな事頼めんのはお前しかいねぇんだわ」

三日後の昼、盛況な指輪屋の前でぼやくマハルベルを前に、ハンニバルがややバツの悪そうな顔で言う。腹心の部下は、まだ自分の半分も生きていない若い上司をジロリと見やって言った。

「民を思いやり行動に移すのは素晴らしい事です。だが、己の職分を放棄するのは感心しませんな」

仕事ほっぽらかしてなにやってんだ?との一言を、上品に言い換えるマハルベルにハンニバルは言葉もない。事の顛末を知ったらどんな顔をされるのだろうか、などと考えながらハンニバルは強引に物事を進めにかかる。

「まぁ、もうここまで来ちまった以上しょうがねぇだろ。何事も途中で投げ出すのは良くねぇ。ぱっと終わらせてさっさと帰ろうや」

一方的に始めた貴方が言う事ではない、と口の中で呟き、マハルベルは諦めのため息をつく。ハンニバルはそれに気付かないフリをして、早速指輪屋の全景を見渡す。人を百人程並べられる部屋の中に、小洒落た指輪で彩られた棚が幾重にも配置されている。目を鋭くして人混みと店内を観察するハンニバル。そこに人混みでごった返す店内から、先日の老婆が飛び出してきた。

「遅い!」

「無茶言うなや婆さん、俺にだって都合っつーもんがあってだな」

もう慣れたのか、手慣れた様子で老婆を宥めるハンニバルに、老婆が声を高めてまくし立てる。

「しかもなにさ!なんでそれっぽっちしかいないのさ!もっと兵隊連れて来ないと軍隊に頼んだ意味がないじゃないか!」

老婆がマハルベルと、その後ろに控える五人の兵隊に怒りの視線を向ける。そんな老婆に、ハンニバルは事もなげに言った。

「婆さん、心配すんな」

「何をさ!」

「もう解決した」

「はぁっ?!」

面食らった表情の老婆の横を通り過ぎ、店内に入るハンニバル。(※作者注:以下、一つ目の修正点です)

彼はそのまま入口付近で店内を見渡している男に近づき、その右腕を捻り上げた。(※作者注:一つ目の修正点はここまでです)

「いたたたたたたた!な、なんですか!」

目立たない地味な装いの太った男が、涙目でハンニバルに抗議する。それを完全に無視し、ハンニバルは彼をマハルベルに蹴り渡す。

「そいつ拘束しとけ。多分頭だ」

次の瞬間、店から二人の男達が走り出る。

「追え!逃がすな!」

ハンニバルの号令のもと、二人の兵士がそれぞれ逃げた男達を追った。


「手間かけさせんじゃねぇよ」

お縄になった三人を前に、ハンニバルが欠伸をしてから、マハルベルに目で合図する。一つ頷いた彼は、子分らしき男の衣服を改める。内側のポケットから数個の指輪が出て来た。

「婆さん、こいつ会計したか」

「してないよ!」

目を怒らせた老婆が、子分の顔面を蹴っ飛ばす。鼻血を撒き散らし、悲鳴を上げる男をよそに、老婆は他の二人にも同様の制裁をかます。歓声を上げる野次馬達をよそに、老婆が腰に手を当てて高らかに宣言する。

「さぁ、今まで盗んだ指輪の代金を全額払うんだよ!それが出来なければうちの店で一生タダ働きだ!」

そう言って太った男を足蹴にする老婆をよそに、ハンニバルは踵を返し軍事府へと向かう。それを追うマハルベルと兵士達。

「宜しいので?司直府に引き渡さなくとも」

マハルベルの言葉に、ハンニバルが獣の様な笑みを浮かべる。

「司直府に引き渡すなんて、あのこそ泥を助けてやる様なもんだろうが。奴等にはあの婆さんの地獄の責め苦が丁度いい」

「確かに」

マハルベルがうっすらとした笑みと共に同意する。暫く無言で道を行く一団。そんな彼等に、道行く人々が気さくに声をかける。

「ハンちゃん、仕事さぼんなよ」

「ハンちゃん、飲み屋のツケ早く払ってくれよ」

「ハンちゃん、いい猪が取れたんだ。明日届けるぜ。軍事府の方でいいか?」

かけられた声にユーモアを混じえつつ、丁寧に応えるハンニバル。それが一段落したのを見計らって、マハルベルが言った。

「大将軍」

「なんだ」

「お伺いしても宜しいですか?」

「何をだ?」

「何故見ただけで万引き犯が分かったのですか?」

「なんだ、そんな事か」

軽く鼻を鳴らしたハンニバルが、興味のない玩具を見る子供の様な目で言う。

「お前店に行ったら何を見る?」

「商品です・・・・・・あっ!」

そこまで言ったマハルベルの頭に電流が走る。そんな彼をよそに、ハンニバルの種明かしは続く。

「万引きする奴等が最も気を付けるのは、周りの人間の目だ。だからその目は自然と商品よりも周りの人間に目が行く。だから俺は探したのさ。商品よりも周りの人間に目をやっている奴等を」

(※作者注:以下、二つ目の修正点です。)

「何故今日のこの時間に犯人が来ると分かったのですか?」

どこか楽しそうな表情で問を重ねるマハルベルに、ハンニバルは応える。

「今日は年一回のお祭りの日だ。店側もとっておきの品を並べて売上を伸ばしにかかる。こそ泥としては是非とも頂きたい獲物だろう。それらをくすねるにはいつお邪魔すればいいか?考えるまでもないだろうが」

「なるほど。確かに客に買われる前に抑えるには開店直後しかない。おみそれしました」(作者注:二つ目の修正点はここまでです)

軽く頭を下げるマハルベルに、照れ隠しの為かハンニバルがそっぽを向く。そんな彼等の前に、まるで闘牛の様に突進してくる一人の男。

「大将軍!マハルベル将軍!」

「おう、ギスコか!どうした!」

助かった、と言った体で部下に応えるハンニバルだったが、血相を変えている部下を見て瞬時に表情を引き締める。

「ユカント地方(作者注:これも架空の地名です。僕が勝手に付けました)で鉱夫達が暴動を起こしたそうです。今現地軍が対応していますが数が多く、手に負えないとの事。現地領主サハマカナ卿より救援要請が入っております」

「内政巧者サハマナカ卿(作者注:これも架空の人物です。カルタゴにこんな人はいません)でも無理でしたか。まぁ、彼処は併合したばかりの土地ですからな。民が中々服さないのはやむを得ないでしょう」

ギスコの報告を受けてマハルベルが呟く。そんな彼等を前に、ハンニバルが言った。

「よっしゃ、今から行くか」

「兵は如何ほど連れて行かれますか?」

ギスコの問に、ハンニバルがあっさりと応える。

「いらん」

「あ、あの、大将軍もう一度」

「兵はいらん。ギスコ、お前ちょっくら付き合え」

「ちょちょちょ、だ、大将軍」

狼狽するギスコの言葉を引き継ぐ様に、マハルベルが言う。

「大将軍、暴徒の群れにお一人で対応されるのは賢明とは申しませぬ。何卒兵をお連れ下さい」

「兵なんか連れて行ったらかえって刺激しちまうだろうが。あの地方の奴等は義理人情に厚い。一人で死地に乗り込んできた奴を、嬲り殺しにする事はまずしねぇから安心しな」

ハンニバルの器量に度肝を抜かれたのか、ポカンとする二人に、彼等の大将軍は目を輝かせて言った。

「さぁ、また新たな祭りの始まりだ!おめぇら、しっかりとついてこいよ!」


幸せな人生だと、マハルベルは先行く上司の背を見つつ思う。非才の身ながら要職を賜り、それを何とか納め武将として過分な名声も得た。それだけでも満足するべきなのに、さらにこの不世出の天才を側で見れると言う望外な幸運にまで恵まれた。

(我が生涯に一片の悔いもない)

言いようの無い満足感に浸るマハルベルの前髪を、夏風がそっと揺らす。


空が高い。夏も終わりだ。












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