第三幕
いやぁ、やられましたよ(。-∀-)
ウィザードリィ バリアンツ ダフネ
第三の奈落 グアルダ要塞 第七区の中ボス
『私達の栄華』
こいつ大ボスの大異形より強いんじゃないか?
これ程見事な壊滅喰らったのは、ダイヤモンドドレイク(未だに世界中で討伐報告がない。誰かこいつの倒し方を教えてくれ)以来だ。
こちらがやって欲しくない事を徹底的にやってくる、まるでゴミカス自民党の様な敵。
「この敵パイロット、射撃はまるで素人だが、ファンネルは嫌なところを突いてくるな」
この台詞を口にしている時のアムロ・レイの気持ちがよく分かった。
範馬勇次郎並みの攻撃力と、ビルバイン並みの回避力を持つ我がパーティーが手も足も出なかった。
やってくれるな、ドリコムさん。
今宵は対策動画を見て、必ず倍返す!
ウィザードリィ バリアンツ ダフネ
とても面白いです。皆様も是非やってみてください(*^-^*)
「殿、ここにおられましたか」
小高い丘の上で、馬上より戦場を見下ろす一人の男に、初老の男が馬で駆けよった。彼はそのまま男に馬を寄せ、展開しているローマ、カルタゴ両軍を並んで見下ろす。
ローマ軍七万六千(内訳:騎兵六千、歩兵七万)、カルタゴ軍四万二千(内訳:騎兵一万、歩兵三万二千)がこの幅二キロ、奥行き一.五キロの狭い平原、プーリア地方カンナエで睨み合っている。因みに既述だが、両軍の総数はローマ軍が八万六千、カルタゴ軍が五万である。総数と戦場での兵力との間に差異があるのは、両軍とも野営地に予備兵力を残しているからである。風が三回程、二人の頬を撫でた時、男が口を開いた。
「ウァロ殿は随分と張り切っておられるようだな。どうあっても今日戦をしたいらしい」
そう言ってため息をつく男。彼の名はルキウス・アエミリウス・パウルス。名門パトリキ(貴族)のアエミリウス氏族出身であり、ローマ軍八万六千を率いる二人の執政官の内の一人だ。
ここで執政官という役職について軽く触れておく。
執政官とは共和政ローマにおける最高職である。定員は二名。平時は内政の最高責任者として政務を執り、戦時は軍団を組織すると共に、軍団の最高指揮官として軍務を掌握する。戦場においては直接指揮を執った。(つまり、軍政と軍令の責任者と同時に現場指揮官でもある)共和制ローマの元首と考えて貰えればいい。因みに戦場において執政官が二人いる時は、一日交替で指揮を執る。
話を戻す。
パウルスについて、武将にしてはやや華奢な体格だが、その全身からにじみ出る凛とした佇まいは、一軍の将に相応しいと言えた。貴族出身でありながら、お高くとまったところがなく、同僚は勿論平民や奴隷にまで優しい心遣いを見せる人格者だ。貧民や親のいない子、身寄りのない老人等社会的弱者の救済活動に熱心で、家財を投げうってまで弱者を救おうとするその姿に、つけられた二つ名が『ローマの救世主』
その高潔な魂に相応しい高い能力の持ち主であり、特に軍事においてそれは顕著で、先だって行われた第二次イリュリア戦争(紀元前229年から紀元前168年の間に三度に亘って行われた共和制ローマとイリュリア人(アルディア氏族)との戦い)において、軍船を率いて敵を打ち破り、アドリア海沿岸の要塞都市ディマラムやパロスを襲い陥落させるという軍功を立てて歴史にその名を刻んでいる。マキシムスという名将を失ったローマ軍の最後の切り札であり、その能力と人柄から軍内部でも彼の崇拝者は多い。本人は迷惑がっているのだが。
先程から陣内で鳴り響いているラッパの音が、軍議の開催を告げている。
「そのようですな」
けたたましい音に軽く眉をひそめて、初老の男も同意する。因みに彼の名はファルカス・アエミリウス。幼少期よりパウルスおよびアエミリウス家に仕える歴戦の武人だ。平民出身であるが、元を辿ればアエミリウス家の人間である。パウルスとは言わば遠縁の間柄であり、その縁から幼少期にパウルスの遊び相手としてアエミリウス家に引き取られ、それ以来ずっと陰に日向にパウルスを支え続けている。パウルスと違い戦略家ではないため、大局を見据えた判断などは苦手だが、戦術家としては有能であり、現場での兵の指揮や、平時におけるアエミリウス家の軍務等は、パウルスに代わり、この男がその全てを取り仕切っている。
ずんぐりむっくりした体躯に岩の様ないかつい表情、顔を含め、体中至るところに刻まれた矢傷や刀傷、短いが丸太の様に太い腕と足。貴公子然としたパウルスとは正反対の、無骨者に相応しい迫力のある容貌だ。
「ファルカス」
「はっ!」
「カルタゴ軍の陣形をどう見る?」
パウルスが問う。目を細めて敵軍の様子を子細に観察するファルカス。
ここでこの時代の戦について、若干の解説をお許し願いたい。
この時代の戦争、基本的には歩兵と騎兵で行われる。他の兵科もなくはないが、このカンナエの戦いにおいては重要ではないので説明は割愛する。
先ず歩兵について。正式名称は重装歩兵。その名の通り重武装で戦う。彼らはてんでバラバラで戦う訳ではなく、八人×八人の六十四人を一塊とした部隊単位で戦う。これが有名な『ファランクス部隊』である。この部隊の戦法は単純明快、隊列を組んだ『前進圧力』で敵の隊列を破壊する、ただそれだけである。
敵の隊列を乱す事でその戦闘力を大幅に低下させ、そのまま敵軍を縦に貫き、敵全軍を崩壊させる。
この様に重装歩兵は強力ではあるが、明確かつ大きな弱点が存在している。それは『正面以外の方向全て』
隊列を組んで密集しているため、正面には強いが側面や後方には弱い。敵に合わせて方向転換すればよいのでは? と思われるかもしれないが、それが中々難しい。何故なら密集した重装歩兵の方向転換は非常に時間と手間がかかるからだ。
解説すると、兵隊達は全員長い槍を持っている。これを構えたまま横を向くとどうなるのか? 槍で横の人を殴ってしまう事になる。これを防ぐ為には構えたまま槍を元に戻す必要がある。
『構えた槍を元に戻して』
『全員で一斉に同じタイミングで同じ方向を向き直す』
想像以上に緻密さを要求される部隊行動であり、誰かが間違えばそれだけで隊列が崩れる可能性があるため、とても戦闘中に行える行為ではない。重装歩兵が、側面や後方に回った敵に対応するのは極めて困難である事がお分かり頂けただろうか?
重装歩兵同士の戦闘は正面からの殴り合いになるが、もしその真っ最中に、別の兵科、十分な機動力を持ち、更に突進力にも優れた部隊に側面や後方を突かれたらどうなるだろうか? 練度の低い軍なら、それだけでパニックになり崩壊しかねない。重装備の歩兵部隊は防御力が高く、斬撃、打撃で破壊する事は難しい。重装歩兵を正面から破るのは不可能に近いが、側面や後方からなら十分なダメージを与える事が可能なのだ。
十分な機動力をもって戦場を駆け回り、重装歩兵の弱点を狙い撃ちにする。これを実行出来る兵科が一つ存在する。そう、騎兵だ。重装歩兵にとって、騎兵は当に天敵なのだ。故に、この時代の軍隊はどこも、騎兵を重装歩兵の側面に配置させて、その機動力でもって重装歩兵の側面や後方を守り、時には攻撃も行う。歩兵と騎兵を一体として運用する事で敵に圧力をかけ、大打撃を与えるか、もしくは大打撃を与えずとも士気を崩壊させて敵部隊を潰走せしめる・・・・・・、以上がこの時代の戦である。まとめてやられないよう軍を小部隊に分け、それらを機能的に運用していく近代戦法が登場するのは、大量殺人兵器である銃器や大砲、戦車や航空機の登場を待たねばならない。
話を戻す。
「奇妙な陣形ですな。中央に歩兵部隊、その両側に騎兵部隊という配置はいいのですが」
一旦咳払いをし、続けるファルカス。
「両翼の騎兵部隊のバランスが悪すぎる。左翼が右翼の二倍以上いる」
「うむ」
パウルスがタイミングよく合いの手を打つ。それに気を良くしたのか、滑らかな口調でファルカスが続ける。
「それにあの七千人程の左翼部隊、多分主力だと思うのですが、あれを何故あんな狭いところに配置するのでしょうか。あれでは騎兵の機動力を十二分に生かせない」
パウルスはファルカスの指差す先に布陣するカルタゴ軍左翼騎兵部隊を見る。右側に友軍の歩兵部隊、左側にはオファント川、その間にギユッと押し込まれる感じで布陣しているカルタゴ軍左翼騎兵部隊。ファルカスの言う通り、確かに狭い。兵の密度がものを言う歩兵や槍兵ならともかく、機動力が売りの騎兵が十全にその能力を発揮できる環境とは言い難い。パウルスは家臣の見立てに大きく頷いた。
「そうだな」
「だが最も奇妙なのはあの歩兵部隊です。なんなのでしょうかあの配置は? あんな壺をひっくり返した様な奇妙な陣形、もう五十年以上戦場で飯を食ってきた私ですら、ついぞ見た事はございませぬ」
ファルカスが指差す先に展開するカルタゴ軍の歩兵部隊。彼が言う様に、確かに妙な布陣をしている。中央部だけが異常に突出し、あとは両翼に行くに従って下がっていき、端の重装歩兵部隊で布陣は終わる。アルファベットのUの字を逆にした形と言えば分かって頂けるだろうか?
「お前はどう思う? ハンニバルが何を企んでいるか分かるか?」
「何か企んでいる事は間違いないとは思うのですが・・・・・・皆目見当もつきませぬ」
ファルカスが忌々し気に吐き捨てる。数々の奇策によりローマ軍に煮え湯を飲ませ続けてきたハンニバル。強敵というものは武人にとってありがたいものだが、こいつだけは別だ。疫病神をありがたがる奴はいまい。
「陣形だけ見ていたら分からんだろうな。もっと根本的なところから考えないといけない様な気がするのだ」
空の青さをその瞳に映しながら、パウルスはどこか遠い目で呟く。
「根本的なところ?」
怪訝な表情を浮かべるファルカスに、パウルスがどこか講義口調で応える。
「兵数はこちらの方が上だ。なら寡兵である奴等は何を狙ってくる?」
「包囲、でしょうな」
ファルカスが即答する。それに対し、パウルスは大きく頷いた。
「その通りだ。例え劣勢でも、相手を上手く包囲さえしてしまえば勝てる。何故なら、包囲された側は自軍内部に大量の遊兵を抱える事になるからな」
「つまり包囲した方に兵数の不利がなくなる、という事ですな」
ファルカスの言葉に軽く頷き、辺り一帯に目をやるパウルス。
「ここら一帯はどうだ? 山と川に挟まれた狭い平原地帯。明らかに包囲には不向きな地形であり、兵数の劣る奴等にとってはありがたくない地形の筈だ。にも拘わらず、奴等は何故こんな場所に布陣した? ここに謎を解く鍵がある様な気がしてならないのだ」
「成程・・・・・・」
主君の言葉に触発され、もう一度根本から考え始めるファルカス。暫く考えるも何も浮かばず、早々白旗をあげる。
「分かりませぬな、あの悪魔の考える事なぞ。殿はどうですか? 何かお考えがあればお聞かせ願いたいのですが」
「・・・・・・私にも分からん。だからお前に聞いているのだ」
「これはしたり。私めとした事が」
そう言ってファルカスが、おどけた様に自らの額を掌でぴしゃりと打つ。笑い合う主従。その時馬蹄の音が二人の鼓膜を震わせた。音がする方に目をやると、一騎の若騎士が馬を飛ばして此方へと向かってくる。彼はパウルスの前で下馬をして言った。
「パウルス様!」
「おお、スピキオ殿か。どうされましたかな」
パウルスの前に畏まった若者の名はプブリウス・コルネリウス・スピキオ。幾人もの名執政官を輩出した、名門パトリキであるコルネリウス家の次期当主である。
まだ若いがその才能は軍事を含む多方面で傑出しており、次期ローマを担う万能の天才としてその将来を嘱望されている。
鋭い眼光、引き締まった口元、鍛え抜かれた体躯、若者らしくない落ち着いた佇まい、決して巨躯ではないが、身にまとう覇気が彼を一回り大きく見せている。時期執政官候補として、ローマ軍が特別教育を施している五人の俊英、『ローマの子』の内の一人である。本日は戦場の空気を体感させるという意図の下、観戦武官としてパウルスとウァロの下につけられた。因みに観戦武官に戦闘の義務はない。
余談だが、パウルスの娘、アエミリア・テルティア(アエミリア・パウッラ)はこのスキピオの妻である。
「パウルス様! 軍議が始まります。早急に本陣にお越し願いたい、とのウァロ閣下のお言葉です」
「カンカンか?」
パウルスが目元に笑いを滲ませながら問う。
「はっ?」
パウルスの問いに、怪訝な表情で応えるスピキオ。
「ウァロ閣下はカンカンか?」
「は、はっ! 一刻も早く軍議を始めたいらしく、かなり苛立っておられます」
「そうか。そんなに怒っているのか。なら急ぐ必要はないな」
パウルスがどこか他人事の様に言う。
「左様で。急いで行ったところで奴の機嫌が良くなる訳でもないですしな」
すかさず主君に同調するファルカス。重々しい口調だが、スピキオを見るその目元は主と同じく綻んでいる。
「ウ、ウァロ閣下は早急にと仰っていました。閣下におかれましては急いで頂けると嬉しいのですが」
スピキオが大人達に涙目で懇願する。天才とはいってもまだ十代の若者だ。この段階で、彼に老獪な大人達二人のいじりを軽く流す様な振る舞いを要求するのは酷であろう。
「向かった先でお説教が待っていると思うと、足が重くなるのが人情でなぁ」
パウルスがぼやく。可愛さあまりスピキオをおちょくっているのだ。主君の悪癖を良く知るファルカスが隣でニヤニヤ笑っている。
「パウルス閣下、あまり遅くなると私がウァロ閣下に叱られます。何卒お急ぎ下さい。この通りです!」
からかわれている事に気が付かずに、大真面目に頼み込むスピキオ。そんな彼を前に爆笑するパウルスとファルカス。何故笑われたのか分からずきょとんとしている若者に、
「冗談だ。さぁ、急ぐか」
そう言ってパウルスがファルカスを従え馬を走らせる。やや憮然な表情でスピキオがそれに続く。愛馬の背に揺られながら、パウルスは先程のファルカスとの会話を思い起こす。
分からん、と答えたが嘘だ。
大局的な観点からあの陣形を子細に観察している内に、ある一つの可能性に思い至ったのだ。しかし、とても現実的とは言えない、机上の空論に近いものだったので口にはしなかった。架空の戦記物に書いてある様な荒唐無稽な戦術を、国の命運がかかった戦で使う馬鹿が何処にいるだろうか?
(そうだ、これはない。これだけは不可能だ。例えあの悪魔であっても)




