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第八十一話 タマネの輪廻

 ネコミミ忍者との窃盗勝負を終えて屋敷に帰った後――。

 俺はベッド脇に腰かけたまま、一冊の本を眺めていた。


 今日はブローチを持ち込まれないよう、こうして夜通し部屋を見張るつもりだ。毎晩できる作戦ではないが一回くらいは犯人の目論見を阻止したいという意地があった。


 それより、俺が読んでいるのは盗賊イーゲルジットの懺悔録。

 これまで時間を見つけては読み返してきた中身を今一度確かめる。


 盗人窟――。タマネが言っていたそれは犯罪者たちの巣窟だ。どこかの町の一角を占拠し、領主でもそう手が出せないいわゆるスラム街を形成してしまった。


 流れ者のイーゲルジットもここに身を寄せていた時期があった。懺悔録にもちらほらとその名前が出てくる。ただ基本的には一匹狼で誰かと組んだとかの話はない。他人を信じていなかった――まあ犯罪者同士では仕方ないだろうが――彼の性分が表れている。


「うーん、ないなぁ……」


 しかし何度読み返しても、誰かを助けたなんて記録は見当たらなかった。

 この懺悔録は罪悪感に押し潰されかけている男の言い訳集だ。もし小さな獣人の子供を助けたなんて過去があれば自己弁護の材料として何か書かれているはず。それすらないということは、それくらい大したことではなかったか、あるいはタマネの勘違い……。


「タマネか……」


 今こうして落ち着いてみると、彼女には何かが引っかかる。

 名前もそうだが、あの特徴的なビジュアル。どこかで見たことがあるような……ないような。正史に登場するネームドだったのだろうか……?


 獣人はこの世界に住む六つのヒト種族の一つで、『アルカナシリーズ』には皆勤賞といってもいいほど頻繁に出てくる。


 外見は三種類あり「二足歩行するだけのほぼ完全なケモノ」、「顔立ちがちょっと人間チックにデフォルメされたやつ」、「そしてケモミミと尻尾以外は人間」というパターンだ。当初は、複数人いるイラストレーターごとの性癖だと言われていたが後年設定が確定したらしく、二足歩行ケモは純血種、他二つは異種族との混血度合いによってケモ度が変わるということになった。


 特に人間族との交配が多いとのことだが、つまりケモ度の低い獣人の祖先を遡れば、最初に純血種と交わった厳格なケモナーに行き着くわけだ。やりますねぇ……。


 やまとさんによると、獣人種が本気を出してきたのは、今のところ最新作である『アルカナ・アルカディア4』。

 時代区分は『3』の百年後という、『1』~『3』の出来事が十年以内にまとまっていることから考えるとかなり思い切った舵取りとなる。


 主人公の女の子は世界中の種族が集まるエリート学園『メテオーラ』にやってきた人間族の学生で、攻略対象の男性キャラも三分の二が他種族というこれまた結構な冒険をやっている。

 主人公はここで色々な種族間対立や宿痾と向き合いつつ、恋や友情をはぐくんでいくわけだ。


 そして肝心のゲーム的評価だが――。


 キャラデザ:神!!

 シナリオ:ん?

 システム:煉界


 という購買層の期待を100%裏切らない、ファンとスタッフの固い絆を感じさせるデキとなった。


 特に強烈なのが『〇〇君は転校しちゃったんだよ』システム(仮称)。

『アルカナ4』は自分だけでなく攻略対象キャラにもステータスが存在し、定期テストでこれが不足していると結果発表の翌日にそいつの存在が学園から抹消されているという地獄のようなイベントがある。いかにエリート学校とはいえこれはひどすぎない……?


 しかもランダムでケガをして運動ステータスが低下したり、頭を打って学力が低下したりと、システム側からの邪気みたいないやがらせも起こるのでセーブは日記のようにこまめにつけないといけない。


 主人公は自分を育成するだけでなくお目当ての男性もケアしないと、共にエンディングを迎えることはできないのだ。いや同じ学園にいることすら許されない……。ここはサバンナか何か?


 だが一部の煉界症の皆さんは「推しはワシが育てた感」に浸れていいと、この悪夢のシステムを擁護する姿勢を見せている。

 特に、ケンカっ早いオレ様不良系イヌミミ男子の『シーベリオ』は放置すると確実に消されるので、たとえ攻略しない場合でも密かに助けてやり、主人公相手にイキってくるところをニヤニヤ見守るが貴腐人たちの嗜みだとか。うん……はい。


 だが参った……。やまとさんの配信で『アルカナ4』が取り扱われている頃、俺の頭は本当に末期だった。人語をほとんど理解せず、やまとさんの癒しボイスの波長を“聞く栄養素”として吸収しているだけの状態だったのだ。


 もし『4』にタマネにまつわる何かがあった場合、思い出すのは困難……!

 ああ、こんな時! こんな時に記憶を保存しておいてくれる外部装置みたいなのがあればなー! 脳内の妖精さんがなー! いたらすごく助かるんだけどなー! チラッチラッ!


 ――さん……視聴者の皆さん……聞こえていますか……。


 あっ、この声はやまとさん!? やまとさんからの緊急追憶配信キタ!?


 ――「というように、『4』は一気に時代も進んで特殊な感じなんですよねー。このシリーズの魅力にナンバリングをまたいでのキャラの関係性っていうのがあって、旧タイトルに出てきたダレソレの兄弟だとか、幼馴染だとか、ライバルだとか、そういう新キャラの登場が世界の繋がりを感じさせてくれてたんですけど、それも厳しくなっちゃったかなーって」


 まあそれはありますよね。

 ナンバリングも三つ重ねてマンネリ化が進んできたし、そろそろリニューアルを、というのは難しいけれど通らなければいけない道だ。


「でも大丈夫だったんです。なんと『4』のキャラって、サブキャラも含めて既存キャラの子孫とか弟子とかが大勢登場するんですよ! これもうカップリング論争の答え合わせだろって盛り上がってましたねえ! あと長命種の場合、本人が生き残ってたりして、それが子孫キャラにあれこれエモいコメントしてくれるんです。これがまたたまんなくて、くぅ~、スタッフわかってるなーってファン同士で話してました! えっ? ゲームシステムですか? それはえっと……ハハハハははハ!!!!!!」


 やまとさんの発狂笑いでしか生き返れない脳みそがある。


「まあそれはそれとして、わたしが新キャラの中で真っ先に気になった子がですねー、この子! 9代目タマネちゃん!」


 なっ……!! ピンポイントで来た!? しかも9代目!?


「キャラ図鑑からビジュアルをお出ししますねー。はい、この子でーす」


 脳内の配信画面に現れる一枚絵。

 顔立ちに背格好まで、昨日見たタマネとほぼ一緒だ!


「はいかわいいー。この子は有名なネコミミ盗賊団の頭領で、学園のお宝を盗むために生徒に成りすまして潜入してるんですよ。獲物を狙う目つきをしてるでしょう?」


 確かに、昨日のタマネよりもだいぶ目つきが鋭い。裏路地を長年生き延びてきた野良猫を思わせる。


「でもそういう裏がありつつも主人公のクラスメイトの一人として、科学の実験とか体育の授業とか一緒にやってくれるんですよね。ほらCGもちゃんとあるんですよー」


 試験管を片手に困り顔の主人公とタマネが描かれている。どっちも可愛い。目つきの悪いキャラは表情変化だけで可愛く見えるからいいよね。


「9代目ちゃんは自分たちが安心して暮らせる国を作るために、代々あるお宝を狙っていたんです。で、それが〈闇の心臓〉って呼ばれる結晶なんですけど。はいコレが画像です。見てくださいこの結晶。中心に〈執着〉の刻印があるのわかりますか? これと言えばあのお方ですねー。そう『1』のラスボス、アークエンデ様!」


 は? アークエンデ……!? アークエンデが『4』にも……!? 正ライバルのアルカナなんか『1』にしか出てこないのに!?


「このアイテムの正体は何も語られてないんですが、わた……ファンたちの考察によるとアークエンデ様の魂だとか、力の残滓だとか言われています。手にした者は莫大な力を得られるアクセサリー的なものですかね。9代目ちゃんはイベントでこれに果敢に挑むわけですが、結晶から放たれたビームに返り討ちにされてしまうんです。可哀想に……。え? 後日談? 救済ルート? ないですね。中盤くらいのイベントだし。これで出番は終わりです。〈闇の心臓〉も今後一切出てきません」


 何なんだよ! おまえ何なんだよ!!

 え、この、え……? この優良キャラデザとCGもあるクラスメイトを過去ごと一人使い潰して、退場イベントだけ? その後に何のフラグも広がりもなく?


 見える……次の日、何事もなかったかのように始まる学園生活が。

 何なんだよこの学校。人が優しく生きていける世界じゃない……。


「もしかすると初代タマネちゃんは魔王アークエンデ様の力を直に見たのかもしれないって話がありましたね。この力があれば自分たちの国を作れるって憧れて、そこからずっとその夢を追い続けてきたのかもしれません。ほら、猫って九つ命があるっていうでしょう。その結末がこれなのが本当に残念ですが」――。


 やまとさんの追憶配信が終わり、俺はやるせない気持ちの重みで胃下垂を起こしかけていた。

 あまりにも可哀想すぎる。救いがない。人の心isどこ。


 アークエンデが直接何か悪さをしたわけじゃない。でも、俺たちとの縁は確かにあったのだ。

 多分、正史の彼女は恩人のイーゲルジットを探し、何らかの手がかりを得てこの地にやってきた。ここがすべての始まり。そして悪役公女モードのアークエンデを知り、その力に憧れてしまった。


 安心して暮らせる国……。意味深な言葉だ。獣人の国は獣人にとって安全ではないのだろうか? それとも何か事情が?


 今の段階では何も思いつかないが、このまま知らん顔することはアークエンデの父親として相応しくないように思える。何とかしてやるべきなのだろうか……。


 俺は長い物思いから戻り、開きっぱなしになっていた懺悔録を閉じた。

 ふとナイトテーブルに目をやると、石座だけが豪華なブローチがそこに置かれていた。


前々回のあとがきでミルキィホームズみたいだぁなんて話をしたその日に、プリキュアの新作が名探偵プリキュアだと公表されてXにミルキィホームズというワードが吹き荒れたそうで……。なんの偶然だこれはぁ……?


※お知らせ

次回投稿は多分予定通り12月2日ですが、そこからまた諸事情により中断期間を挟みます。再開は12月15日頃になると思われますが、もうちょっと早く再開できそうな気がします。このお知らせは次回もまたお伝えします。

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― 新着の感想 ―
例のブローチ『ふふふ…回想シーンの邪魔をせず、しかし存在感はアッピルする…完璧な登場だァ…!!』 転生元の原作ゲームが邪悪過ぎる…!後ヤマトさんいつも緊急追憶配信たすかる
おましょうま! >それくらい大したことではなかったか、あるいはタマネの勘違い……。 本人的には助けたつもりもない出来事に恩を感じてるパティーンかねぇ >『アルカナシリーズ』には皆勤賞といってもいい…
リス「なんか重要そうな感じなのにストーリー的には一切絡んでこないアイテムとかあるあるだよね、そこでキーアイテムとしてこのメガトンコインの呪いを宿したカケラ…メガトンピースを置いて行こうと思う」 鎖マ…
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