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第七十七話 怪盗の解答を求めて

それでは再開していきましょう。

あとがきにお知らせがあるので是非読んでいってください。

「か、怪盗貴族だ。怪盗貴族の予告状だあああああっ!」


 誰かが声にしたその情報は、一瞬にして場の人々の耳をかっさらった。


『なにいいいいいい!?』


 幾重にも重なる驚きの声。だが断言できる。この場で一番驚いたのは――俺だ。怪盗貴族本人であるザイゴール・ヴァンサンカン伯爵だ。


 どうして。どうして俺が犯罪予告を!? 俺は悪くねえ! 俺は何もしてねえ!


「きゃああああーっ!」


 すぐ近くで悲鳴が上がる。パンネッタだった。しかしそれは恐怖や動揺から出たものとは違い、はっきりと喜びの音色を帯びていた。


「カグヨ、怪盗貴族様ですって! 聞きまして!?」

「ええ、しかと聞きました! そもそもヴァンサンカン領に遊びに来た理由の一つが、怪盗貴族様を探るためでした! でもまさかこんなにも早く再会がかなうなんて……!」


 うっとりと目にハートを宿らせる二人。そ、そうだった。この子たちは悪漢どもに誘拐されたところを怪盗貴族に助けられて以来、すっかりヤツのファンになってしまったのだ。


 以前もらった手紙にもヴァンサンカン領で怪盗貴族について調べることが宣言されていた。黒シルクのおかげで消し飛んでいたその野望が復活しちまった……! なんてこった!


 ふと周囲に視線を巡らせてみれば、同じような感情を抱いた来場者は少なくないようだった。この明確な犯罪予告に対し、嫌悪どころか期待を膨らませる顔がいくつも並んでいる。

 怪盗貴族の名はいつの間にこんなに広まったんだ……!?


「落ち着いて! 皆さん落ち着いてください!」


 その時一人の男性が、予告状を貼られたガラスケースの横で声を張り上げた。


 小太りに整った頭髪、いかにも裕福な身なり。俺も一応領主なので面識がある。彼は商工会ギルドの顔役の一人、アルジャン・バルジャン氏だ。今回の展示会の責任者でもあるという彼は、あまり長くない腕を懸命に大きく振り回し、


「ここの警備は万全です! 泥棒が入り込む隙はトメイトウの種ほどもありませんので、どうか安心して展示会をお楽しみください!」


 いきなり予告状を突きつけられたというのに、なかなかの落ち着きぶりだ。この手の催し事に盗難のリスクはつきものだから、十分な備えをしてきたということか。

 だが――。


「フハハハ! それはどうかな! ミスター・バルジャン!」


 突如、高笑いが会場に響き渡る。


「なにやつ!」と鋭く四方に目を走らせるアルジャン氏の顔が最後に行き着いた先――開け放たれた高窓のむこうに、白昼堂々、颯爽とマントをたなびかせる怪人の影があった。


「きゃあああああ! か、怪盗貴族さ……ま……?」


 露骨に嬉しそうな悲鳴を上げたパンネッタのセリフは、しかし途中で失速し、彼女の曇り顔の中に吸い込まれていった。


「フハハハ! そう! いかにも我こそは怪盗貴族!」

『えぇ……』


 会場のテンションが引き潮のように引いていったのには理由がある。窓のむこう、尖塔に手を突くポーズの気取った男は――なんか妙に腹が出ていたのだ。マスクからはみ出た素顔の部分もむくれ気味で、足は短く……あれはただのオッサンなのでは……?


 怪盗のイメージからはあまりにもかけ離れた姿に、誰もが唖然とし、落胆の色を隠せない中、「おのれ怪盗めっ……!」と一人アルジャン氏だけが緊張感をみなぎらせる。

 そして。


「…………排除」


 ビーッ、ボンッ!


「ぎゃあっ!」


 あっ、パンネッタが警告なしで魔法ビームを撃ったッ。


 顔面に土属性の矢弾を受けたぽっちゃり怪盗が、屋根を転げて視界から消えていく。その顛末を最後まで見届けることすらせず、ウエンジットの令嬢は冷めた観衆へと振り返って声高に宣言した。


「あんなのは怪盗貴族様の名を騙る偽物ですわ! 本物はもっと華麗で、勇敢で、スマートですの! あたくしは本物に会ったことがございます!」

「なにっ!? 本物と会った!?」

「あの女の子は一体……!?」

「よく見たらすごいドレスのお姫様じゃないか!」


 新たなざわめきに包まれる会場。いや……あの怪盗のヴィジュアルに我慢できなかったのはわかるが、この子には外領(がいこく)での休暇を静かに過ごそうという感覚がまったくないのか?


「しかしこの予告状は本物ですわ。御覧なさい、カードはケースの外側ではなく、内側に貼られていますの!」


 おおおお!? と、先ほどの熱を取り戻す観衆。事実、予告状のカードは防犯用ガラスケースの内側に仕掛けられていた。外から楽にペタリと貼られたものではない。これはすでに一度秘宝に王手をかけたと宣言したも同然だ。


「た、確かに! さっきの男はただの売名行為だったようです! しかし、我々商工会ギルドは、この〈聖剣ステラ・メルトの欠片〉を必ず守ってみせます! どうかご安心ください!」


 アルジャン氏が必死に場を鎮めようとするのに対し、パンネッタが煽る人々の興奮は高まる一方。騒ぎを聞きつけてどんどん人が集まってきている気配すらある。


 彼らの思う所は一つ。

 本物の怪盗貴族が狙ってるらしい。

 なら、あの秘宝は本物だ!!


 ※


「お疲れ様でした。大層な騒ぎだったようで」


 屋敷に戻ってきた俺の体は心労でボドボドだった。

 労うバスティーユの声をそっと肩にかけてもらいながら、「本当だよ……」とだけつぶやいて執務机の椅子に身を投げ出す。


 あれからまあ大変だったこと大変だったこと。

 調子に乗ったパンネッタは聴衆を前に怪盗貴族の英雄譚を始めてしまうし、ついでにアークエンデとカグヨのドレスにも注目が集まるしで、場はほとんどお祭り会場と化してしまった。


 おかげで観客はどんどん増え、来場者はギルドの予想をぶち抜いて今までの最大盛況を記録したとか。主催者側は迷惑がるどころか大喜びだ。


「泥棒の予告を出されてるのに商魂たくましいというか、転んでもただは起きないというか……」

「ええ。では彼らの目論み通りですね」

「……えっ?」


 バスティーユの素っ気ない反応に、俺は目を向け直していた。


「それはどういう意味だ?」

「? 怪盗からの予告状は“やらせ”です。ご存じないのですか?」

「えあっ!?」


 思わず椅子から体を跳ね起こす。


「や、やらせ……!? あれが?」

「はい。今回の展示企画を盛り上げるための仕掛けだそうです。ああすれば知名度が上がり、お客も多く来るからと」

「な……な……なんだとぉぉぉ!?」


 で、ではあのぽっちゃり男は、そのために雇われたエキストラ……!?


「一応、お屋敷にも申告書が上がっていましたがね。少々派手なデモンストレーションをするからご容赦をと。まさか旦那様、書類の内容も読まずにサインを……?」

「いや俺はすべて知っていた。実に見事な宣伝だった」


 あ、危ねーっ! いや俺だってちゃんと書面は見てからサインしてるよ。でも多分、そこには怪盗貴族なんて一言も出て来てなかったし。あったら一発で気づくはずだし。そもそもヤバいものなら()っ友のバスティーユが審査する段階で弾いてくれるでしょ……?


「泥棒を担ぎ上げるのもどうかと思いますが、庶民の娯楽にまで潔癖さを求めるのは狭量にも程があるでしょう。見せかけとはいえ大勢の傭兵を雇用して警備をさせていますし、民に金が回るなら私からは特に言うことはございません」


 意外に柔軟だなこの執事! これを見越して商工会ギルドも今回の商法を採択したのだろう。踊るアホウに仕掛けるアホウ、同じアホなら乗らねば無作法、というわけか……。


 いやしかし、パンネッタもカグヨも本気にしてたし、これは絶対に子供たちには教えられんな。大人というのは得てして、こうして子供の夢をひっそりと守っているものなのかもしれない。


 実際、彼女たちはこの後も終始ご機嫌だった。

 食事の際も、入浴時も、常に少女たちの笑い声、話し声が屋敷のどこかから聞こえてくる。

 メリッサやトモエが両領の従者づてに聞いたところによると、あのお姫様たちがここまでウッキウキなのは本当に珍しいという。遊びに来て良かったと感謝までされてしまったとか。


 ホスト側の俺としても二人が楽しんでくれるのは純粋に嬉しい。アークエンデと三人でいい思い出を作れるに違いない。俺のことより彼女だ。怪盗貴族もここは黙って濡れ衣を着るさ……。


 そんな華やかな声も聞こえなくなる就寝時間。

 今日はいい一日だった。明日もまた頑張ろうとわざわざ口に出して、寝床に着こうとした、その時――。


「ぺえっ!?」


 俺は一人で飛び跳ねた。

 ベッド脇の、小物やら何やらが載っている棚の上に――――ある!?


 翼の細工に縁取られたブローチ。

 こ、これは魔王アークエンデの試練石……!!?


「なっ、な、なんでここに……!?」


 あり得ない。俺が知らずにかっぱらってきた……!? いやそんな厄介な手癖は持っていない! だが、どの角度からどう見てもあの秘宝展にあったブローチだ。


 わけが……わからない……!


 誰かが盗んでここに置いたと考えるのが普通だが……オーメルン? ベルゼヴィータ? いや絶対に、そんなことをする子たちじゃない!


 と、とにかくこのままにしておくのはまずい。このブローチをアークエンデのそばに置くわけには絶対にいかんのだ。

 犯人の意図はわからんが……返しにいくんだッ……!


 いつ? 明日の朝か? いや……。

 今でしょ!

ここで皆様のためにぃ~こんな大事なお知らせです。

皆さんと一緒に楽しんできたこの作品ですが……

なんとHJ文庫様の〈第6回HJ小説大賞前期『小説家になろう』部門〉にて入賞しました!

ダニィ!!??????????????????

この作品のキーワードを設定するにあたり、タグでコンテストに応募しよう! っていうイベントを大量にやっておりまして、宝くじも買わなきゃ当たらないし多少はね? とスケベ心を出して片っ端から登録しておいたのが功を奏したようです。たまげたなぁ……。

というわけで、この作品が本になります!!(これどうすんだよ→<煉><〇>)

イラストも付くでしょう多分!

いつ頃になるかとかそういうのはまだわからないのですが、まずはここで一緒に楽しんでくれてる読者の皆さんに一報差し上げたくご報告しました。

そしてこれからも作者と一緒に楽しんでもらえたら嬉しいです!

ご視聴ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
これが書籍化するのか、意外過ぎ・・・ という事は、これが作者さんの初書籍化作品になる?
魔王の試練石が作者様にまで試練を……!?
書籍化おめでとうございます!! タタローの頃からこんな面白い話が書籍にならないのはおかしいだろ!?祟るぞお前!と思っていたので、ついに…!と嬉しく思います。 各種手続き、折衝、その他諸々お忙しくなると…
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