表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
すれ違いの君と夢見た明日の約束を。  作者: 朱宮あめ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/10

最終話・また明日の約束を


 デートの帰り道、キャンディさんは別れる直前に私に言った。


「ねぇ、あみ」

「なに?」

 私は足を止め、キャンディさんを見る。

「俺さ、もうキャンディをやめようと思う」

「え」


 驚いて顔を上げると、キャンディさんはどこかすっきりとした顔をしていた。


「俺はあみがいれば、本当の自分も愛せると思うから」

「……そっか」


 この世界から、キャンディさんがいなくなる。それは少しだけ、ほんの少しだけ寂しく思う。でも、とてもいいことだと思った。だって、私の中にキャンディさんは永遠に生き続けるだろうから。


 キャンディさんは続けて言った。

「あみはどう? あみはまだ、AMである必要ある?」

「私は……」


 キャンディさんの言いたいことは、すぐに分かった。私はゆっくり首を横に振る。


「……ううん。私も……キャンディさんがいれば、もうSNSもAMもいらない」

 まっすぐにそう告げてキャンディさんを見ると、彼はくしゃっと砕けたように微笑んだ。


 そして、言った。

「じゃあ、俺の名前呼んでくれる?」

「え?」

「だって、俺はもうキャンディさんじゃないし、王子でもないよ」

「それはそうだけど……」

「名前で呼んでほしい」

「…………」


 頬が熱い。視線が熱い。


 この場から逃げ出してしまいたくなって、思わず身を引く。すると、キャンディさんが小さく笑った。


「言ってよ、あみ」


 優しい声だった。私はその微笑みに背中を押されるように、小さな声で彼の名前を呼ぶ。


「……チトセ、くん」

「うん……あみ。あみ」


 驚くほど優しい眼差しで、キャンディさん――チトセくんは私の名を呼ぶ。照れ臭くなって、私はくるっと身をひるがえしてチトセくんから背中を向けた。


「あっ、逃げたな!」

「に、逃げてない! ちゃんと言ったもん!」と、私は即座に反論する。

「なら、もう一回言う?」

 チトセくんも引かない。

「い、言わない!」

 私はまた即座に却下した。


 真っ赤になった顔を見られないように、私はぷいっとそっぽを向く。


「ちぇっ」

 背中にわざとらしい舌打ちがぶつけられる。

「ちぇじゃないって!」

「まぁいいや。でも、明日からは学校でもチトセくんって呼んでね? 俺もあみって呼ぶから」

「はぁ!? あ、明日から!?」

「そうだよ。明日から」

「無理!」

「ダメ」

「絶対無理ー!!」


 チトセくんは余裕そうにお得意のにこにこ笑顔を私に向ける。王子様スマイルに弱い私は、ぐっと言葉に詰まる。


「さぁて、そろそろ帰ろっか」

 勝ったと確信したのか、チトセくんは笑ってホームへ歩き出す。

「ちょ、待って! 誤魔化さないでよー!」


 抗議の声を上げると、チトセくんはからっとした爽やかな笑い声を上げて、私を振り返る。


「あみはからかいがいがあるから、ついね」

「だから、からかわないでってば!」

「はいはい。ごめんね」

 そう言って微笑むチトセくんの顔はものすごく優しくて、色っぽくて。

「…………もう」

 私は頬を染めたまま、唇を引き結んだ。気を抜くと、目眩で視界が揺らぎそうだった。


「ほら、あみ」


 おいで、と、チトセくんが私に手を差し伸べる。

「……うん」


 私は悔しさを滲ませながらもその笑顔にやられて、チトセくんの手を取るのだった。



 * * *



 その日の夜。

 私は、『Re:START』を開いた。


 設定画面から、アカウント削除画面を開く。画面に、アカウント名『AM』という文字が映し出された。

 

『Re:STARTから退会しますか?』


 一瞬だけ手が止まるも、私は力強く『はい』をタップした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ