過去②
看護師さんに連れられて病室につくと仕切りのカーテン越しに、知らない男性と母親が何かを話していた。
「姉さん、親父たちは絶対に姉さんに敷居を跨がせないと言っている」
「仕方ないわぁ、お父さんたちには無理を承知で結婚したんですもの」
「正直、俺もあの時の姉さんはあの男と結婚すると断行した時には頭がいかれていると思った」
「恵一、あの人の事を悪く言うのは止めて」
「正直、駆け落ちした時だって「恵一!」」
母親が強く言うと、たぶん叔父であろう男の人は黙ってしまった。
たぶん、入るなら今だと感じてカーテンを開けた。
「母さん」
「鉄郎、来たのね」
「その子が姉さんの・・。」
叔父は自分を一瞥するとこれ以上の話は不毛だと思ったのか、少し怒った感じで病室を出てってしまった。
「母さん、体調は大丈夫なの?」
「もう、少し崩したくらい何で大丈夫よ」
そうは母親はあの時は言っていたが実際は大変な状態だった。
癌のステージが4になっており、早急に手術しなければ大変だったそうだ。
だが、あの当時の母親はそれを顔に出さずに少しの病気みたいな雰囲気を出していた。
「検査入院で少し入院する位だから、お家で待っていてね」
そう言っていたが、実際は取り返しのつかない段階まで進行しており、
治療しても実際は病の進行を遅らせる程度しかできなかったそうだ。
自身は先程の事があったが病気の母親を心配させるわけにはいかずに、
相談せずに母親に勝手に約束する位だった。
「絶対に早く帰ってきてね、お母さんのオムライスが食べたい」
「もう、ウィンナー入りのケチャップライスを卵で包んだやつね」
「絶対にね!だから早く帰ってきてね!」
そう自身が言うと母親は自身を撫でながら、優しく何も言わずいた。
今考えると約束できないと知っていたから、無言でこの時を慈しむように撫でていたのであろう。
そして、他愛ない話を面会時間ぎりぎりまでしていたら、館内放送で面会時間のアナウンスがされた。
「鉄郎、神様は全て見ているから悪いことは全て自分に返ってくるのよ」
「いきなりなに?母さん」
「うん。何か鉄郎が悩んでいるように思えたんでね」
母親はそういうと最後に鉄郎を抱きしめて病院から帰るように促した。
病院の玄関では父親が不機嫌に叔父と言い合いをしていた。
「おいおい、娘が大切な時に親は援助しないってのかよ!」
「お前が言えた口かよ」
「財産分与なしで娘を放り出してましてや孫への援助も無しなんて最低な親だなぁ」
「だから、お前が」
そう言って叔父が父親を殴ろうとした時だった。
丁度自身が来たためか口論を止めて、バツが悪そうに叔父は殴りかけた拳を止めて、
息を荒げながら自信を一瞥し、少し睨みながら病院を出て行った。
「まったく、最低な家族だな」
父はそう言っていたが、自身では何となく違うと違和感を覚えていた。