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山本

山本は、なんでも、自分を罵倒したキャバ嬢を、持っていたナイフで滅多刺しにしたらしい。

現場は血の海で、取り押さえにきた男性たちに向けてもナイフを振り回し、警察が取り押さえるまでに一人殺し、二人に怪我をさせた。

警察の発表によると、山本は違法薬物を所持しており、犯行時も使用していた疑いがある。

ショックだった。どの言葉を聞かされても、どうしても涼介は犯人と山本が重ならなかった。

そして同時に激しい後悔を覚えた。

全く俺というやつは、自分の身に起きている悲劇に酔っていたに違いない。

どうして気づいてやれなかった。どうして話を聞いてやれなかった。

人殺しだろうが違法薬物所持者であろうが、やっぱり涼介にとって山本は山本だった。それがたとえ山本の本性ではなかったにしても。

なんで話を聞いてやれなかった。なんで、気にすらしてやれなかった。


「やっぱ最近変だぜお前。大丈夫か?」

相川の声がして振り返ると、いつもの職場の喫煙場でタバコに火をつける彼の姿があった。

「うん」

「いや『うん』じゃなくてさ。なんつーか、大丈夫かって聞いたんだよ」

「……それに対して『うん』って言ったんだよ。あってんだろ。『うん』で」

「お前、痩せたよな。あまり眠れてねえんじゃねえの?」

「うん」

「だから『うん』じゃねえって・・・死んじゃってくれるなよ。俺は嫌だぜお前の世話見にいくのは」

「誰も心配してくれなんて言ってねえよ」

「そんなこと言うならよ、恋人でも作れよ。よく寝れるかもしれないぜ。逆に寝れないか。ははは」

「……るせえな」

「冗談だって。怒んなよ」

「怒ってねえよ」

「お前が心配するなっつったって周りは気になるっつうの。あと、怒るってことはお前さ、図星なんじゃん。

 独り身なの気にしてるってことだべ?しょうがねえなあ俺の周りにいる若いこ連れてさ、飲みにいくべ。いつ空いてる?」

 

……山本が逮捕された直後だぞ?全く他人というやつは、別の他人のことになるとこうも無神経になれるものか。


「……っとけよ」

「ああ?」

「どうせお前にはわかんねえよ!」


 涼介は思わず相川を睨んだ。睨んだ瞬間に明らかに顔色が悪くなった。

不思議に思い、相川も涼介の視線の先を追う。


駐車場に黒いバンが停まっていた。来客か、山本がニュースに出たことで、発注元のお偉いさん連中が様子を見に来てるのだろう。どちらにしろ、黒いバンが駐車場に止まる事自体珍しくはない。

……はずだが、涼介は黒いバンをじっと見ていた。この世の終わりのように。



相川の知っている限り、それ以来、涼介は工場に来なくなった。







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