相川
次の日、この時の出来事はニュースとして全国に知れ渡った。
足立区の41歳無職の男、民家に立て篭もり、住民一人を刺殺。
男は殺人罪で逮捕されるが、ひどい錯乱状態にあり、弁護人は責任能力の有無を論点に検察と争う姿勢。
4月。この春小学生になる相川の娘は入学式を迎え、親子三人で立川の帰り道を歩いていた。
「ねえあなた見て。ここ建て替えるのね。」
そう妻に言われて相川は、広大な建設予定地に目をやった。
「本当だ。何があったっけ?ここ。」
「それよりも、新しいマンションが建つのかしら。ちょっと見てっていい?」
「ええ?・・・ ・・・ ・・・ヒューマニテクス・エコマネージメントセンター?
マンションじゃないみたい。残念だったね。」
すると娘が走ってやってきた。
「ねえパパ。あれなんて読むの?」
「なんだい?」
「あそこ。あの電信柱に何か変なのが書いてある。」
「ええ?」
相川は娘に引っ張られた。
確かに変なシールが貼ってある。誰かのしょうもない悪戯だろう。
・・・
・・・いや待て、どこかで見たことあるような?
そのシールは、10センチ四方で、
青い五芒星の上から赤い一の字が描かれており、それを上下から挟むように言葉が書いてあった。
「如実了、時至り、吾等準備すべし」
・・・くっだらね。相川は視線をシールから外し、足元の花束を見た。
電信柱の下に、花束が手向けてある。
あれ、こんなところで事故なんていつ起きたんだ?
花束の奥には写真が飾ってあった。
別に気にするようなものではない。・・・気にするようなものではないが、写真からただならぬ気持ち悪さを感じ、思わず相川は写真を拾い上げてしまった。
・・・それは自分と、娘の写真だった。手を繋いでいる。後ろ姿だから確実にそうだとは言い切れない。しかし・・・自分の娘の後ろ姿を見間違えるわけがないのだ。
「なあにそれ?」
「見るな!!!!!!!!!!」
思わず大きな声を出して、娘を泣かせてしまった。
「あなたどうしたの?」
心配そうに妻が声をかけた。
「あ、いや・・・ なんでもない。ちいちゃんごめんね。なんでもないから。・・・そろそろ帰ろう。日が暮れちゃう。」
相川は、泣きじゃくる娘の手を、強く、強く握った。
了