死刑執行人少女2 ~男たち13人、チャイナドレスJKに負け殺される~
夕焼けの校舎に、放課後を知らせるチャイムが鳴り響く。
女子高生の愛佳は、ホームルームが終わるなりバッグを手にし、そそくさと教室を後にした。長い黒髪をなびかせながら、早歩きで廊下を抜けていく愛佳。すると、ブレザーの制服姿の女子生徒二人が、嬉々と声をかけてきた。
「あ、愛佳! この後、一緒に手芸店いかない?」
「ごめんね。今日は早く帰らないといけないの」
「今週末のイベントの準備はもうできたの~?」
「うん。ばっちりだから楽しみにしてて!」
愛佳はすれ違いざまに振り返りながら手を振り、友人二人に笑顔を返すものの、足は止めずに帰路についた。
ビルトインガレージの一軒家が愛佳の家だ。愛佳は鍵を開けて中に入る。当然中には誰もいない。父も母も共働きで帰りは遅く、中学生の弟もまだ部活動中の時間だった。愛佳は小走りで階段を上がると、自室の扉を開けた。
八畳程の洋室、愛佳の部屋は――色とりどりの服が飾られていていっぱいだった。メイド服、ロリィタ服、パンク系、パーティドレス、|セーラー服、アイドル衣装、他にも色々な服がラックに整理されてかけられている。学習机にはミシンや裁縫道具が置かれていた。部屋の中央、トルソーに着せているアニメヒロインの衣装一式は、今週末に友人二人と参加するコスプレイベント用の衣装だ。
愛佳はそれらを眺めながら、満面の笑みを浮かべていた。
「さ~て。今夜はどんな衣装にしようかしら」
制服のブレザーを脱ぎ、愛佳は『ひとりファッションショー』を開催する。愛佳はうきうきと服を手にとっては、着替え、鏡に映った自身の全身を確認する。身長160㎝ほどで、頭が小さく手足が長い愛佳。さらには見事なくびれを描く抜群のプロポーションゆえに、どんな服でもきれいに映える。
「青もいいな~。いや、黄色もいいかも……」
しかし本人にはしっくり来ないのか、とっかえひっかえに服を持ち出してはコーデを試す。なかなか決まらないが、愛佳は終始ルンルンと鼻歌を歌っていた。
「――うん。やっぱり、赤が一番ね」
ようやく今夜の一着が決まると、気がつけば日も沈みかけていた。メイク箱を用意しながら、愛佳はふと窓の外へと視線を向ける。
「今夜も、楽しいパーティになりそうね」
夕日に染まった赤い空を眺めながら、愛佳はうっとりと微笑んだ。
街外れの廃工場に夜が訪れる。
街中がネオンを灯し活気づいていくのとは反対に、ひと気の無い閑散とした廃工場の一帯。その一角では、黒づくめの男たちがうろついていた。建物の外では、数人の男たちが分散して四方八方を見張っている。よからぬ事をしているのは明白だった。
その中、見張りの男の一人が何かを見つけた。
――夜闇の中から、ひとつ、人影が浮かんで来る。
女か? いや、まだ若い少女だ。
真っ赤なチャイナドレス姿の、黒の長つや髪の少女。
はだけた胸元に、深いスリットの腰、肩に背中――
そこかしこから覗かせる、むちむちの白い肌。
ほとんど丸出し乳房には、深い谷間がくっきりと。
黒いニーハイ網タイツに浮き出るふともも。
目元は、ピンクのアイシャドウが濃い長まつ毛。
真っ赤なルージュには、てらてらと輝くグロス。
足に履くのは、踵が細く尖った赤いピンヒール。
夜闇の中から、美少女が歩いて来る。
片手を腰に当てて、腰をくねらせ、豊満な乳房をぷりぷりと揺らしながら、コツコツと足音を反響させて近づいて来る。
男は思わず見入っていたが、見張りの任務を思い出し、少女に立ち止まるように警告した。
「あら? 今夜、ここでパーティがあると聞いたのだけど」
廃工場で今行われているのは、麻薬の取引のみだ。手短に終える算段だというのに、女なんて呼ぶわけがない。
しかし――かなりの上玉の少女だ。
幼顔ながら、むちむちと肉付いた女体。赤いチャイナドレスのスリットから覗く白いふともも。これを目の前にして手を出さないのは実に惜しい。見張りは他にもいるのだから、一人くらい抜けても問題ないだろう。
男はニヤニヤと笑いながら、少女に『楽しいこと』をしようと誘った。
すると少女もまんざらでもない様子で微笑みを返した。
「うふふ、奇遇ね。わたしも今夜は『楽しいこと』がしたい気分なの」
猫撫で声の少女、その小さな肩の丸出しの白肌へと男が手を伸ばしたその時――
――少女の黒い瞳が、真っ赤に光り、変貌する。
次の瞬間、少女は男の手首をつかみ、ひねり上げた。その細腕からは信じられない力だ。悲鳴を上げる男をよそに、涼しい顔の少女。
「どう? 楽しい?」
男の悲鳴が絶叫に変わる中、ついに――骨が折れた。
入口の騒ぎを聞きつけ、男の仲間たちが集まって来る。他の箇所の見張りや建物内の者も駆けつけた。そして――あらぬ方向に腕が曲がった仲間の姿を目の当たりにする。腕を押さえたまま地面にうずくまる仲間、その目の前では、真っ赤なチャイナドレス姿の美少女が笑顔で見下ろしていた。
少女を、13人の男たちが包囲した。
「さあ、パーティの始まりよ」
少女ひとりと、男たち13人との戦闘が始まった。
優勢に立ったのは――赤チャイナドレスの少女だった。
《砕骨のハイキック乱舞》。次々と襲いかかってくる男たちを、少女は自らの脚を振り回して――強烈な蹴りで、骨を折る。取り押さえようと伸ばした腕、防御しようと固めた腕、ガラ空きになった胴のあばら、そのことごとくを、真っ赤なハイヒールが骨ごと粉砕する。チャイナドレスの深いスリットから伸びる、むちむちの白肌の脚は変幻自在だ。ぷりぷりと揺れるふとももの贅肉からは考えられない、とんでもない怪力で蹴り飛ばし、次々と男たちの骨を折っていく。
しかし、少女はたったひとりである。男たちは人海戦術で強引に少女に押し寄せた。結果、何人もの腕やあばらの骨を犠牲にしながらも、男たちはなんとか少女の攻勢の阻止に成功する。
――大男が、少女を背後から押さえ込んだのだ。
身長2m近い大男の巨体が、少女の160㎝ほどの女体を腕の中に締めつける。元総合格闘技選手の締め上げに、さすがの少女も動きが止まった。辺りに蹴り倒された男たちは、折れた腕や脇腹を抱えながらも、なんとか立ち上がり安堵する。
――少女は、不敵に微笑んでいた。
次の瞬間、少女の身体の周りに――赤いオーラが顕現した。『魔法』である。これまでも使っていた身体強化魔法が、一層強化されたのだ。
少女は大男の拘束を、いとも簡単に吹き飛ばした。衝撃で後ろに仰け反る大男。間髪入れずに少女は身体を反転して接近し、男の上体に抱きついた。そして今度は、少女の細腕が、男の両腕の上から上体を抱え込む。
「残念だったわね。それじゃ、次は私の番よ」
少女は、にんまりと笑い――両腕を締め、男の身体を締め上げた。
「えいっ❤」
少女のかわいらしい掛け声とともに、男の絶叫が廃工場に響き渡る。
「まだまだいくわよ~」
男の巨体が、少女に抱え上げられ、宙に浮く。
「えいっ❤ えいっ❤ えいっ❤ えいっ❤」
その細腕で、立て続けに男の身体を締めつける。
次第に男の悲鳴の中に、骨が折れる音が混ざり始めた。
男の巨体が、少女の腕の中に締め潰されていく。
吐血し、足をばたつかせ、暴れ狂う男……。
少女は周囲に向けて、これ見よがしに言い放つ。
「助けなくていいの? ほらほら、いつでもかかっていらっしゃい」
その光景は、まさに地獄だった。
満身創痍の男たち。腕を折られ、あばらを折られ、血反吐を吐きながら作り出した絶好の機会。そうまでして少女を取り押さえたというのに、少女は力のすべてを出しているわけではなかったのだ。2mの巨体を軽々と持ち上げ、腕の中に圧し潰す少女。圧倒的な力。人間が敵う存在ではない。男たちは既に、戦意を喪失していた――……。
「来ないのね。いいわよ。そのまま指をくわえて見てなさい」
男たちは、何もできなかった。
「えいっ❤ えいっ❤ えいっ❤ えいっ❤」
攻撃することも、逃げることも、目を逸らすこともできなかった。ただ、見ていることしかできなかった。血反吐を吐き、悲鳴に喘ぎ、決して地につかない足をばたつかせ、そしてだんだんと動かなくなっていく大男の様を、ただ見ていることしかできなかった。
「あれれ? もう死んじゃったの? 見た目と違って繊細なのね」
大男は、少女の腕に抱き締められて、死亡した。折れたあばら骨が内臓を突き破り、絶命したのだ。
男の亡骸を放り捨てる少女。押しつけられていた少女の乳房が解放され、赤いチャイナドレスの中から、ぷりんと盛り出る。頬に浴びた返り血の下、白い肌は火照っていた。そして、長い黒髪をゆらりと振り払い――
真っ赤な瞳ふたつが、残りの男たちをギラギラととらえる。
「うふふ。次はだぁれ?」
夜の廃工場に、鮮血の花が咲き乱れる。
《斬首の回し蹴り》。我先にと逃げ惑う男たちの首が、次々と刎ね飛ばされていく。十分に魔力が高まった少女の回し蹴りは、骨を砕くどころではなく、引き千切るほどまでに威力が増していた。
蜘蛛の子を散らすように、背を見せて散り散りに逃げる男たち。しかし、魔法で強化した少女の脚は、脱兎の一匹すらも逃がさない。必死に逃げる男の背に瞬く間に追いついては――
「つかまえたっ❤」
――男の前髪を、鷲づかみにする。
続けて捕まえたまま、男の顔面を目掛けて、何度も膝蹴りを叩き込む。
「ほら、ほら、ほら、ほらっ」
たちまち男は鼻が潰れ、顔は血で真っ赤に染まり、やがて動かなくなる。そうなったら、少女はもう興味を示さない。動かなくなったそれを建物の入口前へと放り捨て、少女はまた新しい『おもちゃ』をつかまえにいく。とっかえひっかえに新しい男を捕まえては、前髪を鷲づかみにし、顔面に膝蹴りを叩き込む。また一人、また一人――……。廃工場入口前には、動かなくなった男たちが山のように積み上がっていった。
それでも、男たちは諦めない。すぐそこで仲間の顔に膝蹴りを打ち込む少女の元へと、這いつくばってでも向かっていく。何度も血反吐を吐きながらも、なんとか接近し、赤いピンヒールの上の足首へと手を伸ばす。しかし、その手が少女をつかむことはなかった。
――ピンヒールの踵に、手を串刺しにされたからだ。
「なかなか根性があるのね。見直したわ」
手の甲を貫通したピンヒール。激痛に伏す中、少女の褒め言葉が頭上から聞こえてくる。満身創痍の身体に杭を打たれ、いよいよ男は動けなくなってしまった。
後はもう、されるがままである。
少女はピンヒールで男の手を貫いたまま、もう片方の脚を後方へ振り上げた。そして――
「そーれっ」
――サッカーボールキック。
男は、首だけとなって宙を舞った。
それからも、血の雨は止まなかった。一体、また一体と、廃工場入口前に死体が積み上がっていく。気がつけば死体の数は、12に達していた。
「あとは、あなただけね」
最後の一人となった男には、もはや思考は無かった。男は持てるすべてを振り絞って、少女へと突撃した。
少女は、にんまりと微笑む。両腕を広げて男を迎えると、互いに手を握って押し合う姿勢になった。
――力比べだ。
「ほらほら、あなたが最後なんだから、もっとがんばって❤」
少女はあからさまに手加減していた。なのに男は押されてしまう。全身全霊、持てるすべてを少女にぶつけているというのに、下へ下へと組み伏せられていく。あっという間に男は押し倒され、少女に馬乗りにされてしまった。
「まだ終わりじゃないでしょ? ほらほら、がんばって❤」
《馬乗りめった殴り》。少女の左右の拳が、男の顔面を破壊する。細い腕から繰り出される、手加減された強烈な拳。右、左、右、左と拳が打ち下ろされる度に――
――ぷりぷりと、乳房があばれ回る。
「ほら❤ ほら❤ ほら❤ ほら❤」
赤いチャイナドレスの胸元からこぼれ出た、ふたつの乳房。それが拳の返り血が飛び散る中で、跳ねて、弾み、遊び回る。これ見よがしに。嘲笑うかのように。目の前、こんなに近くでおどっているのに、男には手が出せない。もう、もう――……。ぷりぷりとおどり続ける乳房を前に、男の意識は薄れていった。
「もう終わりなの? つまらないわね」
少女は男の首を鷲づかみにし、男の身体を片手一本で持ち上げる。馬乗りの体勢から、股下から男の身体を引き抜くようにして立ち上がり、男の首をつかんだまま頭上へと掲げた。男の身体が宙に浮く。どれだけ足をばたつかせても、何にも当たらない。
「やっぱりこの程度なのね。もういいわよ」
少女は片手で男の首をつかみ上げながら、もう片方の手を自らの胸にそえた。真っ赤なマニキュアがつや光る爪、しなやか五本の指を、ピンと一直線にそろえて固める。そして、まるで弓をつがえ構えるかのように、貫手を、真っ赤な爪の先を男の左胸へと向けて――
「さようなら」
13個目の、血の花を咲かせた。
少女ひとりと、男13人との戦闘が決着した。
真っ赤なチャイナドレス姿の、血みどろの悪夢――
13人の男たちは、少女の人外な暴力の前に、全滅した。
13人の死体の頂上に、赤の少女はひとり、腰をかける。
ニーハイ網タイツの脚を組み、今夜、この手で殺した男たちを尻の下に敷いて、少女はひとり、ふけっている。
――赤一色の世界に没頭する。
少女が自ら創り上げた、血みどろの赤の世界。男たちがやり取りしていた白い粉には見向きもしない。赤いチャイナドレスに、赤いピンヒール。黒髪も白肌も、今は返り血に染まっている。そして、少女の頬はますます紅潮し、呼吸も色づいていく。身も心も、赤一色に。死屍累々の中で少女は、赤に浸り、酔い痴れ、味わい、飲み干す。
死体の山の頂上に腰をかけた、赤の少女。
少女はいつまでも、赤に浸り、蕩けていた。
夕焼けの校舎に、放課後を知らせるチャイムが鳴り響く。
「ごめんね。今日も早く帰らないといけないの」
女子高生の愛佳は、今日も友人二人の誘いを断り、一直線に帰宅する。一緒にコスプレイベントに参加する仲ではあるが、これだけは譲れない。
――あの快感を、忘れられない。
夜の摩天楼を、真っ赤な満月が照らす。
並び立つ高層ビルの根本では、道路は渋滞、警察車両のけたたましいサイレンがそこかしこから鳴り、夜の都会に反響している。そびえるビル群の中でも最も高いものの頂上に――少女の姿があった。
真っ赤なチャイナドレス姿の少女が、すらりと立ち、騒がしい都会を見下ろしている。
「うふふ。今夜も楽しいパーティになりそうね」
ビルからビルへと跳躍していく少女。
行き交う赤色灯が乱反射する都会。
少女は今夜も、赤に染まる――。