戦闘1
魔法学校の模擬戦です。場所は体育館で公立高校のものの大きさをイメージしてます。
模擬決闘は一対一で行われる。
詠唱魔法、方陣魔法、武器、武術、etcなんでもありのバトル(今回は喧嘩)。
事前に本人らの体の一部(血、毛、爪など)を依り代人形に食べさせて致命傷を避ける。
これにより本気の模擬戦を行う。
依り代人形が壊れた方の負けとする。
「それでは始めます」
審判の笛が開始の合図
メルトは腰を落とし右手を前に左手を握って構え、ヤタギは相手の構えに対しカウンターを狙っている。
「用意っ!!」
高らかに笛の音が鳴った。
ピィィィイイイイ!!!!
メルトは詠唱魔法、武器の扱い、武術を得意とし基本的に早期決着の戦い方。
今回はメリケンサックと長靴を使用。
3歳から始めた武道は彼の戦い方に直結している。
ビュンッと低姿勢でメルトは距離を詰める。
「オラァ!!!」
助走を付けてグッと踏み込み溜めに溜めた右ストレートをヤタギ目掛けて放つ。
ヤタギは詠唱魔法、方陣魔法、遠距離の攻撃を得意としており隠れながらチクチクと攻める戦い方 。
今回の模擬戦ではカッターナイフのような機構の剣とピストルを使用。
総魔力量はメルトと大差ないが魔法の腕はヤタギの方がが良い。
待っていたかのようにヤタギは詠唱を始めた。
「情景を抱く痩躯の少年 大罪の制服を着せられ 裸足で砂利道を駆けて行く 果ては夭折か 老獪にして生きて行くか 天道の説教 汽笛!!」
「黎明の背表紙」
ヤタギを守るように高さ3メートル、横幅1.5メートル、厚さ50センチメートルの大きな壁が発生した。
「んな薄い壁で防げるかよ!!!」
「五輪発勁!!」
メルトの右手のメリケンサックにはあらかじめ魔方陣による方陣魔法が描かれている。
メルトの呼び声で発動する五輪発勁は最初の衝撃を0回目とし遅れて5回の衝撃を与える厄介な技。
ドゴォン!と0回目の素の攻撃。
壁に少しヒビが入る。
ドン!…ドン!..ドン!、ドン!ドン!
メルトの総魔力量を参照した5回の衝撃は壁に穴を開けた。
「よぉ…」
「っ!!」
穴を通して、互いに目が合う。
ヒュッとヤタギは咄嗟に穴の下に隠れた。
「ゥラァア!!!」
メルトは壁に突き破らんと蹴りをいれた。
ヤタギがいるであろう所に。
メルトの長靴は別名加速靴と言われる長靴で、履くと単純に脚の回転が速くなる。
しかし難点があり、通常は体が速さに着いていけないというデメリットがある。それによる転倒事は数多く、かなり鍛えないと使いこなせない武具である。
メルトはまだ加速靴を使いこなせていないが、その速さを応用して、急加速による超パワーで壁をぶち破ろうと蹴りをいれたのだ。
メルトの読みは少し当たっており、ヤタギに近い位置の壁にダメージを与えた。
ヤタギにも少し、かする。
(大丈夫だ…!まだ策はある)
ヤタギは思考を巡らせ、逃げの詠唱を開始する。
「仮面の猿 酩酊鯨の背に乗って 磊磊落落 小判の霰 牢の教え第12話」
「沃土を行け」
メルトの足場の性質が変わりぬかるむようになった。
「ちっめんどくせぇ!」
ぬかるむ足場はメルトの足に絡みヤタギに近づけない。
(距離を置く…今だ)
ぬかるむ足場に苦戦中のメルトを横目にヤタギは背後に回り込んだ。
「仕返しだ!」
「っ!」
魔道具:魔弾
方陣魔法が弾丸に仕組まれ当たると入力された魔法が、打ち込まれた向きに発動される。
今回ヤタギはピストルに6発の魔弾を装填しており、1,2,3発目が火力の高い爆発魔法。4,5,6発目が補助の役割をする魔法が付与されている。
(引き金を引くだけ…!)
ドン!ドン!
「ガハァッ!」
ボッ!ボンッ!
「ッ!」ズキッ
(銃の反動で右の肩が…!!)
ヤタギの歪んだ表情をメルトは目の端で捉えた。
メルトは加速靴の超スピードでぬかるんだ地面から放り出され、満身創痍でゆっくりと立ち上がった。
「んだぁ?手前ぁちっとは鍛えてから挑めよなぁ?!」
ゆらゆらとヤタギの方向に体を向ける。
「次はこっちの番だ」
黒い、ドス黒い声色でメルトは詠唱を始めた。
「鈴虫の旋律がコジョーを覚まし 墓標に生えた彼岸花 破軍の星よ戦慄す 酒池肉林なり黄泉の国 六道戯典番外編」
「朽ちた足跡」
辺り一面が黒い骸骨に、鈍色の鈴虫に、風に揺れる彼岸花に覆われた。
会場である体育館は黒く、鈍く、赤く染まる。
しかし、フィールドが変化するのはただの副効果。
この詠唱魔法は出現した亡者を使用し、術者にバフをかける。
(メルトのやつ、こんな魔力を食う魔法をこんな速く…っ!)
「もうさっさと…終わらせてやる」
ゆらゆらと揺れる彼岸花。
追い風に運ばれ、皮と骨だけの亡者はメルトの影に沈んでゆく。
朽ちた足跡
彼岸花:攻撃力爆増
鈴虫:防御力爆増
亡者:常時治癒 一定時間毎に魔力回復
それぞれを食し、鳴らし、沈ませることにより術者に効果をもたらす。すべてを同時に取り込むと身体が軋み始め、バラバラになる。なので、すべて取り込むためには徐々に身体に慣らしながら取り込む必要がある。
発動時間はそれぞれ5分。
ヤタギの魔弾による爆発魔法の傷がジュワジュワと癒えていく。
しかし、メルトは岩の破片で自分を傷つけ始めた。
肉を抉って傷つけては、癒えて、傷つけては癒えを繰り返していた。
攻撃のチャンスであったのに、その異様な光景にヤタギは見ているだけだった。
「そろそろ慣れただろう…」
痛みでハアハアと息切れしているメルトの足元にはドロドロに溶けかけた黒い骨が垂れてきていた。
その黒い骨は亡者達がメルトの傷を癒した副産物であった。
亡者の効果は大体15回程外傷を受け、傷が癒えれば体が慣れて条件は満たされる。
メルトが自傷した回数は16回。
そしてメルトは次の効果を得るために、体育館いっぱいに咲いた彼岸花を1輪、球根ごと摘んだ。
彼岸花には毒があり、特に球根に集中している。
毒ごと食らう。
咀嚼、咀嚼、飲み込んだ彼岸花は胃で溶け液体となり身体中に巡った。
ドクドクと血流が加速していく。
心臓に負荷はかかるが亡者の効果で治すことが可能。
ユラユラと標的を睨む。
ヤタギは瞬きをした。
目を開くともうメルトは視界には居なかった。
死角からメルトは五輪発勁を発動した。
魔力総量を参照し、魔力を消費して放たれる五輪発勁は2回目以降から魔力総量がどんどんと少なくなり威力が弱まっていく。
しかしメルトは彼岸花を食らった。
爆増した攻撃力は2回目の五輪発勁を1回目よりも強化していた。
ヤタギは背後から食らってしまう、が咄嗟に魔力で厚みを作り衝撃を弱めた。
「ッチィ…小賢しいな。即座に魔力固めて守りやがった」
「まぁ衝撃はそれなりに伝わってんよなぁ?!」
メルトはヤタギの依り代人形に目を向ける。
ヤタギの依り代人形にはヒビが入っていた。
「あとすこし…っ!!!」
殺意の籠ったメルトの笑みは亡者ですら寄せ付けない。
「まだだっ!」
依り代人形はあれど痛みは本人に伝わる。
メルトの高速移動、死角からの五輪発勁、魔壁で対応するが連撃は続く。
しかし、ヤタギはまだ諦めていない。
よろけながらも立ち上がり、もう1つの武器を取り出した。
もう1つの武器は、剣。
名は齧歯類の叡智。
通常は剣の柄のみだけの状態。
使用時は握りにある機構をカッターナイフを使う時のようにカチカチと押し上げていく、するとアマンダ鋼由来の深く青い刀身が見えてくる。
柄に魔力を予め600Knまで充填しておくことができ、齧歯類の叡智の析出魔法によって刀身が出現する。
ヤタギは魔力に粘合金アマンダ鋼を練り込み、硬度を確保した。
お構い無しに五輪発勁は繰り出される。
ただ、魔力量に参照されるこの技はやればやるほど威力が弱まっていく。
やがてヤタギが作る魔壁で完全に攻撃が吸収されていった。
メルトは魔力が枯渇し、亡者の回復を待つ。
ヤタギはこのタイミングを待っていた。
72cmの刀身を出し、メルトを睨み構える。
メルトもジリジリと様子を伺う。
瞬間、3発目の爆発魔法を発砲。
煙幕を張りヤタギが詰め寄る。
メルトは反射的に高く上に跳んだ。
(危ねぇ…けど魔力も半分は回復してる。このまま押し切れば…っ?!)
同時にヤタギも高く跳んだ。
ピストルを2発撃って。
4発目の補助魔法。
第一補助系統術亜種
「導線」
ポイントまでの道程を記す補助魔法。
5発目の身体強化魔法。
第二強化系統魔法
「リムブル」
脚力が通常の約7倍になる。
「っ!まだ足りないのか」
飛び上がった先、上下で2人は睨み合う。
メルトは空気を蹴りヤタギに向かって飛び込んだ。
同時に左手のメリケンサックの方陣魔法を発動。
左の前腕が5個の魔法陣を貫いており、肘には規則的に3つの魔法陣が回っている。
殴る予備動作に意味がある。
メルトの左手の方陣魔法には、ためが重要となる。
空中で出来る最大限のためを、狙いを定めながら行う。
徐々に回転する魔法陣は速くなり一定となる、その時にはヤタギと同じ高さにいた。
今だっ!!!!
メルトに届かずとも近づけたヤタギは齧歯類の叡智を構える。
こちらは6発目の補助弾をまだ使っていない。
そしてメルトも左手のメリケンサックはまだ使ってない。攻撃魔法が組み込まれていると踏んだヤタギはカウンターを仕掛けることにした。
6発目の加速魔法。
特殊回路術式 銘サ朱色
「雷電」
メルトの肘の魔法陣が回り始めた時、ヤタギは自分のこめかみに6発目を打ち込んだ。
『雷電』自身の電気信号を加速する魔法。体内を巡るヤタギの伝達電気は、いつもより速く目に入った情報を脳に伝え行動を起こした。
「慈雨、醜穢、慧心、餓心。蠱毒の末 骸の山の頂上 魃の様で 確も麗しい 齧歯類の御身 夜明 !!!」
齧歯類の叡智、カウンターの型である夜明は敵の攻撃を受け切り、そのまま返す剣技。
雷電の効果で高速で詠唱を終わらせ、メルトのため攻撃に迎撃する構えは整った。
「バーストッ!!!!」
回転する魔法陣は後方に貯めた魔力を発射、推進力で敵を音速越えの速さで殴る拳技『鷹』。
ヤタギは拳を完全に見切っていた。齧歯類の叡智の刀身は音速越えのメリケンサックを捉えた。
瞬間、メルトの魔法陣は乾いたモルタルのように崩れていた。
鷹の攻撃で、齧歯類の御身の反撃で両者撃墜。
依り代人形も2体とも崩れ決着はつかず引き分けとなった。
補足
齧歯類の叡智の刀身はヤタギの魔力で形成されていて、性質もそのままです。ヤタギの魔力の性質はガリウムと似ています。またメルトの左手の方陣魔法は、メルトの魔力をスイッチとして発動されるもので、魔力の消費量がヤタギに比べるとダンチで少ないです。方陣魔法は懐中電灯の様にバッテリーの部分と点灯(発動)する部分があり、両者が空中でぶつかった瞬間ヤタギのガリウム魔力が、メルトの魔法陣に染み込み崩れたということになります。