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16歳、僕はオタクで・・・えっと、うん、それだけ。

作者: 鏡 幽閉

【初投稿】

(かがみ) 幽閉(ゆうへい)といいます。

何卒よろしくお願い致します。

 「学生の本文は勉強だ!」

 なんて言う大人や優等生はいるけれど、学生だってそれだけじゃ生きていけない。

 恋愛、旅行、アルバイトなど……。

 別にこんな事高校生じゃなくたって体験できるけど、高校生のうちにしか味わえない良さがあると僕は思うのです!


 ……と、つい先日アルバイトの初任給が入って調子の良い"タク"は思った。


 「あ、開けるぞ……遂に開けるぞ……!」


 タクにとってこれは歴史的瞬間と言っても過言ではない。

 バイトができるようになったら一番最初に買おうと、もう何年も前から決めていた物が今日届いたのだ。


 ――ゴクリ。


 思わず唾を飲む。

 ただの簡素な段ボールが光り輝く宝箱のように思えてくる。

 タクは早速その簡素な宝箱に慎重にカッターを通し開帳させた。

 恐る恐るいきたいところだが、興奮する体の自制が効かず宝箱に手を突っ込む。


 「おぉ……これが……遂にこの手に!!!」


 宝箱の中に鎮座している、シュリンクに包まれた美しい長方形をひっつかみ眼前に掲げる。

 (僕がこの瞬間を何年待ったと思ってる……!)

 (そう、これが……!)

 

「魔法少女ラブチューン complete Blu-ray Box(¥45,000 税抜)!!!!!」


 ……いや~まぁDVD全巻持ってるんですけどね、Blu-ray出てるなら欲しいじゃない?

 タクの好きなその作品「魔法少女ラブチューン」は今から25年前に放送されたTVアニメ作品であり、そもそも認知している人がかなり少ない上に、その内容の難解さ故に好きな人と嫌いな人がハッキリ分かれる程の超カルト作品であった。

 タクはその作品の熱烈な信者であり、日々布教活動を抜かりなく行うが、その努力も虚しく配信プラットフォームでの評価は概ね☆3程度、サイトによっては☆2.5の評価がついているサイトも目にしたことがあるほどだ。


 「が、おまいらは分かっていない全然分かっていない!超、超、超名作なんだなぁこれが!!!」


 なんて事を深夜の一人きりの部屋で呟きながら、丁寧にシュリンクを開封し丁寧に全体を凝視しながら丁寧にディスクを取り出す。

 ふとディスクの裏面に自分の顔面が反射し嫌悪感を抱きそうになるが、口角が吊り上がっているその顔は我ながらなんて幸せそうな顔だろう。


 「さ、ささ早速再生しよう!あ、明日の学校なんてもう知らぁん!」


 ディスク①をプレイヤーに挿入し、タクは自分だけの世界へと入り込んでいく。

 真っ暗な狭い部屋で、小さめなモニターのカラフルな光だけが深夜の部屋を精一杯照らしていた。


 ガラガラガラ

 「おっ、タク~おはよ~」

 タクが教室に入っていつも一番初めに声をかけくる友達、てっちゃん。

 「おっすおはよーてっちゃん、ふぁ~~ねみぃ」

 今日も教室の後ろの扉から存在感を消して着席。


 気が付いたら窓の外が明るくなっていた。

 猛烈に学校をサボりたい衝動に駆られたが、そんな勢いでサボれる程不良でもなく度胸も座っていないタクはなんだかんだいつも通り着席していた。


 「うわっタクくま!寝不足?」


 よくぞ聞いてくれたてっちゃん。


 「あぁ、何てったって昨日僕は魔法少女ラブチューン complete Blu-ray Box(¥45,000 税抜)購入し徹夜で視聴していたからね!あの作品は本当に素晴らしいよ!今から25年前の超マイナーアニメ作品で……」


 ここぞとばかりに饒舌になる。


 「あぁ、タクが好きなそれね」

 「ねぇ是非てっちゃんも見てみない?Blu-ray Box貸すからさぁ!画質もすんごく綺麗になってるよ、感動するよ!」


 タクはアニメを布教する時、必ず円盤を貸すと言う。

 自分から布教しておきながら、相手にわざわざ配信プラットフォームに登録させるなんて手間は煩わせない。


 「い、いやぁ僕は、」

 「あ、魔法少女モノだからって偏見を持ってちゃいけないよ!このアニメは本当に……」

 「あ、あぁ分かった!今度暇があったら調べてみるよ、えっと……そのラブ……なんとか」

 「ラブチューン!」


 退屈な授業も一日中ラブチューンの事を考えていればどうってことはなかった。

 放課後になり分け目も振らずに帰宅したタクは、SNS上でオタクとしての嗜みを堪能する。


 「あぁ~分かる!分かるマジで!てかルシファーさん言語化能力高すぎだろマジで!」


 ファン界隈でのコミュニケーション(ダイレクトメール)である。

 作品がマイナー故、界隈が狭く、ほとんどが顔見知りのような仲だ。

 その中でも一番仲の良いルシファーさんとは毎日のようにラブチューンについて語り合っているが、今日はなにやら気になる情報が流れてきた。


 (ビッグニュース!今ちょうどピグたんの配信リアタイしてるんだが、ピグたんがラブチューンについて話してる!)

 (ピグだんがラブチューン好きの同志とかヤバいだろmjd!)


 「ピグたん?あぁ最近大バズりしてる女性配信者か……僕はあんま興味無いんだけど、最近のオタクはみんな好きだよなぁこういうの」


 だが、ラブチューンについて語っているというのならば話は変わってくる。

 早速動画サイトで検索してヒットした配信を閲覧してみると、ルシファーさんの言う通りその女性配信者がラブチューンについて熱く語っている真っ最中だった。


 「実は魔法少女ラブチューンってアニメが超大好きで~」


 それにしてもまだ夕方だというのに凄い同時接続数だ。

 配信のコメント欄には「なにそれ~」「初めて知った」「ピグたんってそういうの好きだったんだ……」「女児アニメ?」

 などの文字で溢れかえっていた。


 「こんなマイナーな作品みんな知らなくて当然だよね~フヒヒ、しかしこの配信者見直したぞ!」

 「そう、ラブチューンを好きな同士は潜っていないでどんどん布教するべき!これで一般のオタクに作品が知れ渡り、みんなが素晴らしさに気づけば、ラブチューンは25年の時を経て一大ビックコンテンツになるぞ~!」

 今日のSNSの界隈のタイムラインではその話題で持ち切り……この配信の影響でラブチューンファンにもピグたんを推し始める者が増えたようで、まさに祭り状態であった。


 ……2か月後

 超マイナーアニメ作品 魔法少女ラブチューン 新作アパレルがポップアップ発売開始!!

 「なんだこれはぁぁぁぁぁ!!」

 サブカルチャーに関するネットニュースを読み漁っていたタクの目に飛び込んできたそのニュースタイトルは、タクに感激の大声をあげさせた。


 今の時代に急にラブチューンの新作アパレルだって⁉お、おかしいぞ!い、いやおかしくはないがどうして突然⁉

 というかすごく嬉しいんだけど売れるのか⁉いや違う俺たちが買い支えるんだ!

 生きてて良かった!あぁ神はいる!とにかくありがとう!散財します!

 「というかもう購入サイトオープンしてるじゃんか……告知急すぎだろ!まぁ作品が作品だけにそこまで急いで購入しなくちゃいけないわけもないだろうけど……」


 放送当時からグッズが円盤しか発売されていなかったようなマイナー作品が、急にポップアップで商品が発売されるなんて誰が想像できたであろうか、その衝撃の事態に界隈は狭いながらも狂喜乱舞していた。


 「この商品販売の企画を立案した人もさぞラブチューンが好きなのであろう……よくぞやってくれた!正直こんな赤字間違いなしの企画を実現させてくれた方々には本当に頭があがらないよ!」


 ラブチューンのキービジュアルが大きくプリントされた、外で着るには勇気のいるTシャツやパーカー、他にもキャップやステッカーなど十数点を躊躇なく予約し、使う宛が無く途方に暮れていた貯金達に道を示すことができた。


 「よっし購入完了っと!みんなはなに買ったんだろう……まぁ自分らレベルの信者になれば全種類購入は当然でしょ!」


 早速何を購入しただのとSNSで報告しあっていると、つい数時間前に購入サイトがオープンしたにも関わらず欲しい物が購入できなかったと数人が報告しているのが目に入った。


 「えっ、種類によってはもう完売してるのか⁉この作品に限って完売って……相当在庫数絞って生産したんだなぁ……まぁそりゃそうか」

 「おっ、ルシファーさんも全て購入できたみたいだな、さっすが~」

 運よく全種類購入できたタクはその旨を少し自慢げに報告した。


 「しかし僕はネットニュースを見ていて運がよかったな、ギリギリだったよ……取り上げてニュースにしてくれた記者、GJ!そういえば急いで購入サイトに飛んだせいでニュースの記事あまりしっかり読んでいなかった……せっかくラブチューンが取り上げられれるんだから読んでみるか、どれどれ……」

 

 「超マイナーアニメ作品 魔法少女ラブチューン 新作アパレルがポップアップ発売!!

 今から25年前に人知れず放送されていたTVアニメ「魔法少女ラブチューン」

 グッズこそ少ないものの、各配信プラットフォームでは評価☆4.5を誇る知る人ぞ知る超カルトアニメであり……」

 

 ……評価☆4.5だって?

 タクは違和感を覚えた。

 「いやいや、ラブチューンは僕的には確かにそのくらい評価されて良い作品だけど、かなり人を選ぶ作風だし世間からそこまで高評価されたことなんてないはずだぞ……」

 その記事の下調べのなっていない様にタクは少し腹の立つ思いだった。


 「はぁ全く……せっかくニュースにしてくれるのは嬉しいけどさぁ……もう少し作品に対する愛をだねぇ……」

 なんて呟きながらタクは配信プラットフォームにアクセスし、自分の認識が間違っていない事実を確認しようと作品レビューを開いたがそこには目を疑う数字が表示されていた。


 レビュー数 2k レビュー☆4.5


 なんだこれは……。

 あの記者の書いた通り、本当に☆4.5とレビューされているしレビュー数が2kと以前より格段に増えていた。


 「な、なんだこれ……!一体何があったんだ!遂に世間の一般オタク達がラブチューンの素晴らしさに気づき始めたのか⁉」

 これで合点がいった。

「だから急なポップアップ発売といい品切れの速さといいこういう事だったのか!あぁ時代が追い付いてきたか!ラブチューンに‼」

 タクは新規ファンのラブチューンに対する愛を確認しようと、嬉々として作品に対するレビューを読み上げた。

 

 ピグたん推し

 ☆5 ピグたんが話題にしていたので視聴しました。面白かったです。

 ピグリスナー

 ☆5 推しがこの作品好きらしいから見た!難しかった笑

 ピグファン

 ☆5 この作品に対する僕なりの考察は……


 なんだこれは……。

 「ピグたんとかって……確か前にルシファーさんが言っていた今人気の女性配信者だったよな……はぁ……そういう事だったのか……」

 これで合点がいった。

 「まぁ多くの人がラブチューンを見てくれた事は事実だし、アパレル発売もこれのお陰だろう……なんだか解せないが、見なかったことにしておくか……」

 と声に出してみたがタクの心は晴れない。


 「どれもこれも薄っぺらいレビューだ……ってしかもこれ……前はボロカス言ってた奴まで手のひら返してるじゃないか!」


 正直ガッカリだ。

 こういう形といえども、この層の視聴者が今回のアパレル発売に貢献しているであろうことはタクも理解していたし、なにもネガティブな気持ちばかりではないが、こんなつまらない事にこだわっているのは自分だけなのだろう。

 この言語化しずらい気持ちをSNSの狭い界隈で吐き出す勇気はタクには無かった。

 ルシファーさんなら上手く言語化してくれるのだろうか……。


「それにしても最近は本当にラブチューンのファンアートが増えたよなぁ」

 増え始めた頃は嬉しくてついなんでもかんでも保存していたが、最近は、昔から活動している仲の良い絵師の作品しか保存する気にならなくなってきた。

 他の絵師には見向きもしない。

 いちいち保存していたらキリが無いというのもあるが、なぜだろうかタクはこの誰にも話すことのできない気持ちを抱えたままSNSを眺めている。

 ファンアートが増えることによって界隈が盛り上がることはタクも理解していたし、描いてくれる絵師には本心から感謝していたが、何故だか純粋に楽しめなくなってきている事にタク自身気づいていた。


 「みんな上手いんだけどなぁ……愛が感じられないんだよ、作品に対する愛が……」

 どの絵もこぞっていいね数が伸びている事がタクは解せなかった。

 「はぁ、描くのも見るのもみんなブームに乗ってこれだ、みんなぽっと出……数か月前とはえらい違いだよ」

 タクはスマホをむやみにスクロールするのは辞め、好きな絵師さんのアカウントだけを何度も何度も眺めていた。


 ……数日後の昼休み、そろそろ注文したアパレルグッズが届く時期になっていた。

 最近はラブチューンに対する熱が若干落ち着き気味であったタクも、決して愛が失われた訳ではなく以前と変わらない熱量で崇拝しているので、商品が届く時期になってなんだかんだ楽しみでしかたがなかった。

 今日の学校は何とも気が軽い、下校したら待望のグッズが届いているのだから。

 今日休みの人達はもう商品を受け取っているのだろうか……実物はどんな物なんだろうか……。

 タクは気になって我慢できずSNSでエゴサーチをかけた。


 ラブチューンTシャツ可愛すぎ!♡

 ラブチT届いた!ヤバすぎ‼

 ラブチューンまぢエモぃ! 

 

 「なんなんだ、これは……」

 数多くの女性ファンがこの様な文章と共に商品を身に着けた自撮り写真をアップロードしていた。

 タクはラブチューンを崇拝している身でありながらも、このようなファン層に抱いている嫌悪感をもう隠すことはできそうになかったので、自制の意味も込めてスマホを咄嗟にポケットへしまった。


 「なにがエモいだバカバカしい……!なんて乏しい語彙力だ!」

 「しかもラブチューンをラブチなんて略す奴初めて見たよ……全く気味が悪い……」

 タクは教室で誰にも聞こえないようにボヤく。


 「だいたいこんなアカウント今まで界隈で見たことないぞ……どうせ作品本来の良さなんて全く分かろうともしないミーハーだ……低俗な奴だ……」


 タクの言うミーハーのお陰で作品の人気が急上昇している事はタクも重々承知しているが、今はそんなことどうでもよかった。

 ただ寂しく、悔しく、モヤモヤした気持ちだけだった。


 「嫌なものを見てしまった……こんなもの見ていたら精神衛生上良くない、午後の授業に響くよ……」

 タクは今見てしまった物を頭から消し去り、ひたすら下校時間が訪れるのを待った。

 5時間目と6時間目の授業は全く集中出来なかった。


 タクはそこそこ都心の高校に通っている為、下校時間はそれなりの人ごみになる。

 人ごみが嫌いなタクは、普段は多少遠回りしてでも人通りの少ない裏路地を通って下校しているが今日だけは仕方ない、届いているグッズを一秒でも早く手に取りたい思いが抑えきれず、苦渋の決断の結果人通りの多い大通りを通って下校することにした。


 「ちくしょう……人多すぎだろ……なんでみんなこんなにちんたら歩いてるんだよ……」


 しかし辺りを見渡すと、みんながみんな首を傾げてスマホに取り憑かれている。

 これでは裏路地を通っても時間的にはそこまで変わらない。


 「こんな人ごみだっていうのに、バカなのかこいつらは……ふぅ、もういいや……くだらない」


 人ごみをかき分けるのを諦めたタクは仕方なく周りに合わせてちんたら歩いた。

 すると、歩きスマホだけでも十分不愉快に思うタクだが、それを上回る目障りなものが視界に飛び込んできた。

 ラブチューンのTシャツを着てキャップを被っている女性2人組が、背面にラブチューンのステッカーを貼ったスマホで自撮りをしている。

 

 やば、めっちゃエモくない?www ストーリーあげてい?


 タクは咄嗟にうつむいて人ごみをかき分け、逃げるように走り出した。

 視界の端に同じような若者が2,3組入り込んだような気がするが、何も見ないようにして走った。


 エモい やばい


 また聞こえた。

 無我夢中で走った。

 なんだか笑い声も聞こえた気がする。


 クックック……って……。


 走った、それでも気にせず。

 ひたすら走った。


 クックック……。

 笑い声はしつこくついてきたが、聞こえないふりをしながらがむしゃらに走った。


 どこまで走って来ただろうか、見知った土地ではあるが人通りの少ない住宅街に入ってしまっていた。

 流石に足の限界が来たタクは走るのを辞め、道路のど真ん中にも関わらず立ったまま膝に手をついて荒く息をする。


 「はぁ……はぁ……はぁ……」

 全身から汗が噴き出て止まらない。


 「一体なんなんだよ……どいつもこいつも……エモいエモいって……ラブチューンはそんなんじゃ……」


 陽が傾いて空が橙色に染まっているが、まだまだ強い日差しがタクの影を伸ばす。

 長く、長く、とても長く影を伸ばす。

 長く、長く……。

 やがてその陰はタクの左手にあったレンガ塀まで伸び……。

 

 「キミこそなんなんだい?」

 

 ニヤけながらタクに話しかけた。

 タクは体が凍り付いたように言葉を発せない。

 全身の汗が冷や汗に変わる。

 どこからともなく聞こえてきたその声の発信源が自分の影であるなんて理解できなかったが、確かにタクから伸びたその影は、人間でいう口にあたる部分だけがくっきりと三日月型にくり抜かれている。


 「クックック……キミこそなんなんだい?タク……キミはラブチューンのなんなんだい?」


 口が思ったように動かない。

 「キミもラブチューンが好きなんだよね?ファンなんだよね?」

 「あ、当たり前だろ……っていうかお前は」

 「クックック……じゃあキミもあの女性2人組と同じじゃないか……」

 影は不気味に笑う。


 「あいつらと同じ……?ふざけるな!あんなのと一緒にするな!僕のラブチューンに対する愛は……あんな適当な……適当なもんなんかじゃないっ!!」

 タクは声を荒げる、荒げてしまった、我慢できなかった。

 「へぇ、なにが違うんだい?」

 影の冷静な態度がタクを更にイラつかせる。


 「あんなのはラブチューンが好きなんじゃなくて、ただ流行りものが好きなだけのミーハーだ!エモいだのなんだのって……自分の顔面をネットに晒す口実としてラブチューンを消費しているに過ぎない……!」

 「それはそれはありがたい……作品にとって大きな布教活動になるよ、ボクもラブチューンの1ファンとして彼らに感謝しなければね、クックック……」

 タクの冷や汗は未だに止まらない。


 「で、タク、キミはなにかしたのかい?ラブチューンに対してさぁ」

 「ふ、布教くらいなら僕だってやっているさ……DVDだって、Blu-rayBoxだって、サントラだって買ってる!新作アパレルだって全種類購入だ!そのくらい好きなんだよ……!舐めるなよ!!」

 タクは道端で周囲の目も気にせず、壁に向かって声を荒げる。


 「それは立派だね……だが、ああいう人たちのお陰で今回のポップアップ販売もあったし、サブスクでの評価も上がって注目されている……メディアにも取り上げられている」

 「キミの好きな作品を拡散してくれているのは、キミの嫌いなああいう人たちなんだよ……クックック……憎んでいるのはキミだけじゃないのかい、タク?」

 「な、なにが拡散だ……あんなのは作品に対する侮辱だ……!あんなのが増えるから界隈が穢れるんだ!」

 タクは今まで隠してきた本心を全てぶちまける。


 「穢しているのはキミでしょう……」

 「……はぁ?」

 「新規のファンを受け入れずミーハーだと罵り、界隈を狭めているのはキミじゃないか?自覚、あるんじゃないかなぁ……?クックック……」

 「僕が……ラブチューンを穢しているだって……?そんなわけないっ!」

 「そうかい……?流行に反抗し続けて治安を乱しているのは外ならぬキミじゃないか……クックック……くだらないプライドは捨てなよ、タク……」


 「ちがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁう!!」


 タクは走り出した。

 夕陽に照らされて走るタクに、影はない。

 

 暗い部屋で一人佇むタクの眼前には、長年愛用してきたコレクションケース。

 どれだけ走ったか気にしていなかったが、冷静になった時には部屋にいた。

 タクは宝物のように大事にしているたった3つのグッズを、震える手でコレクションケースから取り出す。

 そして今届いたばかりの未開封の段ボールと共に、ゴミ捨て場へ捨てに行った。

 傍から見たらケースに数センチの空きスペースが出来ただけに見えるが、タクからしたら一番大事にしていたものが無くなった虚無空間と化していた。

 その瞬間からタクは、自分の世界からラブチューンの存在を……消した。


 「タクくーん!久しぶりだね~!」

 「お久しぶりですルシファーさん!」

 「久しぶりのオフ会でタクくんに会えて嬉しいよ~!それにしてもラブチューンの続編、制作決定だってね!」

 「クックック……本当に、楽しみですよね」

ここまでお読みいただきありがとうございます。

改めまして、鏡 幽閉と申します。

今回の作品が初投稿となりました。


この作品の投稿日の前日に22歳になりました。

今まで創作活動をやろうやろうと思いつつ、なかなか手を付けられていなかったのですが、この節目にようやく投稿に踏み切ることができました。


まだまだ駄文の域を出ませんが、これから頑張って参りますので、何卒よろしくお願い致します。

次回のモチベーションに繋がりますので、お褒めの言葉でも指摘でも構いません、コメントや評価の方していただけると幸いです。

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