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東は樺菜を見守りたい  作者: 小林弘二
6/10

6.誕生日

 あれから樺菜は白滝とは親しい男友達と割り切り、白滝とコンタクトしているようで、いつもと変わらぬ日々を過ごしているようだ。

 そして彼女の誕生日である一一月一六日。


「誕生日、おめでとう」


 そう言って神田とともにプレゼントしたものを見た樺菜は、眉間に皺を寄せて半眼になった。


「神田のセンスだな」

「似合うと思ったんだけど、可愛いだろ?」


 神田は「いいセンスだろ」と言わんばかりのドヤ顔でそう言ってのけた。まぁ、俺も神田の『センス』には一目置いているので、俺も面白がってそのプレゼントを折半したのだが。

 その樺菜へのプレゼントは、頭まですっぽり被るクマの着ぐるみパジャマだ。


「着て見せてくれよ」


 漏れ出る笑いを必死に堪えて樺菜に催促すると、樺菜はそれを持って仏頂面で隣の部屋へ行った。しばらくして、


「どうよ」


 と満更でもない顔で着こなした樺菜が、両手を広げ、くるくる回りながら姿を現した。


「おぉ、似合ってる似合ってる」

「言ったろ、東。絶対に似合うって」


 自信満々に言う神田に、俺は苦笑いをした。似合うかどうかは別にして、樺菜は何ていうか、どんなふざけた格好をしようとも、着こなしてしまうのだ。

 自分の姿を見下ろし、樺菜は口をへの字にした。


「でも、このネタ格好は人前には見せられないよ」

「まぁ、寝間着のつもりで着てくれ」

「ほんと、神田のセンスには呆れるよ」


 そう言って神田に向かってため息を漏らした。


 そんな誕生日の翌日、彼女の部屋を訪れるとすこぶる機嫌の良い樺菜がいた。そんな樺菜が見慣れぬベージュ色のハイネックセーターを着ていた。


「随分と機嫌が良いな」

「あいつから誕生日プレゼントを貰ったんだ」

「ほう。通信相手の彼か。


 そのセーターがそうか」

 白滝も女性へ洋服を贈るとは、随分と思い切ったことをしたものだ。よほど自信があったか、無鉄砲かのどちらかだろう。

 樺菜ももともと白滝へ気があるようだし、その思い切った行動は吉と出たようだ。


「神田よりはセンスが良いよ」

「あいつと比べるなよ」


 そう苦笑しながら言ってやると、タイミングよくそこへ神田がやってきた。その神田が樺菜を見て開口一番、


「あれ。珍しいとっくり着てるな」


 などと古臭いことを言った。そんな神田に樺菜は頬を膨らませた。


「それを言うならタートルネックだ!

 それ以前に、これはハイネックだよ!」


 そう言う樺菜に、神田は腕組みをして小首を傾げた。


「違いが分からんな」


 神田。おまえはもうちょっと女性受けの良い言葉を覚えた方が良いぞ。今度飲みに行った時にでもアドバイスしておくか。



 樺菜の誕生日から何日か経った日。

 樺菜は凝りもせずにまたハッキングしていた時、通信専用のパソコンからトークリクエストがかかってきた。

 それと同時に、樺菜が「しまった!」と声を上げた。


「なんだ、また逆探知されたのか?」

「まだされてない。

 話しかけないでくれ」


 慌てている樺菜を見ていつものことだと半ば諦めつつ、俺は通信用のパソコンの画面に映し出しているリクエスト相手を見た。本名で書かれているが、相手はあの白滝のようだ。

 面白そうなので、俺がリクエストに応答してやると、画面には白滝らしき青年が驚いた様子でこちらを見ていた。そう言えば、テレビ電話が完成したんだな。

 白滝は至ってどこにでもいるような顔の青年だったが、真面目そうな雰囲気を漂わせた、カフェテラスで感じた印象そのままの人物だった。


「そうか、そうか。君がそうか」

「誰? あいつから?」


 後ろで声をかけてくる樺菜に返事をしつつ、俺は白滝の相手をした。

 俺はとりあえず軽く自己紹介をしたあと、樺菜の様子が気になる彼に彼女の現状を見せようとカメラである枠を取り外し、床に座ってハッキング作業している樺菜に向けた。


「ハック失敗して、追跡されているみたいなんだ」


 そう説明すると、


「余計なことを言うんじゃない」


 と樺菜からお叱りを受けた。それも気にせず、俺は樺菜が覗き込んでいるモニターを見せた。

 気になる彼が見ているせいか、「精神不安定だよー」と本調子が出ない様子の樺菜だったが、探知される直前で逆転し探知されずに済んだようだ。

 大きな安堵をした樺菜はその画面の枠を手に取り、いつものモニターに取り付けると椅子に腰掛けた。


「一時はどうなるかと思ったよ」


 そう言う樺菜に対して、


「捕まったらどうなると思っているんだ」


 と白滝も彼女のハッキングを心配しているようだ。

 そんな白滝と同意見の俺は、


「君から樺菜によ~く言っておいてくれ」


 と、そう言った。

 とりあえず、樺菜と白滝の仲を邪魔しちゃ悪いから、俺はこれで帰ることにした。

 白滝はちゃんと樺菜を叱ってくれる男のようだし、俺の代わりに樺菜を導いてくれそうだ。

 まぁ、樺菜と白滝、うまくいくかどうかは分からないが、白滝は樺菜にとって良い影響を与えてくれる男だろう。

 白滝と話してみて、そんな印象を受けた。


ノリの良い子っていいよね。

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