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東は樺菜を見守りたい  作者: 小林弘二
3/10

3.慣れないデート

 その年の十一月、部屋でソワソワしている樺菜がいた。何やら、クローゼットに頭を突っ込み、おしゃれ着を取り出してみては自分の体にあてがっている。

 そこに遭遇した俺と神田だったが、お互いの反応はそれぞれだった。神田は訝しげにそれを見ていたが、俺はその落ち着きのない様子にピンと来ていた。


「デートでも行くのか?」


 そう訊いてみると、樺菜は肩をビクつかせ、神田はぎょっとした顔で俺の方を見た。

 樺菜は照れた様子で教えてくれた。どうやら、学校の男友達から告白されたそうだ。彼のあまりにも真剣な様子に、「デート一回ぐらいなら」と応じたそうだ。


 この話に、神田はどういうわけか絶望した顔で口をあんぐり開けていた。

 そんな神田を奇妙に思いながらも、俺は樺菜に「いい経験だと思って楽しんでこい」と応援した。


 それから神田と一緒に樺菜の家を辞去してから、二人で居酒屋へ入った。

 落ち込んでいる様子の神田に訊いた。


「まさかと思うが、お前、樺菜の事が好きなのか?」


 神田は深刻な顔で頷いた。

 俺はおでんをつまみ、酒を飲みながら彼の話を聞いた。どうやら彼は彼女に一目惚れをしたそうだ。そう、小学生の幼い彼女にだ。当然幼い彼女にその事を告げることもできず、今に至るようである。


「あいつは来年で高校生だ。今回のことだってそうだが、いずれあいつにも好きなやつが現れ、女になっていくんだぞ」


 そう言うと、彼は苦虫を噛み潰したような顔をした。


「生々しいこと言うなよ。

 あいつは俺のこと兄貴呼ばわりするんだぞ。そんな相手に告白なんてできないよ」


 なんて女々しいことを言う神田に、俺は呆れた。ガタイがいい割には度胸のない男だ。


「お前、覚悟を決めた方が良いぞ。告白する覚悟だったり、樺菜が別の男に取られる覚悟だったりだ」

「うう……」


 なんて日本酒の入ったカップを片手に唸っている。煮え切らない男だ。

 翌日の日曜日、俺は夕方彼女の家を訪れた。神田は結果を聞くのが怖いのか姿を現さなかった。

 樺菜はなんだか複雑な顔をして部屋にいたので、「今日はどうだった?」と訊いてみると、


「約束通り、一回のデートだけで終わらしたよ」


 と樺菜はそっけなく答えたのだった。

 詳しく話を聞くと、最初はそれなりに楽しく過ごせたそうで、楽しそうに話してくれた。ただ、喫茶店で午後のひとときを過ごしていた時、ある話を話題に出したそうだ。


「その子、渚と付き合ってたことがあるんだ」


 どうも、その相手というのは樺菜の友人である渚と、罰ゲームか何かで付き合った経験があるそうだ。そのことの話題になり、彼女はついこう伝えてしまったそうだ。


「渚は卒業したら東京を出るよ。伝えてないことがあれならば今のうちだよ」


 その話を聞いて、俺は顔を歪めた。

 こいつは男の気持ちを何もわかってない。そんな恋愛経験ゼロの樺菜に言ってやった。


「そいつと渚は終わった関係なんだ。そいつが真剣に付き合いたいと思っている女性は、樺菜、お前なんだ。

 それをお前は過去のことを引っ張り出して突き放したんだぞ。

 それに、そいつが渚と別れたのは、お前のことが好きだったからかもしれないって事を忘れるな」


 俺の話を聞いて、彼女は申し訳なさそうに顔を曇らせ、俯いてしまった。少しは反省しているようだ。


「今後もお前に好きだと言ってくれる人が現れるだろう。これからはそういう相手の気持ちを考えて付き合うようにしろ」

「こんなおとこ女に声をかけてくれる人なんているかな」


 そんなしょぼくれた様子の樺菜に、俺は笑った。


「お前は素材が良いんだ。髪でも伸ばせば、あの渚や百合を超える美人で可愛い女に変身するさ。

 心配するな、俺が保証する」


 俺の言葉に、彼女は俺を見上げて笑みを見せた。

 そう、お前はその笑みを毎日見せたいと思う男を見つければいい。お前が見つけなくても、その笑みを毎日見たいと思う男が向こうから現れるさ。

 心配するな、それまで俺が見守ってやるから。


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