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東は樺菜を見守りたい  作者: 小林弘二
1/10

1.出会い

本作は、本編である「log ~八方美人で優柔不断の俺がダラダラとチャットしてたらトンデモないことになった話~」の番外編です。

本作は非常にネタバレが多い作品なので、本作を読む前になるべく本編を読んでいただけたら幸いです。

 俺の名前は東のぼる。今年で二五になる。


 俺には古くから付き合っている女友達がいる。付き合っている、という言葉には語弊があるかもしれない。仲の良い、と言い換えた方が正解だろう。

 その女友達の名前は小原樺菜。

 彼女との付き合いは六年になるのだが、その彼女との年齢差は実に七つ違う。

 彼女は来年大学を迎えることになる高校三年生。そう、一八歳の現役女子高生である。


 ここまで読んで気付いてほしいのだが、彼女と出会うこととなる六年前というと俺が大学一年の時、彼女は小学六年生だ。今思うと妙な巡り合わせだと思う。

 今の彼女のことを話す前に、その当時のことを話しておこうと思う。



 彼女との出会いは俺が大学一年の時、バイトで始めたゲームセンターでだ。

 彼女は夕方頃から現れ、早くて一時間ほどで帰るが、遅い時には九時ごろまで居座ることがある。

 小学生が長時間居座るほどのお金を持っているのか疑問に思った事があったが、彼女のプレイを見て納得した。テトリスやアクション、シューティング然りと、ゲームオーバーになることなく、ワンコインで延々とプレイしているのだ。


 初めて彼女に注目したのは、そんな他愛のない疑問からだったのだが、正直、最初は男の子だと思っていた。

 黒いズボンに背中にマリア様がプリントされたパーカーを着て、妙に男の子っぽいのだ。


 男の子に感じたのは、着ているものだけでなく、その髪型も関係しているだろう。

 クリクリとした大きな目をした、とても整った顔をしているのだが、どういうわけかその髪型は男勝りのショートカットなのである。

 男にしては可愛らしい顔立ちで、女にしては着ているものとその髪型が男っぽいのだ。


 初めて彼女に話しかけられた時、ついマジマジとその顔を見てしまったほどだ。

 そんな顔で見ていたら、彼女は笑って、


「女だよ、わたしは」


 と、訊いてもないのに答えてくれた。



 小学生が九時まで居座っていた時には、さすがの俺も心配になって話しかけたことがある。


「うちの両親、いつも帰ってくるの遅いから、家にいても退屈なんだ」


 そう答えたのである。

 話を聞いてみると、彼女は一人っ子で近所に住んでいるそうだ。


 たまにガタイの良い男性が彼女を迎えに来るのだが、最初は年の離れた兄貴かと思ったら、どうやら彼女が言うには『親友』だそうである。

 その親友の名前は「神田政志」と言い、たまに家に来ては飯を作ってくれたり、食材を買ってきたりしてくれるそうだ。


 一体どういう経緯で、その男が家政婦のような事をしているのか訊いてみると、ただ一言、「気が合ったから」と答えたのである。

 答えになっているのか分からないその回答を聞いて、正直心配になった。


 とはいえ、そのガタイの良い神田という男は俺より年上らしいが、ゲーセンに居座る彼女を迎えに来る彼を見る限り、人当たりのよい青年に見える。

 しかし、なぜその男が一回り近く年の離れた小学生に尽くしているのか、俺には理解ができなかった。


 そんな様子の俺に彼女は、


「神田のことが気になるなら、今度、家に来いよ」


 そう言ったのである。

 小学生だからだろうか、まるで同級生を家に呼ぶような感覚だ。



 それからしばらくして、バイトがない日に、バイト先のゲームセンターで待ち合わせをして、彼女の家へ向かった。

 正直、小学生と横に並んで歩いていて妙な感覚だった。

 俺、何やってるんだろう。


 彼女の家は、上野にあるとは思えない立派な一戸建てなのだが、家に上がって彼女の部屋に通された時、そのあり得ない光景に驚愕した。


「おぉ、おかえり」


 そう迎えたのは例の神田だった。

 その神田の他にもう二人の男性がいたのである。その三人で、その年発売されたばかりのスーパーファミコンのエフゼロをやっていたのだ。


 なぜ、樺菜の家に他人がこうもたくさんいるんだと驚いていると、隣にいた樺菜が、


「新しい友達連れてきた~」


 そう言って、樺菜は俺のことを紹介してくれた。


 神田以外にいた男性は、俺と同じぐらいの二〇代で、児島と吉田と言うそうだ。

 どうやら、この四人でテレビゲームで遊んでいるところを、樺菜だけが抜けて俺を迎えに来てくれたようだ。


 所狭しと妙な機械類が散らかる部屋に、大人四人と少女一人がいるこの光景を客観的に見て、なんだか笑えてきた。

 なんだ、このシュールな光景。



 彼女の部屋には、不思議なものが多い。

 分解されたテレビやラジオ、ラジカセがあったり、組立て途中のビデオデッキなんかがあったりする。


 これは何かと彼女に訊いてみると、


「ジャンク品を買って、修理して売ってるんだ」


 そう答えたのである。


「小学生が修理してるだと?」


 驚いてそう聞き返すと、彼女は愛嬌のある顔で笑い、言葉を付け加えた。


「この年だとバイトできないからね。金稼ぎの一環だよ」


 その答えに、感心を通り越して末恐ろしさを感じた。

 なんだこのスーパー小学生は。


 後日談になるのだが、壊れたベータのビデオデッキを樺菜のところへ持っていったら、本当に直って返ってきた。

 家に帰ってベータで保存した『プロジェクトA』を久しぶりに観た。

 ジャッキーのアクション映画はやっぱ面白いよな。


 さて話を戻して、改めて神田を含めた三人を観察してみると、神田は気の利いた兄貴といった感じで樺菜と接している。飯の時間になれば樺菜と相談して、作るのか、出前を取るのか、外に出て食べるのかと甲斐甲斐しく世話をしている。時には勉強を見てやっているようだ。


 児島というボサボサの頭をした男は、樺菜に漫画やアニメ、ゲームなどの話を振って盛り上がっている。いわゆる『おたく』な男なのだが、彼が話すおたく分野は幅広く、特撮、国内外のテレビドラマ、映画、音楽と、今思うと、彼女の雑学的な豊富な知識は彼から得たものだと考えられる。


 吉田という男はパソコン好きで、彼女にパソコンの話題を振っている。どうやら、パソコン通信の存在を彼女に教えたのは彼のようで、俺も興味持って話を聞いた。


 どうやら樺菜の趣味や知識は、この周りの連中から吸収したのだと理解できた。


 その後、しばらく彼女の家に通うことになるのだが、そうすることで気付いたことがある。

 樺菜の家に訪れるたびに、誰かしら他人がいるということだ。


 児島と吉田は週一、二回ぐらいの割合でいるが、神田は週の半分近くの割合でいる。それだけでも俺を心配させたが、それ以上に心配したのは、この三人以外にも男が何人か現れたのである。


 俺が見る限り、大体は無害なのだが、一人だけ警戒しないといけない人物がいた。

 武田という男で、大抵ゲームをしに来ている二〇代の男なのだが、時々見せる樺菜へ送る視線が、なんというかイヤラシイものだったのだ。

 小学生に向ける視線じゃないことに気づき、俺は武田がなにかやらかす前に行動することにした。


 トイレに立った彼の後を追うように俺も立ち、俺は武田に言ってやった。


「お前はもう樺菜とは関わらない方がいい」


 そう言うと、彼は驚いた様子で俺の顔を見た。そんな彼に、俺は続けて言った。


「お前は樺菜にとって悪影響になる。

 俺のことは知っているだろ? 樺菜の行きつけのゲーセンでバウンサーをしているのは知っているよな。用心棒だ。

 俺がどうしてこんなこと言っているか、分かるよな?」


 それだけを言い、俺はみんなが集まる部屋へ戻ってきた。


 みんなが集まる部屋には武田は戻ることはなく、「武田はどうした?」という樺菜の質問に、「帰ったみたいだぞ」と言ってしらばっくれてやった。


一度公開された作品ですが、シリーズ化した一つの作品として投稿することにしました。


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