チェックメイトだとしても
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エマさんは年下。六人目のバディ。初めての女性。新たな理想の権化、アバター。エマさんとはすぐに寝た。そのうち少しイジってやっただけで両脚が自然と開くようになり、人一倍気前良くよがった。
あたしはエマさんが気に入って、いろいろと話した。エマさんはそのたびこくこくとうなずいた。「あたしは、一人目のバディからいろいろ教わったんだ。飲む打つ買うってところかな?」と教えてあげた。
「飛鳥さんは、その男性と……?」
「いい質問。寝なかった。誰よりも女好きだったのに、彼、それだけは、あたしに教えようとはしなかったから」
「どうしてなのでしょうか」
「彼の墓石に訊いてみるといいかもしれない。ただ一つ、言えることはある」
「それは?」
「死ぬのが自分の仕事。そんなふうに思っているところがあったんだ」
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銃規制がかたちを成してから、えらく時間が経過した。銃火器はレアさを極め、だからそれらを使った犯罪も珍しくなった。火薬の匂いを漂わせるのは一部の公務員だけになった。
かと言って、性善説を信じていいほど世の中は甘く穏やかではないし、どうしたって「悪者」はいる、現れる。その「悪者」――「異形」はあたしの半身を削いでくれた。誰よりも大切だった双子の妹を……。以来、戦っている。戦い続けている。自らの誇りを天秤にかけて。
かつての相棒、二人目の相棒を思い出す。思い出さない日なんてない。真田君、真田君? じつはねあたし、妹のことを忘れるわけにはいかないいっぽうで、あんたのことを愛していたんだ。あんたが「女房になってくれ」って言うんだったら、あたしは剣呑でアンタッチャブルな立場を放棄して、家庭に入るつもりだった。だったらそうだよ真田君、きみはどうしてあたしにそう言ってくれなかったのかな。はなはだ疑問だよ。あたしが失ったモノは、なにを顧みようがどうしたって大きすぎる。いまのあたしは喪失感のカタマリだ。
あたしの人生はとっくに行き止まりで、神さまからチェックメイトを宣言されているのかもしれない。でも抗おうとするのは、あたしにだって意地があるからだ。「異形」を殲滅することはできないだろう。けれど身体が朽ち果てるまで戦ってやる。
まずはエマさんを守ってあげないと――と考えていた矢先に、彼女は死んでしまった。またもや現れた「異形」――巨大カワウソにガブガブされて。
人生は儚い。
あたしの愛したニンゲンは片っ端から死んでいく。